The Birth of New Century

Original text:引き気味


『 産声 』


 サイアム・ビストは齢百を越える老人であった。
 しかし、その老人は地球連邦政府が禁忌とする「ラプラスの箱」を用いてひたすらに財と力を蓄え続けてきた、宇宙世紀そのものの暗部と呼んで良い怪物でもある。
 たとえその身が延命のため繰り返してきた冷凍睡眠によって衰弱し、すべての設備を脳波コントロール操作対応としたこの場所でなければ、寝台に横たわったまま身動き一つ叶わない有様であったとしても。
 けれども、ユニコーン・ガンダムに導かれた旅路の果てに辿り着いた彼女たちを迎えた箱の守り人は、氷室とも呼称される施設に箱と共に身を置きながら、決して瞳まで冷え切らせてしまったような老人ではなかった。
 老人自身の血を受け継ぐバナージと共にある彼女を見やる目には、守り続けてきたものを託すべき相手を見出せた安堵と、それ以上のぬくもりがあったと感じたのだ。

『……あれは、良い連れ合いを持った』
 戦場に向かうバナージを送り出したミネバに、老人が漏らした言葉が聞こえていたわけではない。
 ただ、認められたと伝わってきていたことには嬉しさがあった。
 受け継いだ者としての重い務めを果たさねばならない時であったとしても、それでもやはりミネバはジオンの姫としての決意だけでここに立っているわけではない。立っていられるわけでもない。
 一人の少女としての想いがあればこそ、地球と宇宙とに住むすべての人々の前に立とうという、その覚悟が出来たのだから。
 そしてミネバは、全地球圏へとその言葉を届けるべく用意された演台に立ち、後に「ラプラス宣言」として記録される放送を行うことで、「箱」の封印を解いてみせたのだった。

 かくして「箱」の魔力は失われた。
 地球圏の人々は明かされた秘密の持つ意味に戸惑い、地球連邦政府もまた混乱の中に立ち尽くした。
 放送を阻止せんとした連邦軍の艦は真のニュータイプへと覚醒したバナージの腕の一振りで無力化され、ミネバの親衛と化したネェル・アーガマのクルーたちは氷室を抱えた巨大艦「メガラニカ」の操艦にやっきになっている。
 今、氷室にはたった二人分の息遣いしか響くものは存在していなかった。

「クッ……! フッ、っ……。っッッ!!」

 歯を食いしばることで悲鳴をこぼすまいとするも、唇まで麻痺しかけた体のままならなさ。どうしても惨めな喘ぎ声が漏れ出てしまう。
 ザビ家を継ぐ者といえど、ただ一人ではあまりに無力な小娘の身。
 情けなさに無念の表情を浮かべるミネバのものと、

 ――案ずることはない。映像も音声も、この部屋の記録装置はすべて、わたしの心臓が止まると共に自壊する手筈になっている。

 もはや言葉を口にすることもなく、「氷室」の全天スクリーンに文字を表示させることでその代わりとしている老人、サイアム・ビスト。
 死相が浮かび始めた土気色の顔つきには似つかわしくないほど荒々しく獣じみた呼吸を、ぜいぜいと響かせている――。
 この二人だけだった。
 
「うぁっ、あっ、アアッ……」
 そしてミネバはサイアムの寝台から展開された大小10本を超えるメカニカルアームによる、完全な拘束下にあった。
 手首を吊るされ、背を押され、膝を掴まれ。そうやって鋼の腕によって強いられるまま老人に跨る格好を取らされて、心ならずも男女としての交合を強いられているのだった。
「ぁあっ、いやぁぁっ!」
 ジオン公国の名の下に遺された全てを代表する者として相応しくあるべく、凛々しく礼装を纏ってこの場に臨んだミネバからは、何も奪われてはいない。
 両肩からは尚、ミネバの華奢な躯を覆うようにした金刺繍入りのケープが背に翻っている。
 宙を藻掻く両手を包んだ手袋も、純白のそのまま。
 演説を終え、サイアムに呼び寄せられるまま寝台の側に近付いた途端、首筋に走った一瞬の痛みによって全身の自由を失ったミネバに、突如サイアムは機械の腕を襲いかからせてきた。
 守り人としての問いかけに対するバナージの答えを聞く内に険が抜け落ちていっていた顔が、一変していた。
 獣の形相でミネバに襲いかかってきたのだ。
 それでいて老人は、その意思を代行する機械の腕に少女の素肌を暴かせようとはしなかった。
 最小限の作業で済ませれば良いとばかり、作業に応じて大小が使い分けられる機械腕がミネバの着衣に施したのは、下腹部を覆う布地へと作った僅かな裂け目のみ。
 だがその、下着ごと切り裂いてきた一加工だけで、ミネバの操を守るものはなにも無くなってしまった。
 ここには少女を守ると誓ってくれた少年も、組織の意向から外れたところにまで付き従ってくれたガランシェールのクルーらもいないのだ。
 外気に触れさせた少女の性器に向かって塗布してきた、潤滑剤らしきぬめり。
 ミネバは突然の混乱から立ち直る間すら与えられないまま、あっさりといとも簡単に、老人の性器らしい強張りを迎え入れさせられてしまった。

「な、なんれ……」
 何故と問おうとした口は、その唇の端から無様に涎の糸を垂らさせてしまう。
 愛する者を得たばかりのこの時に、よりによって心を許しかけた老人によって操を穢された。憤りと悲しさとで目も眩むような苦境にあって、その悲憤をただぶつける程度のことすらままならない。
 白痴の者のうわ言と同然にしか唇が動いてくれないやるせなさに、ミネバは涙を流すことしか出来なかった。

――この隠し部屋へと通じる路もすべて封鎖されている。その情報ごと、あなたとわたしは今、あらゆる外界から遮断されているのだ。
――すべては私の死と共に抹消され、あなたは開放される。
――だが、それまでは私の意思をこそ、この部屋のあらゆる仕組みが優先する。
――今、この時は、あなたもその一部なのだ。

 老人は視力をも失いつつあるようだった。
 既にその瞳は虚ろで、無理強いした性行為によって心ならずも艶めかしく喘ぐ美貌の少女に向けられてもいない。
 事実として、老人の躯は刻々と一個の肉体としての終わりに向かおうとしているのだ。
 ミネバの秘部を貫いて隆々とその膣内でそそり勃っている屹立に、残るあらゆる生命力を集めているかのようにして。
 ――だが、それでもと。声帯の震えに依らない言葉でもって、ミネバに伝えてきているのである。

「ああっ、あっ、ぁあ……。ぁああ……」
 異様な火照りが、少女の躯を襲っていた。
 サイアムに跨った腰を上下させる破廉恥な動きを、メカニカルアームの介添えで強いられている。その負荷が息を荒くさせているという以外からの働きかけだった。
 経験も知識も年齢並一般の少女からは遠いミネバには言い表しようのない昂ぶりが、下腹部の深い部分から湧き起こっていたのだ。
 知らず知らずの内だ。いつの間にかこの行為を受け入れていたかのように、甘えるかのようにすら聞こえる鼻声でもって、切なく喘いでしまっていた。
「んく……っ、っっ。くすいを……、なんの、くすりを……ふかったのです……!」
 塗りつけられた潤滑剤によって行われているスムーズな抽送運動が、意識して努めて、それでも拒みきれない類のおぞましい心地良さを生み出している。
 下腹部に受け入れさせられた老人の強張りを、まるで好ましいものであるかのように。そう、彼女の肉体が錯覚しかける瞬間が生まれてきていたのだ。
(このままでは……!)
 言い表しようのない危機感がミネバを総毛立たせてくる。
 いくら男と女の交わりについて疎いとはいえ、生殖のための体の仕組みまで知らないわけではないのだ。
 死に瀕したサイアム・ビストの目的を察して、ミネバの精神は一人の少女として悲鳴を上げていた。

 ――たった一つの願いは、果たされた。
 ――新しい世界は、あなたたちが作っていけば良い

 そのためにもミネバの不利になるような痕跡を残すつもりはない、一切をあの世へと持っていくつもりだと、天蓋スクリーンシステムはサイアム・ビストの意思を文字に表わしていく。
 しかし、そうであっても、あと一つだけは遺していきたい――と。

「ヒッ……!」
 全天球の眺めが一瞬にして切り替わった。
 星空を背景に老人の言葉を表示していたスクリーンは一転し、そこには熱の分布を色分けにされたサーモグラフィー画像によって映し出される、今この時のミネバの状態が大映しになっていたのだ。
 可視化された体温を輪郭にする映像に、衣服は意味を持たない。
 そこには、青白く冷えかけた老人に跨って体温を熱くさせている少女の裸身が映し出されていて、その下腹部に一際赤くなったシルエットで深々と潜り込んでいる、サイアム・ビストの男性器が見て取れたのだ。
 全天モニターには分割ウィンドゥが幾つも浮かび上がり、それぞれが拡大した場所を肉眼では読み取れないほどに目まぐるしい分析表示と共に映し出していく。
 ミネバの小ぶりな乳房の頂きが火照りを強めながらやがてぷっくりと膨らんでいく様を。
 ミネバの性器から垂れ落ちた幾筋もの熱の筋が、サイアム・ビストの冷えた下腹に染み込んでいく様を。
 少女の、やがて愛する少年との子をなすべき器官のある周辺が特に活発になっていく様を。

「やめっ、やめふぇ……くださっ――!」
 翠玉の瞳を恐怖に見開かせて、ミネバはサイアム・ビストに許しを請わねばならなかった。
 そうしなければ彼女は、黙ってさえいれば全てが収まるべき所に無事収まる――バナージに謂れのない負担を押し付けることで成り立つ――お膳立てに乗らされて、サイアム・ビストの共犯者になる道を選ばねばならない。
 事もあろうに、老人がバナージの持つ遺伝子のルーツであるが故に。
 明晰な頭脳は、もはやそれを避け得る道が残されていないことを既に理解してしまってはいる。
 半ば絶望に塗り潰された慄きの只中、首筋から打ち込まれた薬剤によって受胎のためのメカニズムを狂わされたミネバの躯は、いっそ投げやりに、逃げ場のない終着点へと暴走していく。
(ああっ。ごめんなさい、バナージ……)
 胸の中で謝罪を繰り返すごとに、ミネバの下半身は様々な円弧を描き、うねっていた。
 今のバナージとそう変わらない年齢の頃のたった一人からはじめて百年近く。ビストの血脈を増やし、一族を作り上げてきた老人のそれはまさに古樹。比べればたった十六年生きただけでしかない小娘であるミネバが膣内に収めてしまうには、剥き出しの骨じみてゴツゴツとしていて、乾いていて。痛く、不快で、しかし熱を持っていて。
「うぁぁ……! あ、アッ。アッ、ッッ、つっ――ッ!」
 少女の体重で繰り返される寝台のきしみが、加速しているのだった。
 機械の腕が強制している行いだとしても、その無理強いはミネバの外側にあるものだ。しかし一方で、内側においては少女自身の敏さが、何に強いられるでもなくその幾つもの円運動の中から取捨選択を繰り返していく。
「あっ、ハッ、アッ、アッ……!」
 自らの花びらのような粘膜の内側を使って包んだ老人自身を、一往復、秘処の小さな入口に出入りさせれば、次の往復ではより意識して―― 意識しないようにして、見つけ出してしまったコースへと誘導していってしまう。
 メカニカルアームはそこまでを細やかに介助するものではない。
 体を上下に揺さぶられる中に付け足していって、少しでも体にかかる無理な負荷をやわらげようという、それはもう最初の言い訳と化していたのだろう。
 だろうとも現に、行為の始まりに塗布された以上の潤滑が生まれることで、ミネバのそこが受ける苦痛は軽減されているのだから。
 「あぁぁぁ……。あぁァァァア……!」
 経験という物差しでは比べる相手にもなりえないミネバが、右も左も分からないなりにほんの少しだけ気付いてしまったそこを、古樹の熱い強張りが踏み締めていく軌道。
 ズブ、ズズッ……とそこを擦り上げられて、華奢な顎が跳ね上がる。
 性感帯という言葉さえ脳裏にあったかどうか。しかしそれは女として生まれたミネバである以上、男というものを迎え入れるために生まれ持った器官の中に、眠っているのは当たり前のものなのだ。
 だからミネバは、たとえ老人が保証してくれていたとしても今確実に死期を早めようとしている中、どこまでその制御が確かなのか分かったものではないメカニカルアームに抗って傷を負うことを、まず避けたのだった。
 避け続けたのだった。
 『あぁぁ……。あぁぁあ……!』と調子を狂わせながら漏れ出る呻きが、氷室に啜り泣きのように響く。
 こんな時でも、老人の醜い我欲に高貴な肢体を穢されるままのこの状況下でも、少女のほっそりとした喉を奥からこみ上げて出る声は可憐で、どこか小鳥の囀りのようですらあった。
 囀りは高く、低く、続いた。
 そうして、自らの拙い腰遣いによって老人が迸らせた射精の迸りを奥深いところまで浴びせられて。
 その刹那、ミネバは自分は発狂してしまったに違いないと思い浮かべたのだった。
「ぁああ……! ァアアア、ッ。すごっ、いっ……こんなの……っァ、アアアアーッ!!」
 白目を浮かべてドクドクと自分の中に注ぎ込んでくるサイアム・ビストの痙攣を、体重の軽い躰で受け止めて。
 負けないくらいに自分も全身を痙攣させてしまって。
 諦めてしまったからなのかもしれないおかしな開放感に、諸共に自分も力み返った下腹から飛沫を迸らせてしまいながら。なんでこんなに気持ち良いのだろうと、呆然としながら。


◆ ◆ ◆


 戦火の只中を命からがら逃げ延びたことも一度や二度ではない。
 時には何日もノーマルスーツを脱げないまま過ごした経験があれば、後で処分するしか無いような有様になった下履きをそのまま、ジオンの貴種らしい振る舞いを装うことにも慣れるというものだ。
 汚してしまった礼装の上にノーマルスーツを着込み、接続を取り戻した回線で信頼する部下に連絡を取ったミネバは、ヘルメットのバイザーを鏡代わりに自分の顔を確かめた。
「…………」
 守り人であった老人が息を引き取ると共に火の落とされた氷室は、天蓋一面の星空を失ってしまえば、中途半端な広さがただ嘘寒いだけの空間でしか無い。
 ミネバが一時演じた狂態の名残も、ここにはもう残っていない。
 戦闘は収束していた。
 メガラニカはネェル・アーガマに先行して安全な宙域へと加速しているらしい。
 行かねばならなかった。
 ミネバには、行って出迎えねばならない相手がいる。
 タンッと床を蹴り、そして少女は0Gの浮遊感に身を委ねたのだった。





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From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(5)