Requiem fur Schicksalskinder 第5話
著者.しあえが
更に1年後。 今夜もアスカは男のベッドの上で啼いている。 昼はネルフの誇るエヴァンゲリオンパイロットとして活躍し、夜は社交界の華として内外に存在を知らしめる広告塔。そしてそれも終わった深夜には、ネルフ司令の愛人としての奉仕の日々を送っている。 今夜もまた男はアスカに、シンジの命を盾にストリップショーをさせ、存分に目を楽しませた後ベッドに引きずり込んでいた。 受け入れてしまう。 男を抵抗なく受け入れてしまう。 「ああっ! あ、やだ! あ、ああっ、あっ、あっ、あっ! きゃうぅ!」 リズミカルに突き入れられ、踊るように腰が跳ねる。 比較したくはないが、記憶にあるシンジのより大きく、硬く、熱いペニスに翻弄されてしまう。 どれだけ嫌でも、どんなに拒絶しようとしても。 「はぁ、はぁ、はぁ……ああ……あふっ、んんぅ……くぅ」 仰向けに横たえられたアスカは、上から伸し掛かる男を跳ね除けることもできないまま、根元まで挿入される衝撃で体全体を痺れさせる。凄まじい快楽に翻弄され、自分が女であることを思い知らされることにアスカは涙を流した。 (シンジ、シンジ……消えちゃう。お弁当の味、声、温もり……消えちゃう。あなたの思い出が、上書きされちゃう) シンジの事を思い、彼を守る為であっても他の男に身を任せる屈辱と裏切りにまた涙する。 「んぐううっ、ん、くぅ! はうっ、あうっ! もう、もう死ぬ、死んじゃう!」 腰をくねらせ熱い吐息を漏らすアスカ。蜜壺が熱く火照り、雌蜜の匂いが狂おしいほどに周囲に漂っている。酩酊したようにフラフラして今にも吐きそうだが、アスカは気絶だけはするまいと意識を振り絞る。切なげな吐息を漏らしながら、アスカは無意識の内に男にしがみついた。 「ふっ、最近は積極的じゃないかね」 「ち、違う。でも、なんで、こんなぁ。あうううぅぅ!」 男の手がこんもりと盛り上がった丘のような乳房の上で勃起した乳首をつまみあげ、汗の浮いたうなじを長く伸びた舌が舐めた。燃えるように熱い股間だけでなく、胸からも稲妻のような快感が走りアスカは目を見開いて呻き声を上げる。そんなアスカの反応に口元をゆがめた男は、赤子のように片方の乳房を口に含み、ピンク色の乳首を吸う。しつこく、執拗に。とんでもない贅沢品である本物のタバコとコーヒーの臭いが染みついた歯が乳首を甘噛みし、歯に挟まれてぷっくりと突き出た乳首を転がすように舌で舐め回す。 良いように乳首を弄ばれるたびにアスカの首が跳ね上がり、むせび泣くような悲鳴が木霊する。 「ひっ、はぁっ、あぁぁ……うあああっ、あっ、あ―――っ! やぁ――――っ!」 アスカが嫌がること、アスカが気持ちよくなることをすることにかけては男は右に並ぶものがいないと言って良いだろう。 かつてのミサトもかくやと言わんばかりに育った巨乳に浮いた汗を舐めとると、プリンの様な弾力をもつ乳房がプルンと揺れた。 「気持ち良くて、君の胸も黙ってはいられないようだなアスカ」 「くそ、畜生! あんたなんかにぃ!」 「相変わらず口の悪い事だ。いい加減、妻の自覚を持ってほしいものだね」 「誰が妻だっ! 勝手なこと言ってんじゃない! わたしは、私は! アンタのモノなんかじゃない! 私はフィアンセはシンジよ! 私のパートナーはあいつだけなの!」 アスカの剣幕に一瞬、怯みそうになるが切り札は全て持っていることを思い出し、フフンと鼻先でせせら笑う。 「だが、形式上だが愛人契約のサインし、四六時中私と一緒にいられるようパイロット兼秘書への転属届などは君の意志で出したと思うのだがね」 それに一緒に住むことを選んだのも、周囲に自分が男の愛人であることを仄めかすコメントをしたのもな、と付け加えることも忘れない。 「あんたがぁ! シンジを人質に強要したんでしょうが! あぐうぅぅ!」 「そうかもしれないが、決断して、行動したのは君自身の意志だろう? 第一、私に貫かれて悶えている状態で強がられても、怖くもなんともないよアスカ」 「名前で、名前で呼ぶなぁ! ああ、いや、もう、もう、やだ、やめてってばぁ。シンジ、シンジ、シンジぃ! うっうっ……あぅ……ん……………ぁっ…ぁぁぁ」 尚も言いかけたアスカの拒絶は、無理やり快感で押しとどめられる。首を後に仰け反らせて短い悲鳴をあげるアスカ。 ジンジンと疼くような快感に、言葉とは裏腹に歓喜の声を上げそうになる。だがふくらはぎを痙攣させながらも、無意識の内に男の腰を足で締め付けながらも、必死になってアスカは声を堪える。声を漏らしたら負けを認めたような気持ちがして、今更だが死になってアスカは耐えた。 (悔しい、悔しい……! でも、こいつの言うとおり、私は) 詰られながら乳房が弄ぼれるたび、その冷たい刺激が火照った体に突き刺さって、乳首を更に固くしていく。 今自分はどんな顔をしてるんだろう。真っ赤に頬を紅潮させて、涎と涙を流してアクメ顔を晒しているに違いない。 抜き差しされるたびに軽くイき続けて、どれだけ高みに上り詰められているだろう。この状態で「本気」の絶頂を迎えたら、いったいどんなことになるだろう。 何度犯され、何度経験しても決して慣れる事の出来ない魂を引き抜かれるようなあの快感。 思い出すことも恐ろしくも狂おしいあの感覚。 「おっと、騒がしいのはもしかして、今夜はまだ1回もキスをしてない事に対する抗議だったのかな?」 いやいやと首を振って否定するアスカだが、引き起こされ対面座位の体勢でキスされるのに抗うことはなかった。 「ん……いやぁ……ん、ちゅ、んんん」 「うむ、美味い。ちゅ、ちゅぶ、ちゅる、れろ……じゅ、ぶちゅり」 「は、あむ、うう! れろ…。うん、ちゅっ。ん……んん……んんん〜〜〜〜っ」 煙草が混じった男の唾液の臭いはたまらなく不快だが、唇を犯されるのはアスカが思っていた以上の快感だった。 (シンジじゃないのに、それなのに。私、キスされるのが好きなの? うう、シンジ……) アスカの思う通り、アスカはキスという行為自体が好きなのかもしれない。唇が触れた瞬間、キュンと胸が高鳴るのを感じてアスカは男にしがみついた、密着して押しつぶされたように胸がひしゃげて少し痛みを感じるが、痛みを無視してより強くアスカは男の胸にしがみついた。 「んんぅ…… ちゅ、くはぁあ、んちゅ、むぅ、んあ……んんっ」 ピチャピチャと唾液同士が絡み合う音を立てながら、アスカは男の唇を受け入れていく。キスされると、それだけで腰砕けになってしまう。 唾液の糸を引きながら男が口を離し、アスカの潤んだ眼を見つめながら好色な笑みを浮かべる。 「ふふ、ようやく素直になったようだねアスカ。いつもそうだと嬉しいんだがね」 頤を持ち上げ、優しくキスしながら男はそう囁いた。 「うあ、ああぁ。いぁ、やあああぁ、いやぁ。あたし犯されてる、犯されて、喜んでる。違うのに、こんなの私じゃないのに! ああああぁぁぁぁ…。はんっ! うあっ! あああんっ!!」 バックから犯され、汗をまき散らしながらアスカは呻く。肉欲がマグマとなってアスカを蕩かしていく。 肉棒を膣肉が締め上げる感触はアスカにも返ってくる。強く、強く締め上げるとゴツゴツとした男のペニスを全体で感じとってしまい、ズンッと鐘を突くような衝撃が返ってくる。ペニスが出入りするたびに、結合部から出口を求めて愛液が音をたててこぼれ落ちた。 「はうぅ、くひぃ! あへひぃ、うあっ…ひっ、ひいぃぃっ!」 張りのある無駄な贅肉のない太股を痙攣し、手は肩までブルブルと震えて今にも崩れ落ちそうになる。 空気を求めて喘ぐ唇からは燃えるような熱い吐息を漏らし、限界まで追いつめられてアスカは今にも焼ききれそうな意識を懸命に奮い立たせた。 (気絶、気絶は……ダメ。意識をなくしたら、また、朝まで……! もう、もうあんなのは嫌ぁ!) 「あっ、いや、だっ、ぇっ! あぅ、もう、良いでしょ! もう、満足したでしょ!? いい加減に、やめてぇ」 「ふふ、なにやら『また』無駄な抵抗をしているようだが、それならこんなのはどうかね?」 そんなアスカを屈服させるように、男はゆっくりとしたペースで怒張を根元まで挿入すると、次いで入れたときはと比べ物にならない速さで引き抜く。 「あぐううああああっ!! あうっ、あうっ! はあぁぁ──っ!!」 内臓が引き抜かれるような感覚に、もはや羞じらいも何もなくしてアスカは喘いだ。これ以上は狂ってしまいかねない…。そう恐怖しそうなほどの圧倒的な快感にさらされる。もはや感じていることを誤魔化す余裕もなく、アスカは髪を振り乱す様に首を振って喘ぎ、全身をくねらせて悶えた。 「あひっ! ひぃっ! もう、溶ける、溶けちゃう! だめっ! ああ、もう、もうっ!」 こんなに感じさせられてるのに、今日はまだ一度も本当の絶頂させられてない。それがたまらなく恐ろしかった。 自分の体の生理現象まで男に支配されてるような気がしていた。 「あああっ! あっ、ああああっ!」 あまりに強い突き上げに骨をきしませ、更なる快感の濁流に身を捩る。なのに、これでもまだイくことができない。 (まさか、私、マインドコントロールされてる?) 悦楽に脳を湯だたせながら、瞳を見開いてアスカは背後の男の顔を振り返った。 男は何も言わなかったが、その面白がって揶揄する様な瞳が全てを物語っていた。 「い、イヤァァァ―――!! 私の体に、魂に何をしたの!?」 ネタ晴らしはもっと後にするつもりだったが、こうまで楽しい反応を見せたとあっては言わないわけにはいかないだろう。 「なぁに、君の人格や記憶には全く手を付けてはいないよ。ただ、私の精液を胎内に感じてからでないと、君は絶頂できない。そんな風にちょっとした暗示をかけただけさ」 嬉しいだろ? 男はこれ以上ないほど邪悪な笑みを浮かべ、左右に大きく張り出したカリ首で持って、蠕動を始めている膣壁を抉るように突き立る。本来なら10回は絶頂していたはずなのに、イけないまま快感を蓄積されて、その刺激がアスカを追い込んでいく。どうにかして沈めないと焼け死にそうな火照りにアスカは絶叫を上げた。 「あうう、もう、うあああ、助けてシンジぃ! もうこんなの嫌よぉ!! やぁぁ─────!!」 最後に残った力で懸命に暴れるアスカ。 アスカをアスカのまま犯して支配することにこだわっている男だが、マインドコントロールが事実だとすれば、いずれその行為はエスカレートしていく。精神を壊してシンジの事も忘れさせ、ただ快楽だけを求める性処理人形にされるかもしれない。いや、既にそうされかけていてもおかしくはないのだ。 逃げないと。離れないと。 「放して、放してぇ!」 だが、アスカが力を入れるたびにキュウキュウと膣が男のペニスを絞り、言葉にできないような快感で包み込んでいく。下腹にズグンと固い異物を差し込まれたような感触に、自分自身の体に裏切られたように感じてアスカは苦い涙を流した。 「う、うう、ああ! ぃあっ、あうんっ!」 「おお、これは……」 予想外のアスカの動きは、男にも得も言われぬ快感をもたらした。もう少し焦らしてアスカの表情を愉しむつもりでいたが……。 (これはしてやられたな) まあ良い。 舌を出してぺろりと唇を舐めとりながら、男はアスカに身を寄せ、抱きしめるように密着させた。根元まで差し込まれたペニスの先端が、破裂寸前のホウセンカの種のように膨らみ、存在感を主張する。男の体温と臭いを間近に感じ、アスカは血走った眼を見開いた。 「ひぃっ!?」 男が何をしようとしているのか悟り、アスカは悲鳴を上げる。嫌悪で心が覚めていく一方で体がどこまでも熱くなり、迎え入れるようにビュクビュクと愛液が洪水のように溢れだした。 「はぁはぁ、はぁ、はっ、はぁ、はっ……ハァっ、んんっ、ハァハァ……くっ」 男の汗の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、股間を広がる痺れるような快感に身を震わせる。体内のペニスは焼けた鉄杭のように感じ、腹を焼き溶かし、ヴァギナの周りの肉が火が着いたように熱くなっていく。 「ンああっ! やだ、や、嫌ぁぁ! 抜いて、抜き……あぐぅっ、あ、ひぃぃ!」 「ああ、アスカ。我が妻よ。そろそろ私も限界だ。お待ちかねの濃いのを一発、君の中にくれてやろう」 「んひぃぃ、ひぃ、いやぁぁ! あんたのなんか、絶対に、死んでも嫌ぁ!」 目を見開き、叫び声をあげるアスカ。抑揚を付けた動きで突き入れられる下腹が内臓ごと蠢く。 何度されても決して慣れる事も受け入れることもできないこの行為。再び精液を注がれる嫌悪にアスカの体が大きく震えた。アスカは背骨を折れそうなくらいに仰け反らせ、羞恥と恥辱のあまりぽろぽろと大粒の涙をこぼした。 「う、ううっむ」 「出すな、出すな―――っ!! あぐ、あひあはぁぁ───!!」 男が呻くと同時に、生温くて愛液とは違うねばついた感触が体内に満ちていく。 「駄目っ! 駄目ぇっ! またっ! 来るっ! ひっ! ひああっ、やあっ! 来るぅぅっ!! ああ、か、体が! 体が変! 止まらない! ああ、熱いのが止まらない!」 射精を感じると同時にアスカの視界が真っ白に染まった。ガクガクブルブルと全身が戦慄くように震え、こめかみが脈打つ。 光が広がっていくと共に、途切れることのない絶頂感にアスカは壊れた玩具のように頭を揺らし、髪を振り乱して愉悦の声を上げた。今までせき止められ続けていた快感と絶頂が、鉄砲水のようにアスカの体内を駆け巡った。 「いや…あうっ、あうっ! はあぁぁ──っ!!」 つま先はおろか、髪の毛まで快感で満たされていく。 (―――シンジ!) 唐突にアスカの膣内が、きゅうと締まった。断続的な痙攣と蠕動が、なおも硬さと大きさを保った肉杭を求め締め上げる。まるで精液の最後の一雫まで吸い上げようとするかのようだった。 望まぬ反応を見せる肉体の裏切りに一瞬、縋り付くような目をして、涙を溢しながら固く瞼を閉ざした。 連続絶頂で焼けきれそうな意識の中、正気を保つために懸命にシンジの笑顔を思い浮かべるために。 「おお……なんという」 まるで精通を迎えたばかりの中学生の様な大量の射精だった。射精と同時に興奮で血管が拡張したのか、かなり強めの頭痛すら感じるが、それすら忘れそうな快感に男は腰を硬直させながら呻き声を上げた。アスカを支配するどころか、そのまま肉欲に落ちていきそうだ。 精液が結合部分から溢れ、アスカの内股を伝って床にこぼれた。 「ハァ! はっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 照明を絞ったい室内に濃い淫臭が漂う。 比喩でなく、本当に結合部から溢れるほどの精液が放たれていた。 通常の絶頂とは比べ物にならない快感の余韻に身を委ね、荒い息を吐きながらアスカはベッドに横たわっていた。余韻ではあるが、通常の性交に匹敵する快感だ。もはや指一本動かす気力も残ってはいない。 火照った体をシーツが優しく受け止めている。流れる汗が染み込み、暗い影が油膜が広がるようにシーツに浮かんだ。 「あぐ、うっ、ううぅ……こんなに、出す、なんて」 緩く開きっぱなしになったヴァギナから、精液と愛液が混じった泡のような液体がこぼれだしている。 だが拭ったり、姿勢を変えてみっともない姿をさらすのを改める体力は勿論、気力もアスカには残っていなかった。 このまま意識を手放し、シンジへの思い以外の全てを、この世界へのしがらみも何もかも忘れて、闇に飲まれたい。 「おっと、これで終わりなわけがないだろう?」 しかし、男はアスカを許さない。 こぶしを握り締める力もなくなったアスカを引き起こし、無理やり向きなおらせる。 「なによ、もう出すもの出したんだから満足したでしょ? もう、いい加減にしなさいよ」 「何を馬鹿な事を……。まだ日付も変わってないんだぞ。まだまだ君の体を味わいつくさないと、今夜は眠れそうにないよ」 「くぅうう」 突きつけられるアスカの愛液にまみれた男のペニス。 相手の意図に気づいたアスカが屈辱に全身を震わせた。 「私に、自分で……やれってこと?」 むっちりとした胸の谷間に押し込む様に突きつけられたペニスを、アスカは絶望と共に見つめた。 だが、逆らうという選択肢はない。 「この……変態」 アスカの腕が自分の胸を両脇から支える。震えているがどうにかしっかりと支えると、アスカの胸の中心に男のペニスを挟み込んだ。そのまま、ゆっさゆっさとアスカの胸が前後に揺すられた。 「うっ……うっ、ううっ」 「良いぞアスカ。そのまま丁寧に……。そうそう、前教えたとおりに」 肉棒の先端が窮屈な圧力を押し割り、胸の隙間を前後していく。再び男のペニスから先走りの汁があふれ、アスカの胸を汚していく。粘液がまとわりつき、抵抗の無くなったペニスがスムーズに出入りを繰り返していく。 「こんな……の」 いつまでこんなことを……? 「ふふ、胸だけで愛撫するのではなく、口も使ってくれると嬉しいね。それだけ早く終わるし、君にとっても悪い話じゃないだろう?」 ほらやっぱり。 口中に唾液をためると、アスカは舌先を伸ばして生臭い亀頭を口に含んだ。吐き気を催すと同時に、体の芯から熱くなるのをアスカは感じていた。 「あう、うううぅぅっ」 それから胸と口、手でも男を喜ばせ、噴き出る精液を全身で受け止めさせられた。 全身をべっとりと精液で飾り立てられたアスカは今度こそ、死んだ魚のような眼をしてベッドに横たわっている。 「……気持ち、悪い」 アスカはそれだけ呟くのが精いっぱい。 目からは正気の光りが失われ、早く阿世呼吸を繰り返している。涸れ果てたと思っていた涙が次から次へと溢れ出てくる。喉奥にまでべっとりと精液が張り付いて呼吸を邪魔している。金髪に染み込んだ精液が少し乾き、身じろぎすると髪の毛の癒着が剥がされてバリバリと音を立ててカスが零れ落ちていく。飲み切れず、鼻に入った精液の臭いにめまいがしそうだった。 (これで、今夜は終わり……) やっと、やっと……。 そのまま闇の沈みそうになった瞬間。 グチュリ 「……っ!! ……っ!?」 股間をまさぐられ、根元まで指を差し入れられた衝撃にアスカは目を見開いた。 落ちかけていた意識のスイッチが一瞬でONに切り替えられ、衝撃にアスカは歯を食いしばって声にならない呻き声を漏らした。 「あぐうぅ!? な、な、なにを、するのよぉ……?」 「なに、今日は特別なんだよアスカ」 「と、特別?」 目を見開き、男の言わんとすることを理解しようとするアスカだが、急な刺激に混乱したアスカは考えをまとめることもできずに、男の顔を見つめ返すことしかできなかった。 「ああ、そうだ。今日こそ君を私のモノにしてやるつもりなんだよ」 アスカは知らないが、ダミープラグでの疑似シン化形態への覚醒に成功したと報告があった。 一応、緘口令を敷いているがゼーレはすぐにこれを察知し、最後の使徒であるシンジを始末するよう命令するだろう。 (つまり、もう第三の少年は用済みなのだよ) 「アスカ、私を受け入れろ。未来永劫、眠りについたままの死体同然の第三の少年の事を忘れて」 「いや、いやぁ! 嫌よ! シンジを忘れる事なんて、できる筈がないでしょ!」 アスカの悲痛な叫びを、ふっと鼻で笑う。どこまでも往生際の悪いアスカ。 「なら、演技でも構わない。今だけは私を受け入れなさい。それさえもできないというなら、第三の少年は処分するしかないぞ」 「う、ううううっ。卑怯者……。絶対に地獄に送ってやる! あんたを八つ裂きにして、殺してやる!」 勢い良く叫ぶアスカだが、猛々しい声は徐々に弱くなっていく。 予想通りの反応を見せるアスカに男は目を細める。そして従前にタイミングを計り、アスカの心が隙を見せた瞬間、決して彼女が拒絶できないように言葉をつづけた。 「実をいうとね、ネルフの上位組織である人類補完委員会から、彼を近日中に処分するよう通達が来ているんだよ。だが、君が私の言う事を聞いてくれるなら……」 「あ、あああ、あああぁぁ」 再び硬さと大きさを取り戻した男のペニスから目を背けることもできず、哀切な呻き声を漏らすアスカを見つめながら、男は確信していた。 (今、彼女の心の防壁は単分子膜よりも、重力井戸の壁よりも薄くなっている) 徹底的に貶めてやる。その為にはなりふり構っていられない。今まではアスカが壊れることを恐れて、敢えて使わなかった薬物だって使うことに躊躇いはない。薬物のアンプルと注射器を揃えた金属トレーを横目で見つつ、男はほくそ笑んだ。 今夜こそ、彼女は堕とすことができる……。 そして、ネルフ司令「ジェームズ・ヘンダーソン」の妻であると魂に刻み、認めさせることができる……と。 「あぐっ! うっ! ひゃううぅぅっ! そんなに、突か、ないでぇ! あう、ひゃう! はうぅぅ!」 「良い声だよアスカ」 「あ、ああん! い、言わないでぇ! バカぁ!」 顔を赤らめ、否定するようなことを言うアスカだがその声はこれまで男が聞いたこともないくらいに甘い。 「ふふふ、こんなに締め付けてきて、こんなに蜜をこぼすとは……。そんなに私の事が好きかね? アスカ」 「ああん、あん、ああっ! そんなこと言われても、何もわかんない。わかんないわよぉ! ああん、でも、司令のこれは好きぃ」 薄く笑うと男は姿勢を変えて、より深く胎内を抉り込む角度で腰を密着させた。堪らず、アスカの腰が浮き上がり酷使された喉を震わせてアスカは喘いだ。 「あああん! あん、ああぁ〜〜〜!! ふ、深く刺さって、ひぐぅ!」 「そんなに気持ちいか?」 「気持ちいい、気持ちいです! 司令のおちんちん、気持ちいいわ。だって、固くて、熱くて、とにかく凄いんだもん!」 「司令、などと色気ない呼び方はしないでほしいね」 「はぁ、はぁ、あう、くぅん じゃあ、じゃあ……ダーリン。ジェームズ様。ご主人様、あなた……ああ、なんて呼べばいいのぉ?」 (変われば変わるものだ。こんなことならもっと早くに第三の少年を持ち出して薬を使えばよかったか) ニヤリとほくそ笑むと、勢いよくピストン運動を再開させてアスカの快感を貪っていく。グチュグチュと水音を響かせながら粘膜を擦り上げられる快感に、双方が再び耽溺し始める。 「ああ、ああ、あああぁ〜〜〜〜っ! 凄い、凄いのが来ちゃう! あっ、あっ、あ、あ、あっ! また、また、イっちゃう」 「改めて聞こうかアスカ。私の事が好きかね?」 一瞬の戸惑いがアスカの美しい顔に浮かぶ。 言えない。言いたくない。言ったら何もかもが終わってしまう。彼に対する思いを、自ら裏切ったことになる。 しかし……。 言わなかったら、この地獄はいつまでも終わらない。そしてシンジの命は相手の男の胸先三寸にかかっている。 「す……」 「うん? 聞こえんなぁ? ちゃんと口を開いていってもらおうか」 「……ケダモノ。あんたなんか、あんたなんか」 「今のは聞かなかったことにしてやろう。ほら、ちゃんと言いたまえ」 「うう、くぅ……。どうして、こんなことに。うう、く……ゴメン、シンジ」 男の戯言を遮断するように歯を食いしばり、唇を噛みしめる。 数秒の逡巡後、アスカは涙で濡れた目を見開き、固い決意を飲み込む。そして、叫んだ。 「好き! 好きです! あなたのこと、好きです! 司令とのセックス、大好きよぉ! 気持ち良いのぉ!」 遂に言わせた。薬で混乱させた結果だとしても、遂にアスカの口から好きと言わせた。 唇を舐めながらさらに男は続ける。 「第三の少年よりもか? 彼とどっちが気持ちいい?」 戸惑いながら瞬きを繰り返す。 先ほどより長く深い逡巡。一瞬、正気付いた眼が戸惑い不安げに揺れる。 「そ、それは……。ええ、なに、私、なにがどうなって……?」 グチュ! 「あぐぅっ!?」 再び深く突き入れられ、アスカは言いかけた言葉を詰まらせる。 「もう一度聞こうか。第三の少年と私と、どっちが好きなんだ?」 言いながら深く抉りこむように腰を動かし、アスカの最奥に刺激を加える。つま先まで伸ばして全身を震わせ、声にならない呻きを漏らすアスカ。かすれた喉でつばを飲み込むと、小さくアスカは呟いた。 「あ、ああ……はぁ、はぁ……シンジ……。ごめん」 「うん? なんだって?」 「好き」 「ほぅ? 誰が好きなんだいアスカ?」 ハァ、ハァ、と荒い息を吐き、懸命に呼吸を整える。否定しようとした瞬間、再び男の腰が動き、稲妻に打たれたように全身を痙攣させるアスカ。唇を噛む。その痛みすら、今は甘痒い。 「あなたが……」 「ほら口ごもらずに言いたまえ」 「……あなたが! 司令の事が、好きです! ジェームズ様の方が、シンジより、気持ちいいです! お願い、お願いしますっ! 誓いますから、だから、シンジを殺さないでぇ……あなたのモノに、あなたの妻に、なります。もう逆らいません、口答えもしません。だから、だからっ!!」 待ち望んでいた言葉を聞いた瞬間、高笑いをしつつ男はアスカの中に精を放った。 その感触に再びアスカの意識が高揚し、絶頂を迎えて甲高い悲鳴のような嬌声を上げる。 「ハハハハ、ちゃんと言えたな。ほら、ご褒美だ!」 「ひぃぃぃっ、許して、シンジっ! 許してぇっ! でも、私、私、もう! あああっ、ああ────っ!!」 そう叫んだ瞬間、アスカはこれまでのそれが子供のお遊びと思うほどの快感に全身を貫かれ、意識を焼け付かせていた。 (―――シンジ) 闇の中に輪郭だけが、ぼんやりと浮かんでいる。なぜか彼の顔が思い出せない。 その代わりに、男のにやけた顔が浮かび上がっていた 「あっ、いや、だっ、めぇっ! まだなの? 限界だってばぁ! いや、また来ちゃう! あ、ああ、あっ! お願い、もう、やめてぇ」 楽し気にアスカの嬌声をBGMにして、男は今もなお腰を動かしていた。正直、彼も疲労困憊の極みだったがようようにして手に入れたアスカを堪能する至福に比べれば、休息のための一分一秒も惜しくて仕方がない。 『なに? どういうことだ』 半ば気絶したアスカを犯しいていると、突然、緊急回線で接続されて男は険しい顔をした。 プライベートな時間を邪魔する無粋に額にしこりを浮かべて渋るが、次いで報告された内容に目を見開いて驚愕する。 『第三の少年が……、いや第9の使徒が解放、逃げ出しただと?』 ミサトらを筆頭に旧ネルフ関係者が裏で動いていた。おそらく、彼も……。 解放されたシンジはそのまま協力者の支援を受けてジオフロントに潜伏していたが、隙を見て初号機他が廃棄されていた廃棄層エリアに到達。そこで半ば石化していた初号機に搭乗した。もちろん、それもシンジ単独でできる事ではない。急ピッチで整備を整え、エントリープラグを挿入して搭乗できるように対応したのはリツコを中心とした技術者メンバーたちだ。 そして青葉や日向、ミサトたちが出撃準備が整うまで決死の覚悟で時間を稼いでいた。 「シンジ君……あとは、全て、あなたに託すわ。この世界はもう、ダメかもしれない。 でも、少なくともあんな男の思い通りにはさせてはいけないわ」 リツコがそこまで言ったと同時に、バリケードを積み上げていた扉が吹き飛んだ。 濛々と漂う煙を突破し、初号機の周辺にわらわらと武装した人間たちが集まってくる。 すぐさま応戦するミサトたちが何人も兵隊を撃ち倒すが、あまりにも戦力差は大きかった。多勢に無勢、間隙を縫って突撃してきた兵士が至近距離からミサトに銃口を突きつける。スローモーションに動く世界の中、うっすらとミサトは笑ったのが見えた。刹那、続けざまに顔面に銃撃を受け、電気ショックでも受けたようにミサトの体が跳ね飛んだ。ほぼ同時に青葉と日向、他にも多くの旧ネルフスタッフたちも倒れ、床が血で赤く染まっていく。銃声に紛れて呻き声が響くが、それもすぐに静かになった。 「ミサトさん……。リツコさん……。青葉さん、日向さん、マヤさん。 みんな、みんなごめんなさい」 確認するまでもなく息絶えているミサトを一瞥し、最後に残っていた人間としての意志でシンジはそれだけ呟く。 今まで説明を受けていたから、このミサトたちの決起がただのエゴから来る行動だということもわかっている。人類全体を考えたら、たぶん、みんな間違えたことをやろうとしているのだろう。世界の破壊者……そう呼ばれるのにふさわしい事を、これからしようとしているのだから。 だが破壊は……必ずしも悪ではない。 (逃げたくても逃げられない。自分に言い聞かせている。そんな奴もいるんだ) 『シ……っ!』 泣きわめきながら応戦していたマヤが倒れ、剃り残したひげが分かるほどの距離にまで武装兵たちが接近してきていた。 最後に残っていたリツコが、弾かれたように倒れ通信が途絶する。 同時にシンジは目を閉じた。 (さようなら、みんな。次の世界のために、か。僕はそんな殊勝な事を考えるほど、聖人君子なわけじゃない。いや、たぶんミサトさん達もそうだ。これからしようとすることは、ただの我がままだから。 本当に何やってるんだろうな。僕は……本当は、死んでも良かったんだ。ただ、最後に、君に会いたかっただけなのに) 「アスカ、綾波……。 裏コード999!」 寂しそうに笑うと、シンジは左目を隠していた眼帯をむしり取った。 緑色に発光する瞳を突き破り、飛び出る封印柱を抉りだす。噴き出る鮮血と激痛に絶叫を上げながら、シンジは指示されたとおりに真っ青な血液上の薬液『エンジェルブラッド』を自身に注入、さらに装置を起動させて初号機にも……。 「ウオオオオォォォォォ!!!」 声だけで人間たちが昏倒するように凄まじい絶叫が廃棄層に響いた。 初号機の全身が薄青く輝き、内側からの圧力で装甲が一瞬で弾け飛んだ。距離があったので気絶できなかったため慌てて逃げ始める兵士たちをタラップごと踏み倒し、初号機が身じろぎすると同時に肩甲骨の辺りから一対の腕が飛び出した。 次いで解放された額部ジョイントごと頭部装甲をむしり取り、初号機はトカゲめいた形状に変形した頭部をむき出しにする。乱杭歯の隙間から涎を垂らしながら、倒れ伏した兵隊たちを踏みにじって初号機は外に飛び出した。……可能な限り旧ネルフスタッフの遺体を避けていたのは、最後に残った彼の意志だったのかもしれない。 地上に出ると同時に初号機は雄たけびを上げた。 既に人間【碇シンジ】としての意思はなく、第9の使徒となり果てたそれは呼びかけに答えるようにジオフロント闊歩し始めた。 「シンジ、あんた本当にバカシンジよ」 薄青い煙が煙草の煙のように周囲に漂う。 硝煙ごしに見えるのは、アスカの搭乗する2号機・改の目前で倒れ伏す初号機だった存在。 いかにそれが圧倒的な力を持つ使徒とエヴァンゲリオンのハイブリッドだったとしても、この3年の間にさらに技術力を上げ、数を揃えたネルフの誇るエヴァンゲリオン軍団に勝てる筈がなかった。 むしろ、2機だけとはいえ量産エヴァを倒せたことが奇跡と言っていいだろう。 全身から煙を噴き上げ、ねじくれた手足を虫の死骸のように投げ出して初号機は沈黙している。 突かれ、切られ、叩きのめされ、それでも進軍を止めようとしなかった初号機は、あれほど再会を欲していたアスカの乗る2号機によって止めを刺されたのだった。 『よし、そのまま四肢を切断しろ。コアは無事だな? 準備が整うまで倒してはいかんぞ。そのままベークライトで固めてしまえ』 通信機から司令の声が聞こえてくる。 耳を塞いでそのままうずくまりたかった。愛する男を倒した両手を引きちぎり、投げ捨てたかった。男の言うことを無視して、アスカは初号機を抱き上げ、そのまま一緒に消滅してしまいたいと思った。 「いや、嫌よ。シンジ、行かないで……死なないでよ」 男の言うことに逆らえない。 言われるがままに既に瀕死だった初号機と戦い、倒したのはアスカ。 『予想外の事態ではあるが、第三の少年は死んだか。つまり、アスカ……君はこれで本当に私のもの、というわけだな』 涙があふれて止まらない。絶望の底に沈むアスカに男は馴れ馴れしく話しかけてくる。 親密さをアピールするように、秘匿回線で話しかけてくる男を殺してやりたいとさえアスカは思った。 シンジが使徒に汚染される切っ掛けになった3号機の移送。それは北米ネルフの事故が原因で起こったことではあるが、ゼーレというネルフの上位組織が介在しているのはわかっている。そして、ユーロネルフもその組織の傀儡であることも。つまり、現ネルフ総司令であるこの男が、それに関わっている可能性も十分にあるのだ。 「は……はい。その通り、です」 否定したいのに。自分のフィアンセはシンジであって、私はアンタのモノじゃないと声を大にして全世界に伝えたいのに。全身が瘧にかかったように震えるが、それでも男の言葉を、存在を無視することができない。 『むっふふふ。しかし、エヴァが2体も破壊されるとは完全に修理するまで補完計画の実行はストップしないといけないな』 準備が整うまで、また楽しめるな。そう囁く男にアスカは全身の毛が逆立つのを感じた。男に対する嫌悪と恐怖を、そして幾度も犯され続けた体が勝手に快感を思い出して反応する。 どこまで自分は浅ましく、堕ちるところまで落ちてしまったのだろう。男に抱かれ魂が焼け付くようなあの快楽に身を委ねたいと思っている自分がいる。あの鮮烈な快感を待ち望んでいる。 男の本音はわかっている。 口ではゼーレの計画遂行を繰り返し述べているが、どこかのタイミングでゼーレを裏切るつもりなのだろう。そして、世界の王となる……。 勝手にしろ。だが、その時、自分はどうなる? 『まあ、ともあれご苦労だったなアスカ。褒美と言っては何だが、今夜も可愛がってあげるよ』 心がささくれ立ったようにいらつく。一方で、股間が痺れたように熱くなり、プラグスーツ越しにいじりたくなるようなもどかしさを感じてしまう。濡れてしまったことをアスカは否応もなく悟り、アスカは声を抑えるためには唇を噛みしめ、再び涙を流した。 『どうしたアスカ? 返事は?』 「は、はい……嬉しい、です」 LCLに溶け込む間もないほど大量の涙が溢れて視界がぼやける。 また、今夜も……。 その時、アスカの視線が醜く欲望で肥大したネルフ司令の通話モニターに映る何かを捕えた。赤く見慣れないトークンが点滅している。その横には紫色で「01」という文字列が見える。 (これは……シンジ? シンジ!) アスカと司令との間だけを繋ぐ守秘回線だったはずなのに、なぜか初号機とつながっている。男が仇敵ともいえるシンジに聞かせるつもりで繋げたのだろうか? それとも、使徒となりながらも機能していた初号機の機能で接続されたのだろうか? 『なんだと!? バカな、動ける筈が……』 そのことを確認したりする前に、不用意に近寄りすぎていた2号機に初号機だったものが飛びつき、抱き付くというより絡みつく勢いで手足を巻き付けていく。途端にアスカの全身に激痛が走り、モニターが真っ赤になる勢いで様々な警告や警報が埋め尽くされる。 (浸食……融合……。汚染、危険レベル) 「な〜んだ。やっぱりあんた、私と一つになりたかったんじゃない」 気絶しそうな痛みだが、どこか懐かしい。これは、初めてシンジに抱かれたとき、ガムシャラで加減もわからず、ただきつく抱き付かれたとき。 (がっつきすぎよ、バカシンジ) 満たされていく。心と体の双方が満たされていく。 (そんなに私と会いたかったんだ。うん、私もよシンジ) アスカはにっこりと笑うと、痙攣する2号機を意思の力で抑え込み、自分もまた初号機を破壊するためではなく、抱きしめるために両手をまわした。お互いの体が溶けあっていく。痛くて苦しくて、無理やり一つにされて涙が出るくらいに悲しいけど。 「嬉しい。やっと、やっとあんたとまた、こうして……一つになれる」 エントリープラグの内面が青い繊毛状の物体で覆われていく。LCLの中をミミズのように泳ぎながら、それはアスカの全身を包み込んでいく。 (ゴメンね、わたし、あんた以外の人と……許してくれるの? え、怒ってない? いや、それは怒んなさいつーの。嫉妬しなさいよバカシンジ) アスカの意志が溶けるように消えていく。 そして、もはやそれは初号機でも2号機でもなくなっていた。通話モニターからネルフ司令のもはや意味をなさない絶叫が聞こえてきていたが、煩わしいばかりなので最後に残っていたアスカの意識はそれを遮断した。 (うん、行こう。あんたと一緒なら地獄だってどこだって平気。一緒に堕ちましょう) 初号機+2号機は、二つの頭から同時に唸り声をあげると閃光を放ち、ネルフ施設を吹き飛ばす。周囲を囲む他のエヴァを睥睨し、物体Xもかくやという異形となった第9の使徒は笑うように口許をゆがめた。9対1という圧倒的に不利な状況だが、負ける気はしない。 第9の使徒はターミナルドグマに眠るリリスを目指して、メインシャフトを降下している。 エヴァとの戦いで折れ、砕け、焼け爛れて全身酷い有様だが、もはや何物もそれを止めることはできない。 取り込まれたアスカの知識を持つ初号機……いや、使徒は降下前にMAGIにアクセスして自爆プログラムを封印している。事前にリツコが入力していた裏コードの知識もあり、もはや解除は不可能だった。2号機を取り込んだことでコードも書き換えられ、その他の自爆システムも作動しない。 つまり、もう使徒を妨げるものは何もない。散発的に攻撃はあったが、それもすぐに消えた。 リリスの眼前に到達した時、これまでアスカを苛み、弄んできた司令は絶望して拳銃自殺を遂げた。ゼーレの哄笑が響き、神の名を唱える賛歌が聞こえる。だが、そんなことはもはやどうでもいい事だ。 使徒がリリスに接触する寸前、世界中に嘆きが広がるのが見えた。 絶望が世界を覆いつくすのが分かった。 その中に、トウジやケンスケ、ヒカリら旧友の顔が一瞬浮かんだがそれもすぐに消えた。 (ただいま) もしその場に誰か人間がいたら、手を触れる寸前、そんなことを使徒が呟いたように思っただろう。 そして、リリスもまた……。 (おかえりなさい。今度はもっと上手くやってね) そう、返したように思っただろう。 使徒が溶け込む様にリリスと一つになり……。 閃光。 爆発。 十字架上の赤い光が地球全土を覆いつくし、何か巨大なものが高笑いを上げながら屹立した。 海が蒸発し、山が砕けた。平地は引き裂かれ、森は砂漠となった。 全ての生命は消え失せる。 死は死に絶えた。 そして世界は、終わった。 初出2021/07/04
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