背後から肩を抱かれても、碇ユイは驚いたりはしなかった。
「なにしにきたの?」冷淡にそっけなく尋ね、ゆっくりと蛇口を閉じる。
「ずっと見てましたね、そんなに気になった?」ユイの質問には答えずに、少年はくすりと笑った。
「ええ、ほかの人もいっぱいいるところで、あんなふうに女の子とじゃれあうものではないわ」
ユイは穏やかに少年を糾弾した。
二人が話しているのは先週末の駅での光景。
碇ユイがふと通りがかった駅のコンコースで、少年は壁にもたれて談笑していた。
相手は少年と同年代の癖毛のショートカットがかわいらしい少女。めいっぱいのお洒落が微笑ましいミドルティーンだった。
少女はとても楽しそうで、とても嬉しそうに「彼」を見上げておしゃべりしていた。
目をきらきらと輝かせ、全身から幸福感を漂わせて。
それはとても微笑ましい光景で、通り過ぎる人々を微笑させた。
しかし、その光景を眺めているうちに表情を強張らせる人もいた。
碇ユイもその一人だった。
ささやき
なぜなら「彼」は、その美しい少年は、ワンピースをまとった少女の言葉に微笑みそしてうなずきつつ彼女の小さなお尻を撫で回し続けていたのだから。
「どうしてですか?」
ユイのすぐ耳元のささやきは笑みにあふれていた。
「可哀想だわ。あの子ったら気づかないふりをして、一生懸命あなたに話しかけているんだもの」
ユイは指摘する。少女は健気にも、デートの相手が彼女の愛らしいヒップをゆっくりと撫でる手を無視し続けていたのだった。
その手がワンピースを撫で付けるように動くために自身のお尻のかたちが「観衆」にはっきり分かってしまっていることも知っていても。
執拗に腰周りから双丘をうごめき包み込む手のひらによって、少女はじりじりと少年へと身を寄せることになって、なかば抱かれるような……いや、下半身を少年の腰に押し付けるようなポーズをとっていることが分かっていても。
「あの子がずっと話し続けていた理由、分かっているかしら?ずっと話し続けていないと、あなたのそのいやらしい手のことを意識してしまうからよ。うつむいたり、拒否してしまうとあなたを失望させてしまうと信じていたからだわ。あの子……」
「マナって言うんです。彼女」少年の言葉遣いは明確で断定的で、だからユイの体温はさらに上がるのだった。彼は続ける。「霧島マナ。クラスじゃ『オトコオンナ』って言われて、男子とも仲がいいんですよ」
ユイは唇を噛んだ。
「そんな子をあなたは晒し者にしたのね」
「彼女は拒絶しませんでしたよ。一言も」
「ええ、そうよ。だからあなたはひどいのよ」
ユイはじっと自分の指先を見つめて言った。
……そのマナという少女は性について意識しないことでクラスの友人たち……同性だけでなく異性とも……関係をうまく作っていけたにちがいない。
その少女に彼は教え込んだのだ。彼女がまぎれもなく「オンナ」であることを。
快楽と諦念とをセットにして。
自身が選ばれた喜びと、捨てられるのではないかという恐れを対にして。
だから彼女はそれを受け入れたのだ。
親密を装っていやらしく身体を愛でられることを。
抵抗しないことで行きかう人々に大声で宣言するのも同じと分かっていても。
……わたしはカレとせっくすしました!
……おおきく脚をひらいてカレにオンナにしてもらったんです!
……いっぱいっぱいずぶずぶぬるぬるシてもらって、すっかりカラダが覚えちゃったのでちゃったから、もうカレから離れられません!
……今日もこれから、カレに可愛がってもらうんです!
……わたしはカレのモノなんです!わたしはカレのオンナなんです!
清楚な白いワンピースに、かわいらしいサンダル姿でその少女、霧島マナは全身でそう宣言「させられた」のだ。
「あなたは本当にひどい男の子だわ」ユイは繰り返す。そうせざるを得なかった。
「オトコオンナ」だった乙女を目覚めさせ開発しつくし貶めた指で、「あの日の」マナと同じようにヒップを腰周りを馴れ馴れしく刺激されているユイはそうせざるを得ない。
「好奇心だけで女を抱いて、虜にしてもてあそぶのよ。あの子と同い年のくせをして……ッ」
「ベッドルームに行きませんか?」陽光が窓から差し込むキッチンであっけらかんと告げる少年はあくまでも自己中心的だった。それなのに年上の女性にささやく声はひどくやさしくそして甘いのだ。「シンジ君がゲームに飽きてキッチンに来ちゃうと困るでしょ?」
「いやよ」ユイは断固として言った。「息子とその友達が遊んでいる隣の部屋でセックスなんて」
「じゃあトイレで」にこやかに息子の同級生はユイに提案した。「僕のペニスを好きなだけ舐めながら、両手を使ってオナニーするんです。気が狂いそうなくらいいいそうですよ」
「『いいそうですよ』って誰にやらせたの?……あのひとね、ミサトという綺麗なひとね、あなたのお姉さんを名乗ってるけど……ウソでしょ。弟と出歩くときにあんなにいやらしく指を絡めて歩いたり……しないわ」
ふふ、と少年は笑う。
「ここでやってもいいんですよ。ジーンズとパンツを膝のところまでずらして、ユイさんの太腿に挟んでもらったら気持ちいいだろうな」
「好きにすれば。ほかの誰かさんと違うのよ。わたしは」無意識のうちに太腿をすり合わせていることに気づいたユイの言葉は荒くなった。
「ふーん、冷たいね」少年の両手のひらが左右からやわやわと彼女のバストを持ち上げて遊び始めた。けれどもユイは身を硬くするけれど、彼から離れようとはしない。
「決めた」少年は宣言した。「ユイさんの着ているもの全部脱がせて、手を縛っちゃうんです。あのときみたいな『かくれんぼ』をしませんか?今日の『鬼』はシンジ君だけでなく相田君や鈴原君もいますが」
「お断りです」ユイの口調は静かだった。けれどもその唇が震えていることは彼女自身が知っている。
◆ ◆ ◆ それは先週のことだた。
碇ユイは全裸でタオルで後ろ手に縛られたまま、その美少年に犯されたのだ。
どんなにきびしく拒絶しても、固く身体を縮めても、彼の美しい指がうごめくうちに碇ユイはエプロンもスカートも剥ぎ取られてしまっていた。
あれだけ激しく暴れたのに、ブラウスのボタンがひとつも外れることなく彼女の滑らかな肩を滑り落ちていく。
「声を、声を出すから、シンジに助けてもらうか……ら」
抱きかかえられて食卓の上に「置かれた」ことに気づくのに数瞬が必要だった。
こてん、と押し倒されて膝にキスされて、気がつけば足首からショーツが抜かれていた。
そして気がつけばユイは全裸になっていた。
背後に回った手はかすかに湿ったタオルで腰の後ろで固定されていた。
「さ、行きましょう」軽くお尻を叩かれて、彼女は廊下へふらりと歩き出したのだ。
彼女が目指したのは寝室。
もちろんそれはこの拘束を解き、何かを身にまとうため。
しかしそれにはまず彼女は息子の部屋の前を通る必要があった。
薄く開いた息子の部屋のドア……コミックのページをめくる音すら漏れ聞こえてきた……の前を足音を立てずに通ろうと努力しているのに、そのすぐ後ろから笑い声をたてて声をかけてくるのはその息子の同級生で残酷でかつ言語を絶するほど美しい少年だった。
「どうしたの?母さん」と壁越しにかけられる優しくのどかな息子の声に「なんでもないわ。カヲル君に洗濯物を持ってもらっているだけ」と答えられたことにユイは安堵と勝利を感じたのだった。
そして全身を汗で濡らし後ろ手で寝室のドアノブと格闘する彼女を少年は好きなだけ玩具にしたのだった。
形のよい指が胸の尖りを摘んでは擦りたて、痛々しく恥ずかしく鳶色の乳首を勃起させた。
縦長のおへそをくるくるくすぐった美しい指がそのまま下へ降りてきて、叢に隠れた肉襞を引っ張り、はじき、かき回し、あふれた蜜を肉真珠に塗りつけて遊んだ。
ぬるりと侵入する指をかわそうと身をよじったときにようやくドアが開いて、碇ユイは寝室へと倒れ込み、そしてそのまま大きく脚をひらいた姿勢で中学生を睨みつける。
中学生離れした身長の少年が落ち着いてジーンズのベルトをはずし、ファスナーを下ろす。
ジーンズを脱ぎおろし、固くそそり立つペニスを強調するようなデザインのビキニパンツを脱ぐさまを友人の母親に見せつけている少年は、碇ユイがもう逃げないことを知っているようだった。
そして少年はくすくす笑ってユイの膝をつかんでぐいとひらき、自身の右手でわざわざ角度を下げたペニスを彼女のぬるぬるになった肉花へこすりつける。
ユイはぎゅっと瞳を閉じる。
男子中学生が腰を沈めたのはその直後。
少年よりもはるかに年長の女性は彼のペニスを根元まで銜え込む数秒のうちに深く絶望的なアクメを迎えることになる。
しかし彼女はけして声を立てなかった。
男子中学生の太くて硬いペニスに蹂躙されているあいだ、彼女は彼に差し出されたタオルを噛み締めて、固く目をつぶってそれが終わるのを待っていた。
少年が子宮に届くほどの勢いで大量の精液を放った瞬間、ユイの美しい裸体が痙攣しながら喜びを表現しても彼女は顔を背けてだまっていたのだった。
◆ ◆ ◆ 「冷たいなぁ。ユイさんは」提案を拒絶されても彼は愉快そうだった。
「わたしをほかの誰かと一緒にしないで。シンジが悲しむから許しているだけ。あなたのものになんてなるわけないわ」彼女の言葉に少年は寛大な笑みを浮かべたのち、また楽しそうに別案を示すのだ。
ユイは少年を睨みつけたまま唇を噛む。
やがて彼女がゲームに興じる一人息子とその友人たちに「あ、あのね、カヲルくんは急用ができたので急いで帰らなくちゃいけないそうなの、だ、だから、お母さん……車で送ってあげなきゃいけない……の。いい?」と意を決した表情で告げ、息子の「そうなの?母さんがいいなら……いいけれど」という気のない返事に「じゃ、ちょっと行ってくるからね」とにっこりと微笑み、無意識に発散させてしまった色香で少年の友人二人をどぎまぎさせるのだ。
そうして家から一番近いラブホテルで、碇ユイは少年に熟れた身体を提供することになる。
無言で衣服を脱ぎ落とし、拗ねたようにベッドに腰掛けるユイは隣の少年に抱き寄せられ、顔を覗き込まれた。
「ユイさん」その美しい少年はあくまでも尊大だった。「早く終わらせないと、シンジ君が心配するよ」
ユイの冷たい美貌が紅潮する。それは怒りによるものだった。
「いいわ、どんな台詞で鳴けばいいかを言いなさい!マナって子に言わせている台詞でも、あのミサトってひとがあげるハレンチな叫びでも、キョウコがなんどもなんども繰り返す言葉でも、あ、あ、アスカちゃんが泣きながらする『お願い』でもなんでもやってあげるわ!どんな『お芝居』をあなたはお好みなのかしら?カヲルくんは?」
「ああ、ああ、あなたっ!あなたぁ……ごめんなさい、ごめんなさい!シンジに、シンジに弟できちゃう、こんなに出されたら、だめ、だめぇ」
少年の背中に両手を回し、むっちりとした太腿を彼の腰に絡めてユイは泣いている。
「ああ、ああ、こんなおばさんを虐めてなにが楽しいの?友達の母親を玩具にしてなにがうれしいの?ああ、あなた中学生なのに、なのに、どうしてこんなにすごいの?どうしてこんなに感じさせられちゃうの?ああ、どうしてこんなに素敵なの?」
大きく開いた膝をつかまれて、ぐいぐいぐりぐり腰をグラインドされた人妻はシーツを握り締めて叫んでいた。
「同級生を妊娠させたりしたら、わたしが許さないわ。だから、全部出し尽くしてしまいなさい!ほら、ほらぁ!」
少年の上にまたがって破廉恥に腰を振る美女は、Cカップの美乳を下から伸びる手にこねくり回されつつ命令する。
「お、おしりのあなぁ……もっといじってぇ。ユイのくりとりすをコリコリしながらおしりのあなをいじわるしてぇ……」
女性上位のシックスナインの姿勢で彼女はよだれをたらしつつ、固いペニスをくわえようとぱっくりと紅いぽってりとした唇を開く。
先端からこぼれる透明な汁を顔中に塗りたくられていた彼女は、それをにゅるんと吸い込むとそれだけで全身を震わせて感動を表現する。
「すき!すき!すきぃ!ユイはカヲルくんがだいすきなの……あん!」
ゆるゆる抜かれるペニスに媚肉を絡みつかせて甘え、ぱん、と突かれた瞬間にひどく無様で淫らで美しい表情をショートカットの美人妻は浮かべつつ、大ボリュームのヒップを高く上げて「カレ」に後ろから貫いていただいて涙を流して喜んでいた。
「……無様だわ」ビデオの画面を眺めているユイはぽつりと言った。その表情には嫌悪にまみれていたが、それは自己嫌悪ではなかった。
「すばらしい女優ぶりでした。じゃ、消しちゃいますから」カヲルは笑うと消去ボタンを押す。ユイはかすかにうなずいた。
「気持ちよかったですか?」ユイはカヲルをまっすぐ見たまま首を振った。少年はにっこりと微笑む。
「やっぱりユイさんはそうでないと」
「なんども、なんどもわたしはイったわ。でも、わたしの心はぜんぜん気持ちよくならなかった」
「手厳しいなぁ」
「ええ、あなたのセックスには愛情のかけらもないから。あなたはただ、コレクターとして、あるいは実験の対象として女を抱いているだけだもの。あるいは自分の魅力を確認するだけなのかしら」余裕たっぷりの少年はユイの言葉に肩をすくめる。口元の笑顔はなくなっていた。
◆ ◆ ◆ 「じゃあ、また今度」車から降りた少年が手を振った。すぐそばまで駆け寄ってきたビジネススーツに身を固めたグラマーな美女がお辞儀をする。ユイを見つめる瞳にはかすかな殺意すらあった。
「また遊びに来てね、シンジが喜ぶわ」ユイも軽く手を振ったのち、パワーウインドウのスイッチを押す。
熱気と騒音がさえぎられたのを確認し、ルームミラーを覗く。
鏡の中では凛とした美女がビジネススーツに包まれた胸がひしゃげるほど熱烈に「弟」の腕にしがみついて「ただいま」の挨拶をしていた。それはまるで久しぶりに飼い主にかまってもらえた愛玩犬のようだった。
……なにが姉よ……みっともない。それにしても……あなたはなにを望んでいるの?
たしかミサトと言っていた女性に内心で問いかけつつ、碇シンジの美しい母親はアクセルをそっと踏んだ。
……異常だわ。いえ、狂っている。
ユイはハンドルを握りつつ思う。しかし彼女はあの美少年に強いられる肉の交わりを完全に拒絶するつもりはなかった。
……だって、この悦楽の坩堝から抜け出す方法はたったひとつしかないのだから。
……ユイのなかで「彼」と極北の存在にある少年への想い、それを認める以外におそらく道はないはずなのだ。
……おそらく、今夜、宿題も途中で投げ出してベッドに入ってしまった「彼」を優しくゆすって起こし、その耳元で彼が想像したこともない淫らな母親の行状を、少年の同級生相手にくりひろげた今までの不貞を報告し、その母親に怒りそしてたっぷり欲情してしまった「彼」に犯されれば、渚カヲルという存在は姿を消すのだろう。
……たぶん、自身のお腹をいため、特別な異性として十四年間接し続けていた「彼」に恋をしていることを認めていれば、そもそも渚カヲルは現れなかったのかもしれない。
碇ユイはぶるっと震え、何度もかぶりを振った。
……それはできない。それは許されない。それは道に反しているのよ。
だが碇ユイには分かっている。
彼女の「幸福」のために遣わされた天使は、いつかその任を果たすであろうことを。
Original text:FOXさん
Illust:ネコメさん@汁絵板
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)