同窓会にて
Original text:引き気味
『 彼との淫らな秘密アルバム (下) 』
「アスカ……」
「…………」
はあっと、ヒカリの口を突いて出る溜息。衝撃を受けた様子は無い。
「アスカ、教えておいてあげるけど、その言葉って女の子が使うのには下品だわよ」
「……葛城三佐に似てきた」
レイもぴくりとも顔色を変えずにいる。つまりは平素と変わりなく、彼女にとって眉を動かすほどのことでもなく、という意味。
それは既に言わずもがな。秘密裏の写真モデルの話が出た時点で、自分がそうだったのであればアスカもだろうと、レイにだってヒカリにだって、推測出来ていたことだ。
また同時に、向こうからもやはり推察されただろうと想像出来ていたことだった。
―― ヒカリに、優等生も、かぁ。呆れちゃうけど、やるわね、あいつ。
―― そう、そうだったのね。
―― この綾波さんが、相田君とセックスを!? 一体全体、どんな顔をして……。あの中学の頃でしょう?
お互いがお互いに何とまぁと悟りつつ、口にしないでいただけのことである。
こっそりと二人きりになる時間を作って、裸になって男子と過ごす。そんな機会を二度、三度と重ねて、エスカレートしないわけがない。
芸術だどうだと言葉をいくら飾ろうと、女の子が胸をはだけてヌードを晒してしまえば、淫靡な空気を帯びるのは避けられないのだから。
過程はあったにせよ、結局はまたアスカは、レイは、ヒカリは、ケンスケに口説き落とされていた。
撮っても良いわよとヌード撮影に頷くまでにされたのと何も変わらず、次第に過激さを増していく撮影の延長として、肉体関係を受け入れたのだった。
なら、友人もモデルをしていたのかと知れば、同じところに頭が回るのは当然だ。
ヒカリの場合、あれだけプライドが高くて高慢なくらいだった親友が、ああも女の子受けの悪かった彼と……とそこに驚きはあったにしても。
けれど、どうだろう。ヒカリ自身だってあの頃を考えれば、生真面目一本槍で男子にきつくしていたクラス委員長、そんなキャラクターだったのだから。アスカやレイからしてみれば、それこそ意外だわと思われたに違いない。
(ああもう、何もかもお互い様よね……)
いちいち驚きようのない、変な納得をもたらす心理がここに生まれていた。
◆ ◆ ◆ (それにしても……)
隣を歩くレイの、深窓のお嬢様然とした淑やかな様子を見つつアスカは考える。
話を聞いても、自分が同じ秘密を抱えていた分想像しやすかったにしても、しかし意外だったわと。
先程、まずアスカが感付いて思い浮かべていたのは、空き教室の床にM字開脚のポーズで寝そべるレイの姿、レイの顔だった。
青白いほどの肌の裸身を晒し、男の手、指一本にさえ触れられた気配は無いのに、無毛の秘裂は既にしとどの有様。我慢出来ずに拙い手付きで―― きちんとしたやり方も知らない幼児が、もどかしく未熟なオナニーで火照りをいなそうとしているかの手付きで、クチュクチュと粘音を立て続けている。
そして、蒼銀の髪と同じ色の眉根を垂れさせた恨みがましい目付きが、目の前に立つケンスケへと。
自分でなんとか慰め続ける傍ら、かくも発情しきった“雌”を醸す己にしっかりズボンの股間を勃起させているくせ、そのくせストイックめかして尚カメラを構え続けている彼を、恨めしく、物欲しげに。潤んだ赤い瞳でもって、
(抱いて欲しい)
と雄弁に訴えかけている、貌。
けれど、覚束ない指にこねまわされていた小粒のクリトリスがびんびんに疼き叫び、最上ではないにしてものオーガズムがレイに与えられようとすると、ケンスケは、
『ん、そこでストップ』
『はぁんっ、あっ、ぁ……あぁ……あ……?』
憎らしいことに、その場しのぎに身を任せるつもりでいたC感覚アクメを取り上げてしまう。
『シャッター切るから、さ。そのままでじっとしといて。……ああ、ダメダメ。指動かしちゃ』
『で、でも……』
汗の浮いた喉を喘ぎ喘ぎさせつつ、神秘性の美貌を今はインモラルに上気させたレイの抗議にさえ、どこ吹く風。
『おっと、でも手はそのままで頼むよ。そんな、いかにも敏感になってますって感じにお漏らしさせてるんじゃ、触れさせとくだけで辛いのは分かるけど。今のそのポーズが欲しいんだから』
あえて付け足す注文は、あと数回ばかりその指の腹で圧迫、ぬるぬるの蜜まみれで転がしてやれば―― 甘い電撃を味わえそうな、そんな瀬戸際から引き返さず、進みもせず、そのままでいろというもの。
『…………』
いよいよ、レイの浮かべる恨みがましさが募るばかりだ。
手慣れすぎているケンスケの指で刺激されるのと比べれば、自分でするオナニーなんて遥かに不満足な代用物。であっても、曲がりなりに果ててしまえそうになっていた秘核はすっかり包皮から起ち上がりきって、敏感な表面を全てちんまり露出させているのに。そこに指を載せたまま、耐えろとは。
この焦れったさ、やっと気持ち良く先送りに出来る。そう、切なく喘ぎつつ安堵したところへ、こんなお預け。
ならば寧ろ、早くデリケートな部分から手を引かねば、刺激は一転して拷問と化すというのに。
『あ、あぁ……ぁ、あぅ……ん、んんぅ……。っく、くうっ……』
我知らず、卑猥に揺すり上げてしまう腰。
太腿の付け根を開け放ったポーズ、くぱりと開いた秘唇の縁に、そえたままの人差し指。その腹に、膨らんだ肉粒を擦りつけるだけで良い。
気付かれない程度にそっと、ぬめる潤滑油を帯びた接触部へ圧を加えるぐらいで良いのである。
たったそれだけで、背筋に甘い電撃が走っていく。―― なんて素敵な!
けれど、腰の奥の熱くなった部分が渇望するまま果ててしまえば、さすがに隠せない。動けば写真が撮れないと、禁止されたのに。
(は、早く……!)
歯を食いしばってレイは願う。
肉悦の何たるかも知らない未通女ならともかく、セックスをたっぷり覚えさせられていて。絶頂間際で焦らされる女の子の頭の中なぞ、それだけで一杯だ。
『そのまま、そのまま……顎を上げて、こっち見て。レンズ見て』
今にしもアクメへと向かう、全裸少女の一人遊び。レイに今与えられているのは、そんな情景のモデルを務めること。
姿勢を保っていろと言われるほど、行き場を失った官能が精神の内を暴れ狂う。
胸の先は尖りきって疼く一方。
かくかく、かくかく……と細かく震える、大股開きに固めた足膝。「M字開脚」、基本用語だぜと彼が教えた。
ねっとりとした愛蜜を裸の尻に敷いた床へ垂れ落とさせてしまう下腹部では、ここはもう思い通りにならぬ無毛の秘裂、初々しいピンクの肉ビラがひきつりを繰り返す。
ああ、はやく……、と。
―― ぱしゃり。
そうしてフラッシュが瞬いた瞬間、
(なら、もうっ)
と、うっすら泣かんばかりなっていた顔を喜悦させかければ、また、
『じゃ、今度は横から。あと、後ろから肩越しにってのもいきたいし、そのままでね』
などと、酷いことを言われる。
『いじわるだわ……』
もはや言い訳でしかないモデルという役柄で、密会に足通わせる自分を誤魔化している少女では、そうやって吐き捨てるのが精一杯。
ケンスケの意図が見え透いていても、唇を噛んでじっと見上げるしか出来ないのだ。
やがてケンスケは、レイが頭の中を茹だったようにさせて、にっちもさっちも行かなくなった様子を見て取った辺りに、次の行動へ出る。
モデルがあまりにいやらしくて素敵だから、だからカメラマンがおかしくなっちゃ、きちんとした写真が撮れなくなってしまう。それでとりあえず、余計な衝動を処理してしまわないとね。などと、うそぶいて。
学生ズボンのファスナーを下ろし、取り出す、彼の興奮の証。先端から先走りを滴らせる、欲情しきったペニス。
レイは、ああと息を漏らす。
濡れきった瞳で、自分を貫いてくれるのだろう直角のそそり立ちを、頼もしく見詰める。
けれどケンスケはファインダーを覗いたまま一人でしごきだして、言葉の通り「処理」してしまおうとする。
愕然とし、待ってと手を伸ばしかける少女は一度惑う。押し止めて、それから何を言おうとしたのかと羞じらって。
(……でもっ)
そんな躊躇も遂には振り切らせるのが、躯で覚えた快楽の程。そのペニスが、ケンスケの巧みな腰遣いで女を突いてくれる深い悦び。口に出される精液の味。腹の奥で受け止めた粘性の飛沫が、熱を染みこませていく愉悦―― 。
加えて、羞じらうのも今更だという事実への正しい認識だ。
浮気という言葉、裏切りの意味、きちんと識ってはいる。けれど、人払いを保証された待ち合わせ場所へと向かう足は止められなかった。
この時までに何度この後ろ暗い密会の場に臨んで、ケンスケとの情交に耽ったことか。
後ろ暗いと理解しているがゆえに、彼のような卑劣な男以外の誰にも求めることは出来ない。
他の誰に、まさかシンジに見せられようものか。
(こんな……)
浅ましく見苦しい、自分の姿。
とんでもないことだと、こんな真似の一方でどうしようもなく恋心を抱えたままの少女なら、考える。
キノコの形そっくりに膨れあがった相田ケンスケの亀頭に唇を寄せて舌でしゃぶりあげながら、吹き出す射精を顔面中に浴びたことだってあるのだから。
しっかり写真も残っているだろう。
自ら望んで、やったこと。
以前の撮影の時、同じように自分を放っておいて「処理」をはじめた彼にとうとう、どうせ放つなら自分に味わせて欲しいと頼み込んで記録されたもの。
『そ、その方が……あなたが喜ぶような、良い写真に出来るのではないの?』
『……へへ、凄いな。ぶっかけ写真、撮らせてくれるって?』
必死に考え、ひねり出した理屈だったが、ケンスケは褒めてくれた。そして、首を伸ばす彼女が吸い付きやすいよう腰を屈めて咥えさせ、精液の顔面シャワーを浴びせてくれたのである。
無論、そうやって口に少年の性器を受け入れ、無様に頬を膨らませたり歪めたりしている所にも、シャッターは切られ続けた。
彼のくれる快楽に、とうに心は繋がれている。
改めて自覚し、生唾を飲んで。やはり私はもう……と、決心の息を一つ悲しくこぼすと、レイはケンスケを見詰める。
どうする? と分かっていて目で訊ねている、ケンスケを。
『はぁ、ぁ、……ああぅ、ぅ……んんっ。あいだ、くん……』
座り込む床の上、背を丸め、いつの間にか止められていたはずの自慰を再開させつつ。
その前にカメラを片手、もう片手で剥き出しにさせた勃起をしごいて立つ少年との距離は、互いの放つ濃密な雄と雌の匂いさえ嗅ぎあえるほど、近いものなのだ。
後はもう、一声出して請い願うだけ。
一度、二度と重ねていれば、また再び口にするのも抵抗が薄い。
かくして二人のシルエットは一つに密着し、ごく自然に行われたオーラルセックスを経て、固い床をベッドにした愛慾遊戯へと至るのである。
『良いぜ、いいぜ、綾波っ。綾波のマンコ最高! おっぱい最高、アヘ顔最っ高ー!』
『ああっ、相田君ン……っ。あいだ、あいだっ……君んんんーッ!』
レイの左右に手をつき、覆い被さって抽送のストロークを激しくするケンスケ。ズボンとブリーフを脱ぎ捨てて下半身を出した彼は、寝そべるレイの股の間にしっかりと腰を挿し込んでいる。
それをレイは、生まれたての小鹿のようにガタガタと震える両肢を持ち上げ、挟み、絡めて、繋がり合う。深くしっかりと、味わうために。
時折に伸ばされた手で胸を揉まれるのを、心地よさそうに首うねらせ受け入れつつ。
『ああっ、あ、あううっ。んぐっ、ンぅっ』
息切らせながら、何度も何度も唇を吸いあって、二人共に汗みずくだ。
額に貼り付いた前髪でレイは片目を開けられなくなっていて、それでももう片目だって物はまるで見えていない有様だから、気になどしていない様子。
ただただ、舌を突き出し、声を放ち、涎を顎に垂らして、男に合わせ全身をうねらせ続ける。
虚ろな目で。狭い膣穴を、同級生の膨張しきったペ二スにきゅうきゅうに穿り回される快感で、わけも分らなくなって。
『良いぜ、どんどんよがれよ。俺のチンポがいいって、ひぃひぃ喘げよ!』
『ええ、ええっ。良いの、良いわっ。相田君の……ああ、熱いのが、堅いのが!』
『もっとだぜ。もっとっ! あ、綾波があふんあふん言ってるだけで抜けるってのに、マンコにずっぷりとか堪んねーっての。出るっての。一度や二度ぐらいじゃ終わんないくらい……っッ、で、出るって!』
『相田く……っあふ、はッ……っあああっ!? あひぅ……ううンっ、ッぁ、熱い―― ぃ、いいいっ、あいだくぅ……ッンンン!!』
相田ケンスケが上げる満足そうな呻きより、少女の放つあられもない叫びの方が遥かに多く、遥かに声高く、真っ白な肢体は慄きに慄き続けて―― 。
そんな濡れ場のレイを、アスカは思い浮かべたのだった。
それこそ、彼女自身の体験をそのまま置き換えてのもの。いつかの暑い空き教室で撮られて、『14歳、夏〜いじりながら口で。最後は顔に』と無造作に裏書きした写真での記憶なのだった。
(うわ、見たい。見たいかも。こんな澄まし面の女が、ああいうドロドロのエロ顔してるとこ……!)
アスカは興奮した。
もう肉体は疼いて疼いて仕方無く、早く貫いて欲しいのに延々と焦らされているという、そのぎりぎりのライン。込み上げる一方の浅ましさが遂にプライドを上回り、無様に少年の膝に這い寄ってペニスをねだる。あの頃アスカが抱えこんだ無様な矛盾の、最も露呈した瞬間瞬間。
モデルになるたび毎度ぱしゃりぱしゃりと撮られては、後でプリントアウトしたものをひらひら見せつけられ、自己嫌悪に黙り込まされる―― 一方で、どうしようもなく淫らがましい貌に写っている自分から目を背けきれず、気付けば不思議と魅入られさえしていた。
それらと似たような表情を、さっきあの時、同窓会パーティーの会場で、ケンスケに見詰められたレイが浮かべていたのではないかと思い付いて。
◆ ◆ ◆
「そっかー、再来月には旦那持ちになる洞木ヒカリさんのFカップおっぱい育てたのは、今をときめく相田ケンスケさんかぁ」
「なによ」
ぷくっと頬を膨らませたヒカリは、人のこと言えないくせにとお返しのようにその旧友の胸を小突いてやった。
「んー?」
「んー、じゃなくて。アスカの場合、それ育てたの碇君だってことじゃないとマズいんじゃないの? 綾波さんも」
これだけからかわれれば、ヒカリだって意地悪し返したくなる気分だったのだろう。『その辺、どうなのかしらぁ?』と見やる流し目は、もう少女のものではない。
けれどもそれを言えば、相手の方こそもはや子供の頃のあのアスカではなかった。
「いーのよ。ちゃんとバージンはシンジのやつにくれてやったんだから」
私も、私もと、レイが自分を指差す。
「あの馬ぁ〜鹿には、それでも過ぎた御馳走ってやつだわ。御馳走し過ぎな位なんだから」
「そういう問題じゃないでしょうに。そんなことだから未だに、なのね。碇君も大変だわ」
「何がよぅ。そもそもいつまで経ってもはっきりしないで、ふらふら浮気ばっかりしてるシンジがいけないんでしょ。シンジが」
従って、こっちがいくら浮気してようが文句を言われる筋合いはない。そもそもが、昔の話であるわけだし。
そうアスカは胸を張った。
なるほど、思春期の少女にありがちな潔癖さを抱えていては、到底言ってのけられない台詞ではある。
「……まぁ、私も碇君のこと弁護するってつもりじゃないんだけど」
でもとヒカリは続けた。
「そもそもを言い出すくらいなら、中学の時のアスカは碇君にはっきりしろなんてこと言える立場だったかしら。全然素直じゃなかったと思うんだけど……。その割に、相田君とはそれ位の頃からってことになるわよね?」
「えーっと、そのね。それは……」
指摘されたアスカの目は泳いだ。泳ぎに泳いだ。
泳ぎ着いた先でなんとなく目をぱちくりとさせていたレイは、アスカがはっと期待らしきものを目に輝かせた途端、
「…………」
可能な限り自然な素振りで、そっぽを向いた。
「……あんた」
さっきからみたいに『私も』とは言ってくれやがらないのか。所詮、当てに出来るやつじゃないのは分かってたけど。
そんな引きつりがアスカの頬にひくひくと刻まれる。
「……その、ね? シンジが先に手を付けてくれないのが悪いのよっていうか、一緒に暮らしてたんだから味見くらいしてくれてれば綺麗に収まってたのにっていうか……。その、そういう時だったし。」
ごにょごにょと、あからさまに苦しい言い訳を連ねてみもするが。やはり、お世辞にも胸を張れる立場でないことぐらいは分かりきっている。
あの頃の歳、女子中学生としてはこの上ない非行。
同居人の少年との、互い憎からず想う気持ちは確かに通じ合っていた―― 関係を前にしては、これ以上ない背信。
クラスメイトの前での、いくらか大人になった今からすればお山の大将気分だったと苦く笑える振る舞い方、プライドにも、影で続けていたケンスケとの関係は泥を塗っていたに等しい。
威勢良く肩で風を切ってみせていたのを、颯爽としていると憧れてくれた者だって少なくなかったのに。
知れば誰もが指差し糾弾したことだろう。
たったさっき別れたばかり、同窓会でまたこんな自分を持て囃してくれたみんなが、表情を一変させて軽蔑してくる。それが当たり前なだけのことをやらかしていたのだ。
いや本当に、あの頃のアスカはひどい嘘吐きだった。
決して表沙汰にするわけにはいかない。だからこその、中学以来隠し通した秘密。
当然としての、つつき探られるには痛すぎる腹。
昔からのアスカをよく知るヒカリに探り当てられてしまえば、当然ながら立場は弱かった。
「なんていうか……相田のやつはそこら辺凄い積極的で、全然違うなーって思っちゃったのよね。で、毒を食らわば皿までって気分にさせられちゃってたような、不覚だったかなーっていうか。それに……」
「それに?」
「その、それにね」
じとっとした視線をヒカリに注がれ、散々口ごもった挙げ句。しかしアスカは、すっかり開き直ったようだった。
ふぁさっと婀娜っぽい仕草でその自慢のハニーブロンドを耳から払いのけ、ポーズを取る。
そして、鮮やかなルージュを差した唇で、声色いやらしく言ってのけた。
「―― 皿の方も、意外と美味しかったし」
おまけで『それで、ちょっと癖にね?』と可愛らしく付け足して、なにか誤魔化したつもりだったのか。そこには少し、照れも見えていた。
ハリウッドの女優のような美女に成長しておきながら、そんなところには小悪魔な少女っぽい魅力も残している。反則だわ、とヒカリは思った。
見れば、さすがに気恥ずかしくなったのだろう。こっちはこっちで惚けてなのか、未だに何かぶつぶつと呟いているレイを構うことで、話をそらそうとしているのだった。
「あんたねぇ……。いつまでも何よその、むっちりって」
「……アスカ、教えて」
「なによ?」
「揉んで、彼はあなた達の胸を育てたのでしょう?」
「いやまぁ、素で聞かれるとさすがに答えにくいって言うか……」
「その、ねぇ……?」
決まり悪そうな顔を見合わせる親友同士。
レイはぼそりと、ヒカリのその男好きのしそうなヒップに視線を注いで言った。
「それなら、このお尻は相田君が叩いて育てたの?」
一瞬の間が、三人の横を過ぎっていく。
「…………。叩いてって……」
「……あらま、あいつったら」
言葉の意味が分らない未通女は、ここには居ないのである。
三人が三人とも、ある意味において同じ相田ケンスケによって仕込まれた女たちだった。
カマトトぶってみせるのも今更。発覚したあまりに興味深いそのネタ―― レイってば、どんな写真撮らせてたのよ? ―― に視線を交わしあうと、息のあった親友同士、二人は根を掘れるだけ、葉を掘れるだけ、聞き出そうとした。
そうして、レイが返す正直すぎるぐらい正直な答えでもって、呆れっぱなしにさせられたのだった。
◆ ◆ ◆ 「……変態プレイ? そんなこと、彼は言わなかったわ……。昔から人気のある伝統的な装飾法で、私の肌だととても似合うからって……」
「綾波さん、凄いわ……。ていうか何? 一歩間違ったら、私も縛られたりしてたってこと? 中学生だったのに」
「うーわ、興味深い。興味深いと思わない? ヒカリ」
「私はむしろ、これ以上は聞かないままの方が良いんじゃないかって気がしてきたわ」
「ダメよ、ダメ、ノーだわよ。さっきも言ったでしょ? 毒を食らわばって」
アスカはますますテンションを上げていた。先程のバッグから携帯を取り出して、何処かへと慣れた手付きで登録を呼び出し、電話をかけ始める。
「アスカ……?」
誰にと尋ねるヒカリに、彼女は短く答えた。『マユミによ』と。
「え、ええっ!? なんで?」
マユミ、山岸マユミさんなら確か―― と。
ヒカリは反射的に思い出していた。
お開きも間際の会場で、人目から離れるように一人端に置かれた椅子へ腰掛けていた彼女。
目に留まったのは、そこで彼女が言葉を交わしていた誰かが、いつの間にか寄ってきていたケンスケだったからだった。
立ったまま覆い被さる寸前に腰を屈めて顔を近付け、何事か話し掛けていたケンスケ。その熱心そうな横顔。
ヒカリが見る限り、マユミもまんざらではない様子で応じていたが。
「興味無い? 中学の時からそれだけ変態極めてたあいつの、そっちの方の腕。今じゃどんなもんか、って。」
にやりとアスカは笑顔を浮かべていた。
瞳はどこか濡れた輝き。目元には、大人の色気漂う酒精の火照り。―― いや、それはアルコールの力だけによるものか。
ヒカリが一度も見たことのない、背筋を妖しくぞくりとさせる笑い方だった。
「あいつ、私にはそういうプレイ一度も誘って来なかったのよね。結構チャンスあった筈なのに。なんでなのかしら」
それって……と青ざめて、しかしヒカリは聞き返した。
「で、でも、山岸さんの番号でしょう? それ」
「察しが悪いわねぇ、ヒカリ。見たでしょう? あいつらが意味深に話してるの。それで、どっちも二次会から消えてたってことは、今頃ぐらいには……。ほら、出た! もしもしぃ、マユミ〜?」
電話に出たのはたしかに山岸マユミだったらしい。けれども、ヒカリが見ているとすぐにアスカは『替わってよ』と要求し、更に驚いたことに―― いや、やはりと言うべきか、電話の相手は相田ケンスケに変わったようだった。
「良いとこで邪魔して悪かったわね。まぁ、怒らないで頂戴よ、あんたにとっても邪魔された分以上に嬉しい話持ってきたんだからさ」
今、その電話越しに彼が居る。相田ケンスケが。山岸マユミと一緒に。
そう考えると、急に胸がドキドキとして止まらなくなってきたヒカリは、次に親友が振り返って尋ねてきた時、咄嗟に答えることが出来なかった。
「で、どうする? ヒカリ。私たちと一緒に……行く?」
あまりに華やかに、まさに美女と呼ぶに相応しい成長を遂げた親友のブルーの目が。
輪を掛けて神秘的に、侵しがたい美しさを身に付けた旧友が、その深紅の瞳で。
ヒカリにどうするのか、尋ねていた。
「わ、わたし……」
どう答えるべきか。夫となるべき相手を待たせている身なら、考えるまでもないと分っていたのに。
その時、ヒカリの脳裏に蘇っていたのは、相田ケンスケ少年が構えるカメラの前での記憶だった。
眩いフラッシュを浴びせられる度、何故かぼおっと考えを巡らせることが出来なくなっていって、一枚一枚服を脱いでいっていた、あの時の気持ち。胸の高鳴りなのだった。
From: 【エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)