INNOCENT TABOO, case Asuka & Rei
Original text:引き気味
『 禁忌の絆〜相姦隷母(上) 』
桜並木が満開の景色を見せていた。
ある種、それは土地柄や地域のならではといったものからは対局にある眺めかもしれない。
春の季節、学舎が新しい生徒たちを迎える時はこうでなければ。そういったイメージが日本人の中には強固であるせいなのか、おおよそ日本全国どこの学校であろうと、校庭にはまず桜の木が植えられるのだという。
少年はそう母親から聞かされていた。日本の文化なのだと。
たしかに、裏山に半ば抱え込まれた形で立つ中学を目指すこのゆるやかな坂は、学校の敷地からあふれ出したかのような桜の花びらで一面を飾られていた。
坂を同じ制服姿で上がる生徒たちの中でも、どこか着慣れない風でいるのは彼と同じ新入生であろうか。
少年はアメリカ国籍を持つ母親に連れられ、このほど物心が付いて以来の帰国を果たしたばかり。アジア系の隣人、知人には縁がなかったせいか、顔立ちだけからで同級生、上級生の違いを見分けることは出来なかったが、親と思しき大人と並んで歩いているのであれば間違いは無いだろう。
あたりを―― もう校門から中の様子もはっきり見えてきたそこらを観察すれば、ピカピカの制服姿である自分の子供にも負けないぐらいぎこちなく着飾った母親同士が、はやくも保護者間の親睦をといった顔で立ち話をしている。
大人ばかり三人、四人と塊になっているのは、子供が中学にあがる以前に同じ学校だったという縁だろうか。それとも、地域のコミュニティなのだろうか。
いずれにせよ、自分や後から入学式自体には間に合わせると言っていた母とは条件が違うわけだ。
自分たちはこれから付き合っていく人間を見定め、友人も作っていかなければならない。
(そういえば)
少年はふと思い出した。
母にとってこの土地は、今の自分と同じぐらいまでを過ごしていた『ホーム』なのだという。
ここ、第3新東京市立第壱中学校も母校なのだと。
今朝方、下ろしたての制服を身につけ、学生ズボンを履いたところを感慨深げに眺めていた。
なら、あの大人達の中には昔の母を見知った人間もいるのだろうか。
旧知の間柄のだとか、もっと親しくしていた人間だとかも。
そう考えて少年が周りを見渡し直してみても、まさか以前に見た母のアルバムだのに写っていた顔が偶然も偶然に見付かるわけでもなく。よしんば実際に居たとしても、十数年の歳月もあればさらに見分けが付こうはずもなく。
結局の所、この年の新入生たち大勢の中の一人としてきょろきょろと周辺を見回して歩く彼が、校門をくぐってからいつの間にか考えていたことはといえば、
(うはぁ、あのおばはんケバ過ぎだろ。センス最悪っつか、やっぱうちのおかんの一人勝ちだよな)
などという、ませた目線での品定めだった。
彼が自慢に思う母親の美貌にそのまま良く似た西洋の血の濃い容姿。それは、入学式会場となる体育館近くに集まった新入生たちの中どころか、準備の手伝いなどで通りがかる上級生女子たちからも熱い視線を集めるのに十分なものだったのだけれども。当人の青い瞳は子供に興味は無いとばかり、保護者として並ぶ妙齢のご婦人方の方にばかり向けられていたのだった。
そんなマザコン気味、あるいは年上好みな少年の記憶に、この日ただ一つ鮮烈に残った特別な光景。
それは、ひとり人待ち顔で、自分とは逆に息子を待ってずっと桜の木の下に佇んでいたある母親のことだった。
遅れてやがて現れた小柄な少年には受け継がれなかったらしい、髪の色、目の色。日本人ばかりの中では際だって目立っていた、銀髪に赤目といった典型的なアルビノの特徴に、少年の目はまず留まった。
人の間では忌避されがちな特殊性を与えられていながら、そうであっても彼女はそれを、不気味なというよりは幻想的なと解釈させる雰囲気をまとっていた。
有無を言わせぬ、美貌によってである。
髪を首筋までのあっさりとしたカットにしているその顔を見てみれば、(おや?)と軽く人目をひくぐらいで済む美人ではない。(嘘だろう!?)と、その目の前の実在に対する半信半疑まで生じさせるほどの、現実離れした麗人ぶりだ。
アルビノとしてのハンディキャップを背負った見かけさえ、こうなると彼女のため用意された神からの演出も同然と言える。
なにより―― 壮絶に色っぽい。
ほっそりとした立ち姿でありながら、胸の辺りや腰回りの充実ぶりはなんとしたことか。飾りっ気のない落ち着いたコーディネイトでその身を包んだ貞淑そうな清楚さに、強烈なセックスアピールが同居している。
そしてだ。
アメリカで、高価な化粧品だのスキンケアだのと言ってエステサロン通いに血道を上げていた上流階級気取りを見慣れた少年から見てなお、突き抜けて白い肌。白皙の美貌。そこに、日差しを避けたものか桜の枝葉が落とす影の下にあって余計に鮮やかなルージュの引かれた唇が、ぷっくりと。
あの唇が息遣いに時折薄く開かれるだけで、男心は誘われるようにキスを願うだろう。
奪うように口づけて、甘い唇を貪り食みたい。深く深く口を侵し、舌を吸い―― ねっとりと絡め合いたい、と。
だのに、面差しはどこまでも超然としていて、遠巻きに寄せられる関心のざわめきへ反応を見せる気配は皆無。
これをつれないと舌打ちして、どこぞのホステスかキャバ嬢にあしらわれたのと同じに腐すには、彼女は“違い”すぎる。
並の男では、近寄り声を掛ける度胸も湧いてこまい。
穢れ知らずに真白く佇んでいるだけなのに、ひとたび目を奪われると一転、異常なくらいに艶めいてもう視線を放さない。そういう魔性を備えた女性だった。
ただ、
(うーん……。あのひと、まさかと思うけどなぁ)
体育館脇の桜並木に彼女を見付けてしまった男子、父親らの例に漏れず、思わずため息を吐いてしまいながら。しかし少年がその目を留めたまず
の理由は、実は彼らとは違ってアルビノへの興味ではなかった。
とにかくの美しさ、色っぽさに感嘆しつつ、しげしげと遠目の顔を眺めて唸っていたのは、ただ魅入られてしまったからではなかった。
一目見かけて(あれっ)と。次いでそして、(―― 似ている、よな)と感じたのだ。
母親の、此処『ホーム』での思い出を残すアルバムをめくった折に見かけた、かつての知人ら。中でも特にその特徴ゆえ記憶に残っていた、アルビノの少女。彼女の面影をあのひとは宿していまいかと。
母親の同級生であったというから、同じように歳を重ねていけば今はあれぐらいだろう。
思い出話の舞台と同じ土地であるし、アルビノに生まれつく人間のそもそもの希さもある。
まず考えて、同一人物。当人、なのだろうが。
(……っ、っッ!?)
目が合った。ような気がした。
(いやっ。見てる! あれ、あっちもこっち見てる―― よなっ!?)
そうこうの内に会場へ入るよう促す教師達が現れ、ついっと視線をそらした彼女の姿は、息子と連れ添って少年とは違う人の流れに紛れ込んでいった。
この日はもうそれっきり。
だからといって新しい土地での生活の忙しさにかまけ、忘れてしまえるような、簡単な話ではなかったのだけれども。
母親譲りの赤い髪をがしがしと掻いてその場は頭を切り換えた彼が思っていた以上に、これが“簡単ではない”因縁絡みだったと思い知ったのは、数日後のことだった。
女性のあまりの印象の濃さとは裏腹に、すっかり忘れてしまっていたあの息子の方。それが、実はクラスメイトとして隣の席に座っていたことを少年が知った、その日の放課後のことである。
「ねえ、もしかするとだけどさ」
同じクラスになり、近くの席同士に座る間柄になった。だからといって挨拶はするぐらい以上に親しく付き合う理由となると、まだ出来ていない。そんな相手から、声をひそめた呼びかけ。
彼はどうしてなのか、辺りを窺うように帰り支度中のところを捕まえ、廊下を人気が無くなるまで連れて行って尋ねてきたのだ。
「ひょっとして……君のお母さんの名前、アスカさんっていったりしない?」
君の名字を聞いて、もしやと思ってたのだけれどもと、そう断って。
「君の、惣流君のお母さんが―― 惣流アスカさんだったらって、話があるんだけど」
◆ ◆ ◆ 入学式から幾らもせず降った雨で、桜並木はだいぶ様相を変えていた。
風に舞う白い花びら。それも数日前からすると少なく、下校する二人の少年の背をアスファルトに転がるように低く追い抜いていく。
彼は家へ招いた道すがら、『綾波』だと自分をあらためて紹介しなおしていた。
入学式以来すぐ隣に座るようになっていた相手に『ええと……』と名前が出てこず、決まりの悪い顔をしていた赤髪の少年であったので、その必要があったのである。
そしてそこに、『綾波レイ』の息子だよと意味ありげに付け加えた。
「君のとこのアスカさんと昔ここで同級生だった綾波レイだよ」
これには本来他人に主導権をとられるのを好まない少年も、慎重にならざるをえなかった。
「ほんとうは僕からこんなに色々話しかけたりするの、苦手だったんだけどね」
同性で親しく口をきいた最初のクラスメイトということになる彼は、そう言って苦笑する。
「入学式の日、みんな自己紹介したでしょ? 髪の色もそうだし、アメリカから来たって言うし。あの時にもう、君がもしかしたらって気付いてたんだけど」
「―― 人付き合い、苦手なのか?」
聞けば肩をすくめてみせた。
「君の方は……聞くまでもないよね。女の子にも人気だったみたいだし」
「連中、ガイジンが珍しいんだよ」
黒い髪に黒い瞳。典型的な日本人顔の彼に対し、自分のそれは赤く、青い。アメリカでは珍しがられるものでもなかったが、この土地でだと羨ましがられる対象らしい。
茶化してはおいたものの、面白く思われていなさそうな感触ではあった。
彼の言葉では、女子と接する時はと限った話ではなく、ただ他人が苦手なのだとか。
なんとなくそうだろうと思っていた相手だった。
もっと言えば、ここ数日での印象は『根暗そうなやつ』。女の子にもモテてはいないだろう。
見るところ、別に容姿に難があるというわけではない。顔は、なよっちぃと形容すればそれまでだが、そう見せているのはしばしば俯き加減でいがちな彼の姿勢が問題なのであって、中性的な造形自体は女の子達の眼鏡にもかなうものの筈だ。
なんとなく、それは自分と同じように彼の母親から引き継がれたのだろうと思った。
あの、とんでもない美女の血である。女子の間での評判を意識していたのなら、恵まれた部分の活かし方を考えれば良いだろうに。
しかし彼は気にしてない、気にするまでもないさと言うのだ。
「良いんだ。別に学校にいるような女子なんて。あいつらみんな、いろいろ生意気言うくせただのガキじゃないか」
『相手にしてやるほどじゃないよ。君もそう思うんじゃないの?』と、上目遣いに見やってくる。
背の高さはほとんど同じなのに、覗き上げるように。
「君のママだって……僕らと同じぐらいの時なんて凄い美少女だったんじゃないか。比べたら、クラスの連中なんて見れたもんじゃないだろ?」
もってまわった言い方だった。
「人をマザコンみたいに言うなよ。それに、人の母親だぞ? いくら昔のことでも、美少女とかいう言い方はやめてくれ」
苦り切った声しか出ない。
これも母親譲りの性格なのか、話をしていて焦れったい人間だとすぐイライラしてしまう少年にとっては、あまり付き合おうという気になるタイプではなかった。
先ほどは自分のあの、誰に対しても上から目線すぎる母親のことを思い出して『人付き合いが苦手なのか?』と訊いたが、こちらは全く部類が違う。ある種、逆に卑屈すぎて人を嫌にさせるタイプだろう。
まさかそんな相手と二人つるんで歩いて、家までお邪魔しようかという展開になろうとは。
それもこれも、『綾波レイ』という彼が口にした名前の持ち主のことだ。
少年にとっては、捨て置くわけにはいかない問題だった。
自分の母親にも関わってくる―― おそらくは、深く―― 問題だと悟らずにはいられない。
ここまでの会話で分かっただけでも、少なくとも彼はこの第壱中学校に通っていた当時の母を、惣流・アスカ・ラングレーの姿を知っている。
何かで、彼の母親だという綾波レイの持っていた写真かまた別のもので、目にしていたのだ。
自分だってその頃の綾波レイを知っている。
旧友同士の親を持つ息子同士。だからお相子さま。広いようで狭い世の中、そこまで驚くことではないとも言える。縁があったねという話だ。
けれど、だからこそ、是が非でももう少しはっきりと確かめておきたかった。
こいつ、何のつもりなんだ? と。
「……綾波って名前に覚えは無かったな。いつも母さんの昔の……あ、いや、何回かその、思い出話を聞いた時は『レイ』ってだけ呼んでたような覚えがあるし」
「ふうん……?」
彼はそうとだけ相づちをうって、とっくりと顔を眺めてくると、なにか自分だけ納得した風で頷いていた。
「僕の方もね」
「え?」
「僕の方の、ママもね。聞いてるんでしょ? 君のママのこと、アスカって呼んでたって。すごく仲良しだったってさ。いつも一緒だったって」
「……ああ、うん。仲が良かったって話だよな。ずいぶん昔のことなのに、俺にわざわざ思い出話で聞かせてくれるぐらいだから、そうだったんじゃないのか?」
どこか得体の知れない相手と、自分の家族について話すことほどやりにくいことはない。自然、どこか会話は探り合いながらのようなものになっている。
正直、閉口するばかりだ。
失敗したかなとも考えていた。
誘いに乗らず、先送りにするという選択肢もあっただろうに。
今日の所はまた後日とお茶を濁して、家に帰ってからあの忙しい母親と連絡を取って相談する。そっちの方が賢い選択ではなかっただろうか。
しかしいずれにせよ、もう遅すぎた後悔だろう。
校門をくぐって出たのはどれくらい前のことだったか。
学校帰りの生徒たちの姿ばかりが目立つ坂から、やがてその他の通行人も混ざり出す道へ。次いで、むしろ様々な目的で行き交う大人達の方が多い大通りへ。
信号で立ち止まり、横断歩道を渡り、踏切を越え、今度は次第に人通りの落ち着いていく方向へ、閑静な住宅地の方にと。
気付けばそこはもう、こじんまりとした平屋建てながら広い庭のある一軒家の前だった。
迷わず門扉を押して入る彼に確認するまでもなく、そして門柱に掛けられた表札を見るまでもなく、此処こそが目的の家。陰気で、どこか嫌みっぽい少年が招いた、彼と彼の母親である綾波レイの家なのだった。
◆ ◆ ◆ 「ただいまー」
玄関で、彼は脱いだ靴を意外なくらい丁寧に揃え直していた。
そのついでで『上がってよ』と促すと、閉めたばかりのドアから外にまで聞こえやしないかという声を出す。
そして、奥からすぐに姿を見せた女性がいかにも主婦といったエプロン姿であったのを見た時、
(うちとは、違うんだな)
それが幼い頃からずっと鍵っ子だった少年の真っ先の感想だった。
自身の母親は絵に描いたようなキャリアウーマン。自分もこう、家に帰った時にはエプロンを付けた『お母さん』に、おかりなさいと出迎えて貰えたら。逆に迎える側でばかりいる立場からの、ほんの少しの羨望が頭をよぎる。
そしてやはり、あの入学式の日の女性こそが彼女だった。
「お、お邪魔します」
家の中だと青みがかっても見える銀髪。
赤い―― まず連想するものではあっても兎のような小動物のそれとは明らかに違う、視線に込められた意志の輝きが別格の、紅い双眸。
じっと向けられると、静謐さをたたえた奥底へ深く飲まれてしまいそうだ。
そして、大理石の像をさらに磨いたかの作り物めいた肌の白さでいて、けれど、エプロンを付けていてなおセーターとの二重の生地越しにも分かる胸の豊かな膨らみといった、兼ね備えられた肉感的な柔らかさ。
間違い無い。彼女だ。
あの綺麗な女の子、ティーンエイジの頃の母と並んでいた女の子が大人になった姿が、そこに立っている。
柄にもなく声がどもってしまった。
「あの、はじめまして。俺、惣流って言います。その……」
しかし、言いかけた要領を得ない挨拶の後半を奪うようにして、横合いからの声が彼の美しい母親へと嬉しげに報告したのだった。
「彼ね、惣流って言うんだ。あのアスカさんの息子なんだって」
『だから、連れてきたよ』と、一息の説明は簡素そのもの。応じての母親の声もまた、
「そう……」
と、だけ。
薄く目を細め、改めてこちらを向いてきたのは、旧友の面影を見出そうとでもしたのかどうか。
帰宅を告げ、迎えた後のたったそれっぽっちに、他にどんな言葉にされないやり取りが含まれていたというのだろう。
息子の彼は連れてきた同級生を母親の旧友に所縁のあると端的に説明したにすぎないし、彼女も言葉少なく頷いたのみ。
ありふれた母子の会話だった筈だ。
赤毛の少年には、交わされた言葉の表面に出ていた以上を読み取ることはできなかった。彼女が本当は何に首肯したのか、何を納得したのか。読み取るべく注意を払っておけと匂わせる何かがあったとも思えない。
だから、
「な、なにを……!?」
見詰めてくる視線に乗せられた沈黙のままの圧力とでもいうべきものが、ふっと抜けたかと思ったのもつかの間。彼女は唐突に、エプロンごとロングスカートをめくってみせはじめた。
その前触れの無さに、少年は驚愕することしか出来なかったのである。
From:【母子相姦】淫乱美母ユイ3【寝取られ風味】