─ 福音のいけにえ ─ 第4章
書いたの.ナーグル
「父さん、入るよ」 ノックはしたが返事も待たずにシンジは扉を開けた。重いずっしりとした扉が開くと同時に、シンジの鼻孔を特徴的な臭気が刺激する。 …なぜかナフタレンの臭い。幼い頃、いたずらして押し入れに閉じこめられたことを思い出す。 小さなトラウマを刺激されてあまり良い気分はしない。それでなくても、まだどこかぎこちない関係のゲンドウと一対一で会うのだから。 「あれ? いないのかな。 ……それにしても、いつ来ても凄い部屋だよなぁ」 薬品の臭いとその源の瓶、毒々しい色の液体が入った種々様々な形をしたフラスコやビーカー、正体不明の生物のホルマリン漬け、明らかに日本の物ではない南方系植物の鉢植え、そこにいるのが当たり前のように自己主張するアルコールランプや洗面器ほどもある乳鉢。 怪しげな臭気や、煮沸された溶液がゴポゴポと泡が弾ける音、演算結果を表示し続けるパソコン。無数に伸びたケーブルの先が一体何に繋がってるのか、興味があるようなないような。 「リツコさんの部屋はもっと清潔で、少なくとも人間の部屋って感じはしたんだけどなぁ」 ふと、アスカと一緒にリツコのことをマッドサイエンティスト呼ばわりしたことをすまなく思う。彼女は才能に溢れただけの普通の科学者だ。 (マッドサイエンティストってのは、母さんのためにある言葉だ) それもこれだけの設備を何に使ってるかと言えば! (媚薬とか精力剤、ローション、麻酔や自白剤だもんなぁ) あと確証があるワケじゃないけど麻薬とかも作ってるんじゃなかろうか。自白剤や麻酔ってのも、言ってみれば麻薬の一種なワケだし。 それもこれもユイの究極の目標のために、らしいが。 「若返りの薬とか不老不死なんて夢見たいな事言うのもな。儚く、脆く、限りあるから命って素晴らしいと思うんだけど、母さんとはその点だけは分かり合えないかも知れない」 ま、実現はかなり、いやたぶん無理だろうが、それなりに成果を上げているから大目に見ている。 媚薬や性感増幅剤、記憶消去薬、精力剤など実に有益な薬が日々産み落とされている。先程マユミに使っていたのも、その一つ。目にしたのは初めてだけど、恐らく、今までの薬の一歩上を行くに違いない。そう言えば処女でも淫らな娼婦に変えてみせると豪語してた。 (そんなえげつないのをいきなり使われるのか…。耐性のない山岸さん、耐えられるかな) 「今はそれより父さんだ。父さーんどこ? …あ、いた」 「ほふううううっ、ふぉおおおおおっ」 奇声が聞こえる。 気配を頼りに植物が作る緑のカーテンを掻き分け、覗き込んだ先に、探し求めていた相手、シンジの父親「碇ゲンドウ」の姿があった。 憎らしいことになぜか電動マッサージ椅子に座って、幸せそうに『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』とか言っていた。 「なにしてんの?」 「あ゛あ゛あ゛あ゛、見てわからんか」 「いや分かるけどさ」 「うむ、ならば問題ないな。所で何のようだ。何かあったのか?」 「ああ、何かあったってワケじゃないけど」 答えながら父親の姿を見る。あまり見たくない。 しかし、我が親ながら言葉を無くすような姿をしているものだ。人って言うより獣って言った方が良いんじゃなかろうか。本気でそう思う。 やたらと背が高い上に、手足は太く逞しい。体だけなら文句の付けようがない偉丈夫だ。もっとも、近頃は年齢と安穏とした生活故に下腹が出てきて、かなり不格好になってはいる。ざまあみろだ。強がってはいるが頭もそろそろ薄くなってきている。そのくせ、手足には熊のような剛毛が今も凄まじい密度で生えていて、その強面の髭面もあって山賊の親分と並んでも遜色がない。 しかも、バスローブでほとんど隠れているが、胸から腹、股間の陰毛まで繋がる濃い密林が生え狂っているのだ。確認したことはないが、間違いない。 (って、バスローブ?) よく見てみればゲンドウの格好は、ユイと揃いで買ったという濃い緑色のバスローブ。 裾から覗く足を見るまでもなく、その下は見事なまでに全裸であることは間違いない。 「なんでそんな格好なの?」 自分だって全裸の上からローブを羽織っただけだって言うのに汗を流しながらシンジは尋ねる。 「む、まあ話すと長くなるが。 少し前まで私は校了した達成感に包まれ、机を枕に眠っていたのだが、そこをユイに起こされてな。薬の調合を手伝えと。で、途中まで手伝い、その必要がなくなってからひとっ風呂浴びたというわけだ。 ふっ、原稿は完成した。 勤勉な自分へのご褒美として、今日は1日中ユイとめくるめく官能の時間を過ごす。シナリオ通りだ。 その為にはわずかの問題も許されない。清潔にしておくのは必然だ」 「あ、そう。まあ、もう慣れたけど、あんまり父さんと母さんのそういうの想像したくないよ僕は。 それより母さんが呼んでるよ」 「ぬ、何の用だ? まだ、彼女がいるはずだが。 さすがに家族以外の者がいるのに燦然と輝く愛と快楽の花園を楽しむのは…」 何言ってんだこいつ。ゲンドウの世迷いごとで拳に力が込められるのを感じる。 そもそもだ。マユミが自分を選ぶのは決まってると言っても、ゲンドウと一瞬でも同列に扱われるというのは甚だプライドが傷つく。 本当は適当にゲンドウをごまかし、自分だけ寝室に戻ってマユミをいただきたいと思うが…。 「何言ってんだよ。違うよ。 彼女に選ばせるから、父さんにも来て欲しいんだよ」 「選ばせ…なっ、まさかまたアレか!?」 「そうだよ。またアレ」 うんざりと答えながらも、シンジは少しばかり新鮮な物を感じていた。 目に見えてゲンドウが狼狽えている。なぜだ? 父親の困った顔を見るのが楽しい碇シンジ20歳。 罠に捕らえた女性に、シンジとゲンドウどちらかを選ばせる究極の選択ゲームは今まで幾度となく繰り返している。最後にやったのは、そう、半年前の阿賀野カエデ嬢相手にだった。先に堕としていた伊吹マヤ嬢を使い、捕らえて地下の秘密部屋にて、三角木馬に跨らせた状態で彼女に選択させた。 『僕に処女を奪われるのと、父さんに奪われるの、どっちが良い?』 『いやぁ――――っ! 司令は、司令は嫌っ! し、シンジくん! シンジくんので、シンジくんので貫いてくだひゃいぃぃ』 彼女はシンジの前戯でメロメロになり、それが意味することも分からぬままシンジにしがみつき、最初に拒絶して泣き叫んでいたことも忘れ、さんざん呪いの言葉を吐いたシンジに処女を奪うことを懇願してきた。 その時のゲンドウの目に見えてガッカリとした顔は忘れられない。尤も、今まで数回あった究極の選択で全戦全敗していたこともあってか、レイに拒絶された最初みたいに崩れ落ちるほどの落胆ではなかったが。精々、『あーあ、やっぱりな』と言った感じだった。 『問題ない』 と言いつつ、ユイに慰められて強がっていたのはちょっと可愛かった。 とまれ、また負けて惨めな思いをするのは、鉄の心臓を持つゲンドウでもさすがに嫌だろう。 それにしても。 この狼狽えようはその所為だ、とシンジは思ったのだがどうも違うらしい。 ずれた眼鏡の位置を直し、ローブの袖口で額をぬぐうゲンドウをじっとシンジは見つめる。 「えいそんな目で見るな気持ち悪い。 しかしそうか。ぬぅ、あれだけ言ったのに、ユイめとうとうマユミ君まで…」 「マユミ君?」 「う、むぅ。いやな、先月、徹夜で原稿をあげたときマユ、いや山岸君がこう言ったのだ。『お疲れ様でしたゲンドウ先生。あ、あら、私ったらつい名前で。すみません、碇先生。馴れ馴れしすぎましたね。一介の編集が申し訳ありませんでした。え、別に構わないんですか? 私はただの編集者じゃなくて、大事な仕事のパートナーだからって。そ、そんな私なんかを…。あ、いえ、違います! 嫌なわけでも迷惑なわけでもありません! ただ、その、初めて人に認めて貰えたなって思うと、なんだか嬉しくなって…。その、嫌じゃないです。嬉しいです。え、げ、ゲンドウ先生も、ですか。先生が私を呼ぶとき、名前にした方が良いか、ですか…。あー、えっと、か、構い…ませんよ。マユミ君ですか、なんだかくすぐったいですね。前にも話しましたけど、私、小さいときにお父さんがいなくなったから、それで、先生のこと本当のお父さんみたいに思って…。だから先生に、ゲンドウ先生に名前で呼ばれると、ちょっと、嬉しいです。え、でも、ユイさんが変に思うかも知れないから2人だけの時の呼び名ですか。そうですね…うふ、2人だけの秘密、なんだか変な気分です』 って、なぜ殴るシンジ!? なぜグーで殴るのだ!?」 殴る。 思いっきり手足をブン回してこの不埒な髭の大男を粉砕する。 「五月蠅いっ! 黙って聞いてりゃ調子に乗ったことほざきやがって! 不気味なジェスチャーや、あろう事か裏声使って山岸さんの真似まで! でも、一番許せないのは! 僕だってまだ名前で呼ぶことを躊躇してるってーのにこの髭眼鏡はっ!!」 「ふっ、勝ったな」 「うああああああああああっ!!」 しばらくお待ち下さい ひとしきり暴れ回った後。 「まあ、落ち着けシンジ。さっきの話は半ば冗談としてもだ」 「本当かよ…」 「話の腰を折るな馬鹿息子。 つまりだ、さすがの私もな、彼女を罠にはめるのは賛成しておらんのだ。マユ、いや山岸君は近年稀に見る良い娘さんだ。要するに、そのなんだ。情が移ってな…。巻き込みたくなかった。そう、彼女に嫌われたくないと思ってしまったよ。そのあげくがこの有様か…。すまなかったな山岸君。 おまえが独身で、普通に恋をして、普通に彼女を口説くというのなら問題なかった。だがユイのやりようでは」 どこか遠くを見ながらゲンドウは呟く。その表情はどこか雪を抱いた山脈のように厳しく、それでいて寂しげに見えた。 だがシンジの目はかなり冷たい。 「今までさんざん甘い汁を吸ってきたくせに」 「確かにな。それは否定せん。自分が善人だと言うつもりはない。赤木君達にしてきたことは1万回死んでも償い切れん。せめてリツコ君は幸せになってくれると良いが…。 だがそれとこれとは話が別だ。 特におまえとユイがしてることで私は全く甘い汁を吸ってないだろ。精々、おまえの性交を指をくわえて見ていただけだ。それも期待させるだけ期待させたあげく、結局おまえをみんな選んでお預けさせっぱなしという仕打ち付きでだ」 「そう言えばそうだね」 「分かってくれたか、マイ・サン。理解の早い息子で嬉しいぞ。 尤も、今更殊勝なことを言っても失笑を買うだけなのは間違いない。おまえ達の毒牙にかかってきた人たちのことを哀れに思うだけで、止めもせず、助けもせず、表沙汰にしようとしなかった私も同じ穴の狢だ。いや、折あれば混ぜて欲しいと思っていたことも鬼畜であることも否定はせん」 「そんな父さんでも、山岸さんだけは…か」 「ああ、できれば彼女は我々の本性は知らないまま、良き友人でいて欲しかった。おまえも、そうだったのではないか? ユイにも彼女には手を出さないようにと言っていたのだが」 この人にも、こんな仏心があったんだ…と悪人がごく稀に持つ宝石のような良心にシンジは少し感心する。もっとも、この糸は俺の糸だーと叫んで台無しにしてしまう程度の良心だろうけど。 「でも、もう山岸さんは」 「そうだな。ユイに捕らわれた以上はもう遅い。こうなるのを避けたかったのなら、編集部に圧力をかけて担当を替えて貰えば良かったのだ。いや、よそう。 もしかしたら、私も彼女が我々の罠に哀れに捕らわれるのを期待していたのかもしれん。 蝶が蜘蛛の巣にかかり、蜘蛛の餌食になるのを息を凝らして見守るように…」 「うん、そうだね。言われてみれば、僕も、彼女にだけは本当の姿を知られたくなかった。だから今まで何度も機会があったけど彼女に手を出さなかったんだ。でも、今日は運悪く母さんが…」 運悪く? 嫌な考えがよぎる。 ユイは、マユミが起きてくる時間を見越してわざと…。 「まあ後悔はよそう。行くかシンジ」 「あ、うん。でも、良いの?」 「何を今更。どうせ彼女はおまえを選ぶんだろうが、服の上から何度も想像したあのグラマーな肢体を拝めるだけでも、ってこら何怖い目をしている。仕方なかろう、私は健康な成人男性なのだぞ。そして彼女はあれだけいい女だ。当然のことだと思わんのか」 「巻き込みたくないって、さっき言ってたこと台無しだね」 「まったくだ。 …………しかし正直言うとな。ずっと彼女をモノにしたい…と思っていたぞ」 そう呟くゲンドウの目は、寂しさと悲しさをたたえながらも、台風もひれ伏す情欲で濁っていた。 ユイはマユミがどっちの手を挙げるか、決めあぐねて右に左に縋る者を求めて首を動かす姿を楽しんでいた。どっちも挙げたくないのが本音だろうが、結局はどちらかを選ばなくてはならない。はたして彼女はどっちの手を…。胸の高鳴りを隠そうともせず、ユイはマユミに迫る。 その時、階下から漏れ聞こえるわめき声と思い物をひっくり返す鈍い音に、ユイは眉間に皺をよらせて呟いた。 「なにしてるのかしら家の男どもは…。 また喧嘩してるのね。幾つになっても飽きないこと」 朝から ―――― 気がつけば正午を少し廻っていたが ――― 元気があって良いことだ、とも思うが段取りが狂うのは避けられない。正直腹立たしい。予定やシナリオを重視するのは夫と似ているユイであった。 「………まあ良いわ。それなら2人が来るまで少し楽しませて貰うから」 そう呟きながら、ユイは階下の騒音にも気づかず、相反した思いにとらわれてブルブル震えるマユミを見てニヤリと口元を歪めた。 「よいしょっと」 「わたし、わたし…………ああっ」 突然、ユイはマユミの体を小脇に抱え上げる。 小さな手荷物でも持つような無造作な所行にマユミは反射的に悲鳴をあげる。もじもじ、暴れると言うにはささやかなマユミを委細気にせず、ユイは彼女の体を小麦袋かなにかのように肩に担ぎ上げた。振り回されたマユミは体をすくませる。 胸ほどではないが、真横にきた白く豊かなヒップを撫でながらユイは呟いた。 「それじゃあ、2人が来る前にちょっと体を綺麗にしましょ」 「え、ええっ? な、なにを…」 「だって汗や涎やでドロドロじゃない。って少しは正気になった?」 「しょ、正気って…あ、あ、ああぅんっ!」 マユミの意識の靄が晴れたのは、ほんの一瞬だった。 巨大な杭を射し込まれたような疼きと圧迫感が体の中心を貫く。呼吸も鼓動も一瞬止まってしまうような圧迫感。咳のような息を漏らし、マユミは全身を小刻みに奮わせた。 痛みはない。ただ、とにかく無性にもどかしく、熱かった。 「はぁ、はぁ、はぁ、あああぁぁぁぁぁ!? うああっ、な、なに、かがっ」 可愛らしく盛り上がった秘所の、僅かに開いた割れ目から、甘酒のように白くどろりとした液体が一滴こぼれ落ちる。 「ふふふ、ちょっとだけど溶けてきたわね。どう今までで最高傑作の媚薬は? ぼやけてた意識と体が一瞬で鮮明になって、そして溶けそうなくらいに気持ちいいでしょう? 今のままでも、普通の性交における絶頂時の4.8倍の快楽に襲われてるはずなんだけど」 「うあっ、あっ、そんな、そんなっ、私が、中がっ! ああ、熱い、熱いわ! ひぅ、うっ、助けて、助けてっ! 誰か、助けてっ! 助けて下さいっ! つ、辛いんです、切ないんです、ど、どうにかして下さいっ!」 マユミの乱れように満足そうにユイは頷く。 「処女のあなたにはきつかったかしら。でもね、気持ちいいでしょう? 何もかも忘れちゃいそうでしょう?」 「あはぅ、あう、ああぅぅぅ…。しん、じゃうぅ…」 「返事も出来ないみたいね。辛そうだから、さっきの(選択の)答えはもうちょっと後で良いわ。 とりあえず、5分くらいしたら一時的にだけど楽になるわよ」 でも、とユイは続ける。 「でもきつくなるのはそれから。更に30分もしたら今の3.7倍…だから、絶頂時の17.76倍の快楽があなたを襲うわ。 その普通ならアクメを迎えてもおかしくない快楽だけど、どんなに足掻いてもイけないもどかしさは、男に犯され膣奥深くに精液を、一定濃度以上の男性ホルモンを吐き出して貰わない限り収まらない。 ……想像するしかないけど、地獄の快楽よ」 「い、今だって、こ、こんななのにっ。ひ、ひどいっ、ああっ」 「否定はしない。まあ私も鬼じゃないから老婆心で忠告するけど、気が狂う前に選択する事をお奨めしするわ」 腰の下にあるマユミの顔を見ることは出来ないが、どんな惨めな顔をしてるのだろう。それを想像するとユイの股間は舐め回されたように熱くなる。 (や、だ。濡れて、きちゃったわ) 「それよりも、今はまずお風呂よ。綺麗に、綺麗にしてあげる。そうね……うふふ、下の毛全部剃っちゃうってのはどう?」 「や、やはっ、やめてぇ…」 「決まり。 じゃあ、アスカ。私たちお風呂で綺麗に洗いっこしてくるから、ゲンドウさん達が来たらそう伝えて待ってもらっといて」 女性とは思えない膂力でマユミの体を抱えたまま、ユイは縛り転がされたままのアスカを顧みずに部屋から出て行った。 「あぶぅっ! おぶぅぁっ! ううぁっ! あぶるぉおおああっ、おぶ、ううぅっ!(待って! ほどいて! ユイさま! 縄をあああ漏れ、漏れるっ!)」 口の端からだらだらと涎を流してアスカは虫のように藻掻き呻くが、彼女の唯一自由になる耳には無情にも閉ざされる扉の音だけが、響いて消えた。 「とうちゃーく」 「………………………………………………」 「あら?」 ことさらゆっくりと脱衣所に着いたとき、マユミは喋る元気もなくなったのか肩で大きく息をしていた。可愛らしく喘ぐことも出来ず、まるで空気を求める金魚か鯉のように大きく胸を上下させ、全身にじっとりと脂汗を浮かべている。運んでる途中で急に静かになったのだが、薬の効き目の谷間に入ったらしい。揺さぶったことで効き目が早く出たようだ。 「それじゃあ、楽な内に入りましょ♪ 急がないと大変なことになっちゃうわよ」 「う、ううううぅぅ」 ユイは、こんな恐ろしいことをしているのに、野花でも摘むような気安さで全く悪いことをしてると考えていない。 今では確信を持って分かる。シンジがヒトを傷つけるようなことをして、平気な顔をしていられるのは、全部この人が変えてしまったからだ。マユミが愛したシンジは、もう、いない。 「はい、さっさと脱いで♪ あ、眼鏡も取ってね」 ガーターベルトごとガードルを脱がされる。 変な喩えだが、マユミは自分があのガードルだったらと思った。 これから襲い来るだろう言語を絶した快楽を想像するだけで、背筋が薄ら寒くなる。その時、自分が正気を保っていられるとは思えない。きっと、きっと自分は狂ってしまう。あの全身の皮を引き剥いでも足りない焦燥感と快感、切なさに耐えきれず、相手が誰だろうと、死んでしまった実の父親であっても、人でなくとも、それが男だったら、雄なら股を開いて受け入れてしまう。 (ああ、私何を考えてるの…) 自分が顔も分からない得体の知れない男や、あろうことか犬に犯されてるところを想像して、そんなところにまで追いつめられてるところを自覚して、惨めさと絶望感にマユミは呻いた。 「こ、殺して…もう、こんな屈辱、耐えられません…」 (このまま死んでしまえたら) 「ダメ、死なせないわ」 「死なせてぇ…」 弱々しく、汲めども尽きぬ涙を流してマユミは哀願した。しかしユイは許さない。さながら神話の怪物、八岐之大蛇のごとき呵責さで、生け贄の巫女のようにヨヨと泣くマユミをバスルームへと引きずり込む。 開かれたガラス戸の向こうは、12畳ほどもありそうな大きな風呂場。 眼鏡を取った視界は微妙にぼやけて細部は分からないが、バスルームは蒸し暑く、大人2,3人が体を伸ばして入っても余裕がありそうな風呂桶から湯気がたち上っているのが見えた。 「あああ、いやぁ。お父さん、お母さん、助けて、助けて…」 仰向けに倒れ込んだ背中に、バスマットの柔らかい感触を感じる。続いて、目を開ける間もなく頭から熱いお湯がかけられる。一瞬、マユミは意識を失った。お湯が触れたと思った数瞬後、それでなくとも神経剥き出しで敏感になっていた全身に、針を刺したような苦痛が襲いかかる。 「ひ、きゃああああああっ!?」 「大袈裟ね。悲鳴を上げるほど熱くは…うわ、結構熱いわ。ゲンドウさんって、熱いのが好きだから。 ごめんなさいねマユミ」 「ああう、っあ、あああっ」 引きつけを起こしてのたうつマユミ。 「はいはい、落ち着いて落ち着いて。ほら、これなら丁度良いでしょう?」 水でうめたぬるま湯をかけながら、恐ろしいほど優しくユイは赤くなったマユミの肌を撫でさすった。 「ああ。こんな綺麗な肌なのに可哀想…」 「や、やめて、触らないで。ああ、洗ったりなんて、しなくて良いですから…」 「羨ましいわ。本当の若さ…。この肌の張り、肌理、瑞々しさ…憎らしいほどよ」 胸の谷間と両手に、ボトルからたっぷりと液体をかける。海草から作った自家製のボディソープ兼ローションだ。自らの裸体をスポンジ代わりにユイはマユミの体に擦りつけ始める。海草の心和ませる香りが、バスルームにマユミの喘ぎに混じって漂い始める。 「ふぁああっ、あ、あああ――――っ。う、うあっ。やめて、触らないで」 愛撫と媚薬で異常な興奮状態になっていたマユミの全身を、もどかしくも心地よい快楽が優しく包み込む。ぬるりとした感触、人肌の柔らかさ、全て心得た的確な愛撫。 ビク、ビクと再びマユミの体が小刻みに震える。仰け反った白い首筋には汗の玉が浮かび、艶黒子も艶めかしい口からは途切れることのない甘い喘ぎが溢れ続けた。 「んあっ、そ、そんなっ……あぁっ、も、もう……や、くぅっ、あっ、あっ、はぅ、ああぅ。やだ、もう、もう、もうこんなの嫌よぉ…。ゆ、ユイさん、もうやめて下さい…。また、こんな女同士で…」 「なら男相手なら良いの?」 「そういう、意味じゃ…うああっ」 固く屹立した乳首同士を擦り合わせながら意地悪くユイは尋ねる。もとより返事など期待していない。ただマユミを喘がせるためにだ。 「ひぃ、ひっ、ひぃっ、ひっ!?」 手足を突っ張らせ、大きな胸を突き出すようにしてマユミは体を震わせる。ユイがそっと股間に指を沿わせると、明らかに石けん水とは違うぬるりとした粘液が伝い落ちていることが分かった。 「また、薬が溶けてきたのね。凄いヌルヌルしてる。 でもまだダメ。これじゃあ、この程度じゃ全然溶けたうちに入らない。やっぱり、男のモノでかき回されないと」 「うっ、ううううっ。あ、あなたって、人は…」 「人間じゃない? 悪魔? 何だって良いわよ。好きに呼びなさい」 「う、ううううっ。ああ、うああああぁぁぁ」 「泣けば許して貰えると思ってるの? うふふ、ダメよ。それならまだ気合い入れて奉仕した方がまだ可能性はあるわよ?」 初めて、心底興奮した顔をしてユイは囁き続ける。執拗に胸を擦りつけ、抱きしめるように背中に手を回して足を絡める。汚れを洗い落とされて艶々と輝く乳房をそっとほぐすように揉む。ユイの手の中で弾むように踊るように乳肉が形を変えていく。 「うぐっ!は、やめて、くっ…ださい。やぁぁ、ダメ、やめて、やめっ、ま、また……くる、きちゃう」 「大きな胸よね…。レイほどじゃないけど白くて、染み一つなくて…。少し赤くなってるのはシンジの愛撫が凄かったのかしら? それにしても可愛らしい乳首。胸の大きさに比べると乳輪も小さくて控えめで。 私も結構自信あるんだけど、あなたにはかなわないわ」 体を起こすと、腕を組んだまま上腕部で持ち上げるように胸を抱え上げる。 プリン、と音を立ててユイの美乳が盛り上がる。 ユイの胸の頂から滴った白濁した泡水が、マユミの顔に雨垂れのように水玉を作る。 「は、はぁ。はああんっ。はあっ、はあっ、んんっ、気持ち悪い…」 顔一面を白濁で汚され、口元に流れた石鹸水を吐き出そうとマユミはえずいた。飲んでも害はないのだが、そんなことを知らないマユミは飲み込むことを拒絶するのを選んだ。 「あうううぅ。も、もういやよ。いやぁ」 顔を背けるマユミの緩く開いた口から、薄目の精液に似た液体がこぼれ落ちていく…。 「わざとじゃないはずなのに…マユミ、天然って凄いのね〜。 ねぇ。知ってたら3サイズを教えてくれないかしら。なんでこんなに見事なおっぱいなのか凄く興味湧いて来ちゃった。何か特別な物でも食べてるの?」 マユミよりは2回り、いや3,4回り小さいが十分に豊かな胸をユイは自ら揉みながら熱い息を漏らす。こうまで見事だと、悔しいより先に喜びが先に立つ。 「な、なんで、そんなことを…あなたに、教えなくちゃ、いけないんですか…」 それは実に微々たる大きさだったけれど、確かにマユミの目に怒りの火が灯る。理不尽に蹂躙されて朽ち果てたように思われたマユミの心だが、ここに来て奥に残っていた熾火に風が当たったのか。 シンジかアスカなら僅かでもたじろぎそうな、本気の殺意を宿した視線。 だがユイは面白がるようにその視線を受け流すと、先端を絞り上げるようにマユミの胸を掴んだ。指先に心地よい、肌理の細かいマユミの肌をユイは存分に楽しんだ。 「ん、ふぁぁっ!」 「言いたくないなら別に良いわよ。こうやっていじめちゃうから」 痛々しいほどにきつく乳首をつまみ上げると、濡れた乳首を躊躇うことなく口に含む。 「ああっ…あ、あはぁっ」 もごもごと口を動かしながら、存分にユイはマユミの汁気を楽しむ。 「やめっ、そんな舌でっ! あはっ…ああっ、あっ、あんっ! ぐっ! か、噛まないでっ」 「ほりぇほりぇ…ちゅ、ちゅばっ。ほら早く言いなさいよ。胸が切なくて重いでしょう? これからもっともっと凄くなっていくのよ」 ゆっくりと頭を上下させながらユイは敏感な乳首を刺激する。 たまらずよがり悶えるマユミの下で、マットと背中に挟まれた髪の毛が擦れ合ってネチャネチャとどこか淫靡な音が風呂場に響く。 「うう、んっ、んふぅ…はぁっ…。や、やめて、下さい…。い、言います…。言いますから…」 「体重は勘弁して上げるから、ちゃんとトップとアンダーとカップサイズも言いなさい」 「あううっ、どうして私がこんな目に…」 「不幸に酔ってないでさっさと言う!」 「はぁっ! あ、ううっ。 う、くっ。バストが93、67のG…です。う、ウェストが…はぁ、ご、56…。お、お願い、せめて今だけはそ、その…ち、乳首を、噛むのを……き、ひぃん。はぁ、はぅ、はぁっ、はっ、はぁっ、はぁっ。ううっ、う、ヒップが…86…です。 お、お願い…いいましたから、もう、もうやめっ」 親の仇に等しいほど憎い相手に、こうして哀願しなければいけない。自分をここまで追い込んでしまう自らの体さえ呪わしい…。性感なんてなければ、こんな事には…。 「んちゅ……。そんなに大きかったんだ…。私が84のCだから…うわ、10cmも違うの!? アスカの90Dも凄いと思ってたけど、マユミ、あなた凄すぎ。…なんか立ち直れなくなりそうだから、こっちはもうやめて上げるわ。 でもその代わり」 一際色濃く頬を染めるとユイはマユミのほっそりとした太股を抱き上げた。そっと、泡にまみれた秘所を凝視しながら、自らの腰を近づける。一瞬、マユミには男ならざるユイが何をしようとしているか分からなかったが、唐突に脳裏に浮かび上がった文章がその意図を悟らせた。 それはゲンドウが書いた小説の一編に出てきた愛撫。女性の性器同士をくっつけ擦り合わせる下半身の接吻…。 「行くわよ。女同士の、もう一つのキス」 「や、やだぁ……………うあっ」 上半身を起こして逃れようとしたマユミを乱暴に突き倒すと、下半身を密着させたまま、ゆっくり、墨をするように腰を前後に揺すり始める。 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ。 あひっ! ひっ、あひっ、ああっ! だ、ダメです、こんなのぉ」 「どう? 気持ちいいでしょう?」 血走った目をしてユイは呟く。だが忘我状態のマユミは気がつかないのか、嫌々と首を左右に振って乱れ悶える。元より返事は期待してなかったのか、ユイはまとわりついた泡を滴る汗で洗い流しながら囁いた。 「うふふ。体を、洗ったら、下の毛、綺麗に剃って上げるわ。ふ、ふふふ。もう人前には出られないわよ。そんな素敵な体をしてるのに。 そ、それからお尻の中のもの全部出して、……はぁ………漏れた媚薬を、たっぷりと塗り直して上げる」 「ふぅ、ああ。いや、いやなの。こんな、こんなの。 ひっ、ひぃ…ああ、来る。なにか、また、光が、来ちゃう」 「聞こえてないか…。その方が幸せ、かも知れないわね」 目を閉じ、首を反らせて喘ぐマユミの口にユイはそっとキスをする。 「そして、お風呂から上がって、体を拭いたら、「いけにえ」らしく、綺麗に飾ってあげるわ。 最高にセクシーなブラ、セクシーなショーツ、そのむっちりした太股にピッタリな、手レースのガードルとガーターベルト。も、勿論…手縫いよ。ああ、アスカのために注文したけど、結局間に合わなかった…ウェディングベールを付けて、あげる。そして、あふぅ、そして、香水を付けて、髪を梳いて…お化粧して、め、眼鏡…っ娘だから、眼鏡も勿論、忘れちゃ、ダメよね。そ、それから、ああ…あなたの全てを縛り上げる、ピンクの、リボン…」 腰を擦りつけながら息を荒げ、途切れ途切れに囁いていたユイの体がビクン、と震える。 刹那、マユミの腰が跳ね上がった。2人の最も敏感な部分が、お互いの腹部で触れ合った。 「うっ、ああっ!!」 「マユミ、あ、あなたって」 マユミとユイの体がシンクロしたように同期して痙攣する。たまらずユイの口からも絶頂の啼き声が溢れ、マユミの甲高い悲鳴に重なって消えていく。 M字型に開かれたマユミの足が指先までも震え、泡まみれの秘所から、生白い粘液が一筋、二筋と次々にこぼれ落ちた。 「最高よ…」 予想を超える美姫の味に、ユイは余裕を無くした表情で呟くしかなかった。まだ残っている絶頂の余韻に浸りながら、ユイは荒い息を整えていた。蠱惑的な舌先が、震えながら自らの唇を舐めた。 初出2004/11/10
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