畜類め、繁りやがれ! 12

Original text:LHS廚さん


 

 

「さて…早速で申し訳ないのですが。 リツコさん、アオイさん」

取り敢えず夕食は終了。
シンジ君の希望で、あたし達が前もって用意していた紅茶で食後のお茶会を始めることに。


「無いようで、少々ルールがわたくし達にも幾つかあるのですわ……と言うわけで。
 リツコさんもアオイさんも……お二人とも、喋って下さいまし」

? そんなのあったっけ。 そんな事した覚えないんだけどな、あたし。

「何を喋るのかしら」
「シンジさんを好きになった理由自体はわたくし達も知ってるつもりです。
 ショタ的に気に入ってた所にキス一発……と、ちゃんと自分を見てくれる人、と言う理由ですわね」

うわ、冷静の固まりみたいなアオイがここまで真っ赤になるの、初めて見た。
それに対して大人の貫禄、と思えるリツコさんの冷静さは、あこがれちゃうな。

でも。


「ショ……?! ま、まぁ、切っ掛けは間違っていないと思うけど」
「まぁ、そう言うこと。 シンジ君はちゃんと見つめてくれるって約束してくれたし」

「いえいえ、知りたいのはもう一つの事。シンジさんとの初体験について、語ってほしいのです」

さすがに、この一言には二人とも真っ赤になったわ。

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  えっと、漫才みたいに面白可笑しくやったり

「必要無いですわ」

じゃあ、えっと、恥ずかしい部分は適当に

「ごまかしてもいけないと思うよ、本来は」
「ボクを含めてみんなそうしてきたんです。 さっきだって、お二人は散々ボクに告白させといて自分のことは、初恋なんかを含めて殆ど教えてくれなかったじゃないですか」

あの、さ。 皆もその、告白したわけ?

「私はアスカに……。 まずしましたよ、告白」
「……私も、『知っていてほしいの』といって、幾人もの前で話しました」


それじゃサツキ、貴女も話したの? みんなに。
……ってどうしてヒカリちゃんが真っ赤になるの?

「サツキさんの場合は……初体験自体を見ました、私が実際に」
「(真っ赤)……そう言うこと」

は!? 見せたぁ? あんたそんな趣味有ったの?!


ま、まぁ、いいか。

「良いんですか?!アオイさん!?」

しきたりならしょうがないわ、シンジくん。
別に、むりに隠して置きたいことでもないし……。

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二日前。

「シンジの側にいさせなさいよぉ!」
「別に拘束してる訳じゃないんだし、数日で帰れるわよ」
「……多分、絶対にいるのよ」
「誰が?」
「LABOR-011316。 あれ使って『悪事』働いてたやつに、『結果』を見てたやつらの中にも」
「あぁ、シンジ君の『日常』を配信していたあのサーバね」
「あれ見た奴らの中には、必ず居るわ『私も経験してみた〜い♪』って子が」
「成る程……深夜、忍び込み……って、何よ」
「あんたが、その『危ない子』の筆頭になっちゃってるのよ!? 判ってるのリツコ?!」
「良いわよ、それで」
「はい?」
「そんな手使わなくてもどんどん彼を知りたくなってるし……それより良いの、手を回さなくて」
「何よ、回すって」
「私の豹変理由を知りたかった男子にあのサーバ、見つかっちゃったわよ?」
「な、なんですってぇ!!」

 


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「えっと。 シンジ君の寝ている映像を十分ほど拝借、っと」

以前、まだショタという趣味が自分の中で確立される前に
付き合ってた奴と観た、どっちかって言うと古い方になる映画。

「……うん、ここならループの継ぎ目は殆どばれないわね」


犯人の目を誤魔化す為に、バスの映像をリピートさせて状況に変化なし、と見せかける手段。


これは使えるって、思ったの。 シンジ君への『夜這』……いや、『襲撃』に。

公式の資料として実際に記録される映像には流石に細工しなかったけど
スニッフィングをしているプログラムに細工をして、別映像を流させる。
これで、『盗撮』をしている人達の端末に送られる映像なら誤魔化せるはず。


「ふふふっ」

数時間で良いのよ。
だってね。

あの子供達も、サツキも、皆そろって初めてだったのよ。
男性遍歴なんて物はまぁ、誇れるほど無いけど、それでも。

奉仕を受ける、っていう事を経験してないであろう彼なら、もしかしたらってね。


……


はい、私が馬鹿でした。
海に墨汁おとしたって、びん一本分位じゃどうにもなりませんでした。

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「なぁ、良いのかマコト。 アオイちゃんまで逝ってしまいそうだぞ?」
「いいよ。 俺は葛城さんが関係しなきゃ特に目くじら立てないし」

 

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「……サツキィ。 教えて欲しい事があるんだけど」

端末に向けられた手を止め、振り返るあたし。

「LABOR-011316……って判りますか?」
「マユミちゃん……あのサーバの事ならもう無いわよ。 物理的に」

思いっきりほっとする一同に。

「まぁ、安心して。あれらは機密の固まりと同じ扱いだから、本部内でしか観られないように細工されているもの。
 裏DVDみたいな形で配布されることはないから。
 ……ただ、『盗撮』サーバが無くなったかどうかについては、何も言えないけどね」
「と、言いますと?」
「本部内にもコミュニティーがあってね。 マヤが主催している『めーる瓦版』があるのよ。
 ほら、たとえばこれ……マグマの中、シンジ君がアスカちゃんをを助けた時に配信されたやつ」

流石は同志、と言うところなのかな、メール本文よりも添付されてる
『熱さと痛みに耐え、初号機でアスカを助けた時の凛々しいシンジ君』に興味が向きかかってる。

「で、最近はあのサーバから流れてた映像を暗号化したメールで配信してたのよね。
 それがほら、あたしがシンジ君と……その……した日からぷっつり。
 サーバの方は赤木博士が潰したらしいんだけど、多分配信自体は続いてるんじゃないかな。
 こっそり別のサーバでも建てて……って。 みんな、聞いてる?」


駄目だわ。 彼女達には破壊力ありまくりだったわね、これ。
日常に締まりがないって言うか、微妙にへたれなシンジ君のここまで凛々しい顔にもう、皆さんそろって。

「それで、このメールを配信なさっていたのは伊吹主任ですの?」
「……この『瓦版・花麒麟』って言うメールマガジン自体をやってたのはマヤじゃないわ。
 アオイが作成から配信まで……っていない?」

まさか、と思って配信アドレスを減俸仲間、夕凪ミナモから入手。
覗いてみた結果は……白。


だと思ってたのよ。

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『あの日』。 父さんと母さんがあの日、自分の身を使って私を守ってくれたとき。

その命をかけて、私に『生きていて欲しい』、と二人が伝えてくれたとき。

何時か私も、誇りをもって、誰かにそれを言える人になろう。

私が、生きていた証となって、私の思いを受け継いで。
……心の片隅に、ずっと私を覚え続けてくれる人が、いて欲しかった。
だから、私は。    NERVに入った。

すくなくとも、「自分を誇れる人』に、なりたかったから。

何回か、恋をして。 気持ちを確かめ合って。 でも、すれ違ったりもして。
いつの間にか、働くことにのめり込んでいた、私。


そんなある日。 あの場所で、あの表情で。 私は心に決めたのかもしれない。
その相手に、シンジ君を選んでいた。

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いつかの再現のような、白い病室。
シンジ君の状態もまた、あの時のままだったわ。

「……あの樹の側に立っていたのは……」

ぼけーっとした気分は抜け切れていないらしい。
アスカちゃんなら『何時もの事』で済んじゃうんじゃないかな。

「……本当に、母さんだったのかな、あの人。 僕は、父さんじゃ、ないのに」

……って、『お母さん』!?
流石にそれは危なすぎるわ、シンジ君……。

 


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あの時、僕を求めていたのは母さんだったのか。
あの時、僕を助けてくれたあの焦げ茶の光は『誰』だったのか。

それを考えていたはずなのに。

「あの時といっしょだね。 シンジ君」

僕に何かを期待している、あの瞳を見た瞬間。 一瞬で、それが全部消えた。
全部、まっしろに……。

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「や、そんなところ、いやぁっ」

自分の手のひらで彼女が踊る。
それが、とても、楽しい。

上半身はまだ、少しも脱がしていないのに。
平均値より少し大きい二つの高まりを、何枚かの布越しに、しっかりと。
新しい、その胸の『持ち主』が誰かをしっかりと刻みつけてあげる。

少しずつ、少しずつ。

上半身とは正反対に、熟れきった、涙を流すように僕を求める裂け目も。

「こんな、ちが、わたししらな……?!」

初めて感じる、誰かを迎え入れた事のあるひだはとても柔らかくて。
彼女の気持ちを初めて受け止めた誰かに一寸だけ、嫉妬した。

「こんな、けいけ、した……ゃだ、あたしがぁ?」

服の中で蒸れながら張りつめる乳房も、痛いと思えるほどに締め付けられる『新しい』感触も。
『経験』で、判る。  教えてくれる。
彼女も、もう、『私』に逆らえない。

彼女も、また……私のかわいい『子…


…え?


違う!僕はそんな事、彼女に求めてないっ!
僕は『……さん』じゃない! 好きな人達に、そんな事求めてないよっ。

僕は、ぼくはっ


「もう、イッちゃ」
「僕は、碇シンジだよっ!」

思いっきり、体を起した動作が腰の突き上げにつながって。
病室の中に響き渡らせるような叫び声をあげて。
『僕』を求めて抱きしめてくれる、その体にこたえて。

「ぅぅぅぅぅぅぅっ……!!」
「シンジくんっ、はなさないでぇっ!」


ほんの少しだけ、僕はアオイさんと溶けあった。

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情事はそれなりに数をこなしていた私でも。
妙に、何か言えない状況だった。

こんな経験初めてだから、なんて言ったら理解して貰えるかなんて判らない。
けど、途中まで、私はシンジ君としてなかった、と思う。
どこか、違っていた。  痒いところに手が届く、っていうか。
今までの経験が嘘のような、そんな高みへ。

「ありがと、シンジ君。 私、貴方に抱かれてよかった」

私の経験には女同士の関係はないけど。  シンジ君が『女性』だと思った。
シンジ君のは確かに私の中深く入っていたし、何より射精された感覚はちゃんとあるわ。
でも、何かが違う。 そんな思いを胸に、私は彼の胸にしがみついていた。
もう少しで筋肉が目立ち始める、そんな細いだけじゃない胸……。
あ。 髪を撫でてくれてる。

「……ありがとうございます、アオイさん」
「どうか、したの?」

不安そうな声に顔を上げた私の前に、同じく不安そうな彼の顔。
EVAに乗り始めたときとあの頃と同じ。
自分が判らない、って感じの顔。

「怖かったんです、さっき。 僕じゃなくなる気がして。 今までとは違ってたんです。
 以前アスカに『アタシ達を抱くシンジって女の子みたい』って話があったんですけど」

あ、そうか。
途中から感じていた違和感がようやく判った気がする。
男の子の視線とかが気になり始めた頃学校とかでやった、胸の大きさの確かめ合い。
彼の愛し方は、そんな、女の子同士のじゃれ合いに似ていた所があったんだ。
シンジ君の説明を聞きながら、私はそんなことを考えていた。

「今までの僕じゃない『僕』なのに……アオイさんはちゃんと僕を見てくれていた。
 それに気付けたから、自分が取り戻せた気がします」

いつになくおしゃべりなシンジ君の唇をキスで止めて。
汗が染みこんだ上着を脱ぎながら。

「じゃぁ、今度こそ『シンジ君』が抱いて。 私がちゃんと、受け止めてあげるから」

シンジ君は何も言わずに、私を抱きしめてくれた。

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「……それで、また、シンジ君と」
「二回戦突入、ですか。 いいなぁ」
「でも、無理は禁物です、マナさん。 ボクは行為自体まだなんですから」


告白お茶会も二回戦。
紅茶の次はシンジ君の好みの焙じ茶。
意外にも、このお茶のにおいはコーヒー党の私でも心地よい匂い。
そのまま一杯目を半分飲み干した頃、洞木さんが口火を切って来た。


「そう言えば……赤木さん、貴女が全然出て来ないのですけど」
「確かにそうですね」
「甘く切ない思い出、ってことでパスは」
「「駄目です(わ)」」

真っ赤になったであろう頬を押さえ、焙じ茶にショートケーキは合わないと用意されたお茶請け、芋羊羹にぷすぷすと爪楊枝で穴を開けていく。
ミサトと加持君には「下品だ」と言い切られてしまった、子供の頃からの妙な癖だ。

下を向けた私の顔を、アスカは興味津々な態度で覗き込んでくる。

「……やっぱ、リツコでも告白は恥ずかしい?」


まぁ、お約束というやつなら仕方ない、と腹を決めて、話し始める。
どこから話すべきかしら……。


「そうね……丁度その頃、私はシンジ君の夕食を作っていたのよ。
 サツキと、私の分と三人分。 特に食事制限とかはする必要自体無かったし。 何より、自分が好きになってしまった事を教えておきたかったから……ね」
「で、主任が料理殆ど駄目って言うんで、私が調理に付き合ってたの。 でもねぇ。 アオイがその頃励んでたなんて……結局、何回ヤッたの?」
「二回よ」


爪楊枝の通った穴で真っ二つになった羊羹の大きい方を口に。

「それだけで、満足できるものなの?」
「快感とか体の満足、って言う意味なら一回目で満足したと思いますが、あの時言った通りシンジ君に抱かれたと思えなかったんです。
 それで、二回目……でも、何故か本当に満たされちゃったんですよね、ホント」

パリポリと薄焼きお煎餅をかじりながら、頬を赤らめ恍惚とする彼女。
うーん。  私、一回目は痛いだけだったんだけど。 初めてだったし。


「じゃあ、あの時シンジ君に寄り添っていた時は、やっぱり?」
「うん、純粋に寝てたわ。 疲れ溜まってたし」

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「良いのかしら? 御飯とプレーンオムレツとポテトサラダに」
「それで良いんですって。 料理のスジは良かったんですから。
 無理にたくさん一度に覚えて失敗するクセを作るより、得意料理を作った方が良いんですよ」

時刻は、夜9時半ぐらいだったかしら。

「でも、シンジ君は料理美味しいってきくし、洞木さんも美味しいらしいし」
「そんなこと言ってたらマヤなんて最悪ですよ? 調理師免許持ってるのに彼女の料理、大抵普通の倍、砂糖が入ってるしろものなんですから」

シンジ君の病室は16-03。
調理をするために借りた喫茶室「ひやしんす」の厨房から5分くらいだったかな。
でも意外だった。 赤木博士が恋愛に対して本当に臆病だったんだから。

「仕方ないじゃない。 シンジ君が気になりだしたのがあの切っ掛けだし。 あの後も、訓練とかアスカを助けた時とかに」
「え?! じゃ、じゃああの写真で火、付いちゃったんですか?」
「まぁ、ね。 加持君に対して持ってたのは只の憧れで。
 司令に感じていたのは只の「情」だと思うの。 狡い気もするけど、私が彼に、その……」

アタシが彼の病屋の扉を開けながら『何です?』って聞いて。
『司令より好意を持ってる、って思ったのがあの山岸さんを助けた時の表情だったし』
そこで、固まっちゃったのよ、リツコさん。

ナニかしら、ってそっち……つまりシンジ君の方を見た時。

「あら?」


スプーニングって言うらしいポーズをしている二人を見つけちゃった訳なのよ。
ほら、スプーンをそのまま二本重ね合わせると、丁度一本のように見える時あるでしょ?
あんな感じでシンジ君の背中にアオイが張り付いてたの。

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滅多に見られない赤木主任の赤面を見ながら、茶飲み告白は続く。

「そう言えば、シンジさん、しばらく姉が金髪になったのに気付いていなかったみたいですけど。 やっぱり、リツコさんの髪の変化にも驚かれました?」
「あ、それそれ! シンジ君の驚きようって」
「サツキさぁん。 どっちとも僕は知らなかったんですから」

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「えっと、どう起したらいいのかしら」
「布団を剥いてみます? アオイはその程度では起きませんが、シンジ君なら十分だと思います」

あ……あの時と同じ。オムレツの匂いだ。
オムレツと言えばあの後、ヒカリに……って。

「え?」

ぱっちりと目を開けて、はじめて見たのは加持さんみたいに髪を一本縛りにした女性。
えっと、どこかで見かけたような人だけど、もし初めて会った人なら失礼だろう……って。

「……?!」

そこまで考えて、お布団の中から抜け出て、視線に入り込んできたマニキュア付きの手に一気に肝が冷えた。
だ、だってもし初めて会ったドクターの方なら、ヒカリとの時のミサトさんの勘違いと言うか、お小言の比じゃないしっ。

『シンちゃん。 口元を拭いなさい。 独り者三人には目の毒だし、失礼よ』

あの時の口紅は、ヒカリじゃなくてアオイさんのだったんだから。
あの後ヒカリに『誰の?』って責められたし、サツキさんとの時はそれをネタに責められちゃったし。

どーしよう……。

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真っ白になった僕は、必死になってアオイさんを起そうとしたんだけど。
よく判らないけど長年の望みが叶ったという「敵」もなかなか頑張ってくれるんだ。

「……良いじゃないぃ……」

とか

「もう、今日は満足したんだからぁ」

なんて言いながらさらに腕へ力を込めてきてくれる。
胸に爪をたてたり、ウトウトしながら「かぷっ」と噛み付いてくれたり。
彼女なりの「愛情表現」なのか、それとも「自分のモノ」という証なのか。
とにかく狸寝入りしているんじゃないか、って思える程に離してくれない。

「アオイさん……お願い……離してださい……」

僕はもう、気を失ってしまった方が良いんじゃないかって思ったくらいだ。
目の前の彼女も、顔色は真っ白。 どうしたらいいのかもう判らなくなっていた。

 

「大丈夫。 アオイは凄まじく寝起きが悪いのと、抱きつき癖があるだけだし。 それよりこの程度で驚いてたら、これからを考えられなくなりますよ? ……にしても」


え? あ、あの、もしかして。
そんな声を出そうにも、アオイさんの指が口につっこまれて何も言えず。

「もひかひて」

その台詞に合わせたように、ふわふわした髪が額をくすぐった。
夕食が乗っているらしいカートをあの人が僕の側へ持ってくるのに合わせて、サツキさんが僕の口と身体をアオイさんのマニキュア手から離してくれる。


「慣れてないと、アオイのチーク攻撃はきついのよね」

自身は何度か『経験』して慣れているのか、サツキさんは僕たちが使っていた枕を手持ちぶさたなアオイさんの胸元にぽん、とくっつけた。
それに合わせて彼女の両手が枕に伸びて、枕の中身が飛び出してしまうんじゃないか、と言うくらいにぎゅっと抱きしめながら丸くなる。

 

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「その後、いつ気付いたの? 赤木さんのこと」
「実は、泣き黒子、っていうんだっけ。 それで気付いたんだ」


この時電話の音が四号室から響いて、赤木主任が席を外す。

電話は、かなり長かった。

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数十分後。 司令執務室。

 

「どうした冬月。 白衣を着た姿を見るのは久しぶりだな」
「素体の内、三体の組織崩壊が始まっているのを確認した」

椅子が壊れてしまうほどの勢いで、碇はまた動揺を隠しもせず立ち上がる。
事ここに至ってもなお、自分の計画はゆがんでいないと思っていたのか、此奴は。

「赤木博士は?!」
「彼女がこれからも管理する事を宣言したのは『レイ』だ。 あれらではない。
 それに、言った筈だ。 『レイ自身の『意志』でこの嘘は事実に出来る』と。
 今の生活に執着させた結果だ。

 『ダミー』に使った一体以外は諦めろ。
 恐らく、ほかの素体達にも崩壊は波及するだろう。
 赤木博士も同意見だ。 残りは全て破棄した方が良い。 『レイ』を安定させるためにも」

考えれば判ることなのだ。
レイが自らをモノ、として認識しているのなら、身体が何体合ったとしても問題はない。

『モノは修理や取り替えがきく』のだから。


だが、シンジ君や例のハーレム参加者達の影響、何よりレイ自身の『選択』として『人間』としての人生を選ぶのなら、これは最大の矛盾になる。

三人目になることは、同時に二人目のレイの死を意味するしな。

『れい』達の維持を制御し、また『レイ』の記憶のバックアップをしている脊髄状のあのシステムはこのジオフロントと同じ、誰が作ったのか判らないシステム。
こうなってもおかしくない、と言う予感もあった。

ドッペルゲンガーみたいなものだ。
自分を維持……いや、自分を産みだし、守るために。
システムが『レイ』以外の『れい』を破壊しだしたのだ。


「何故、個性がバックアップ・システムに影響を及ぼすと判らなかった」
「あれは使い方しか判っていないのは知ってるはずだ。 南極であったことと一緒だよ。 個性を付けてみないことには判断が不能だろうが」


碇のうめき声だけが、部屋に響く。


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  「はぁ……暇ねぇ」
「仕方有りませんわ。 リツコさんが居なければ告白に意味はないのですから。 ……でも、確かに少々時間かかってますわね」

「……ねぇ、皆は「お母さん」のこと、どれだけ覚えてる?」

「はは、ですか?」
「アタシは一度、シンジに言った事あったわよね。
 ママはEVAの実験に無理に参加、発狂したの。
 そう言えば……アタシがチルドレンになった日、目の前で自殺してしまったのは話したっけ?」

ぶふぅぅ!!

「意外ですわね。 そのことを貴女自身の口から聞くとは」
「レイに言われた事があるの。 自分の嫌な部分を受け入れろ、って。
 アタシにとっての『嫌な事』の象徴って、やっぱりあれなのよ……ヒカリは?」
「私の場合は、飛行機の墜落。 フランスに居たお祖母さんの所にお見舞いに行った帰り、その飛行機が堕ちたわけです。 ……マナちゃんは?」
「私は元々孤児だから……。 次、マユミ」
「私はある意味アスカさんより酷いですね。 目の前で母を……」
「あ……ごめん」
「どうして背格好……容姿の話が出ないの?」
「それはですねアオイさん。 この写真があるからですわ」
「……へぇ。 こうして見るとまるで、会うべくしてあったみたいね、みんなは」

「そう言えば、マリイのママの話は? アタシも聞いたこと無かったけど」
「レミット・ビンセンス。 エジプト人の母とフランス人の父のハーフ。
 死別したそうなので父は知りませんが、アメリカ滞在中に生まれたのでわたくし自身の国籍はアメリカ。
 わたくしとは ある意味似ても似つかない純黒人的な母でしたわ。
 写真はこれです」

「きれいな人ですね」
「黒人の方でストレートの金髪、っていうのはすごく映えるんですね。
 ヒカリさんが金髪になっちゃった時も綺麗になったな、と思いましたけど。
 また違う綺麗さがあると思います」

「母が聞けば嬉しがったと思いますわ。 母は褒められる事がとても嬉しいと
 思う人でしたので」
「確かに、マリイさんは褒められるのがとても嬉しいと感じる人ですし」
「ちょっと……引っかかるような」


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「もう十分経ちましたね」
「もしかして、自分の部屋に飛び込んであうあうって」
「腹括ってるからそんな事だけはしないわよ」


扉が開いて、リツコさんが帰って来ました。
その表情はかなり疲れているような、その中に何かすっきりしたような、そんな様々な感情が交じり合った感じです。

「あら、アスカ、起きてたの」
「ま、お腹はすいてたから」
「ボクの御飯の匂いが丁度良い目覚ましになったらしいです」

アスカはまぁ、何というか。
まるで掃除機のように口の中にもぐもぐと飯も、御味噌汁も、漬物もみんなしっかりと口の中に放り込んで行く。
リツコさんは、それを不思議そうに見つめながらお茶のお代わりを頼んだ。

「アスカってお箸使えないと思ってたのよね、最初は」
「ママがハシだけは使えるようになれ、って何時も言ってたからね。
 あとは、敬語とか、目上の人への態度とか……あ、そう言えばマリイ、
 一度聞いてみたいことがあるんだけどさ?」
「何でしょう?」

 

「写真の事といい、アンタってママ経由で江戸時代の事詳しかったわよね。
 『ちり紙を口で取った方がいい時もあるって覚えておきなさい』
 ……って、どういう意味?」

「大抵『手が塞がって』いるからですわ……花魁のマナー、と言えばお判りでしょう?
 全く……キョウコさんも何故そのような事を教えてるんでしょうか……」

 

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その話を突き詰めるのは、とても怖かった。
ユイさんが日本の『歴史』を勉強していた事を知っていたからこそ。
それを残り四人がなんだかんだ言って真似していた事を。
たぐり寄せる思いの果てにある物は、「三回目」を起そうとしている「親」……。

取り敢えず、興味を全員が持ちそうな話は一つしか知らないわけで。

 

「ま、まぁ、そう言う知識は二人のお陰で手に入る訳だけど……私の告白は?」「あ! そう言えばそうでしたね」
「……楽しみ。 シンジ君を悦ばせる知識を、得られそうだし(ずず……)」
「別に、側に居てくれるだけで良いんだけどな……」
「それだけじゃ嫌なんです。 ボク達は」
「ノゾミ達が居ることは、ノゾミ達にしかできないことだけど?」
「……そう言って下さるのは本当に嬉しいのです。 でも、それだけでは嫌なのですよ、シンジさん」
「そーそー。 アタシ達は美しい『想い』だけじゃなく、粘り着くような『欲望』も持っているんだから」
「じゃ、リツコさん。 お願いしまぁす!」

視線が一斉に、最年長を更新した私に集中するのが判る。

「なにかたべるもの、ありますかぁ?」

すっとぼけた反応で緊張を壊してくれたのはふすまの開く音と一緒に現れた、マユミさん。
文字通り素っ裸にタオルを巻いただけな彼女を見てシンジ君が動転したり、
『アンタ、いい加減慣れなさいよ!』とアスカ達がからかったり。

そんな流れに隠れて、マナちゃんはブレスレットを使って定時連絡を入れ、ノゾミちゃんが早速、彼女の分の夕食を用意するのを眺めつつ。

私の告白が始まった。

 


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「えっと、どこまで話したことになってるのかしら」
「あたしがアオイの胸元に枕を置いたところまでです」
「そう言えばそうだったわね。 シンジ君が私の事、判らなかったあたり」

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シンジ君の反応は、正直言って父親である碇司令とはまったく正反対な感じがしたわ。
真っ青になって私を見つめて、私が誰なのか判らなかった筈なのに。
サツキが抱きつき魔に枕をあげて沈めた頃には。

「何故、その、染めるの、止めたんですか?」
「……流石『受け身ハーレム王』。 すぐに気付いたの?」
「その、えっと、ほくろが見えて、その、えっと」

私は私で、どう言ったらシンジ君と付き合って、その先までいけるのかな、って思いつかなかったし。
首筋とかに付いてるアオイの口紅をためらわずにぬぐえるサツキに一寸だけ、嫉妬していたのよ。

 

 みんなは誤解していると想うけど、私は正直なところ化粧するのが大嫌い。
髪を金髪に染めていたのだって、眉毛だけ染めていなかったのだって。
そっち(ギャップ?)に目がいってくれれば、人並以下の化粧でもまぁ、あらが目立つことはそれほどないだろうという気分だった。
かなり長い間、実験、また実験の日々を過ごしていたんだし。

それなりに化粧を覚えよう、と言う気になったのは司令と付き合っていたときだけ。

まぁ、そんなこと気にも留めない人だったけど。


シンジ君の側にいるときは、荒れさえなければ良い、と言う気になってしまうの。
化粧なんて見ようともしない呑気な、でも、肌の荒れだけは健康面を気にする。

……最も、司令と違うのは、ちゃんと化粧していると、ふと気付いて
真っ赤になってくれること……でも、とても嬉しそうに、一寸だけ誇らしげに。
今はし始めてるわよ?
自分だけの為に、努力して化粧をしてると言うことを、判ってくれてるから。


そんな違いが、シンジ君を好きになっていった理由の一つかもしれない。
まぁ……確かに鈍感かもしれないけど、ちゃんと見て、気付いてくれるのは。
『私にとって、とてもとても……嬉しいものなのよ、加持君』って。
今なら、泣き黒子を突っ込んだ人達に言えそう。

『泣いた意味があったわ』って。

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「そう言えば(もぐもぐ)、手が温かかったのが……っていうのはどうして?」
「最初の使徒の時、私達ってかなり強引にシンジ君をEvaに乗せたの。
 それ以降もしばらく色々あったんだけどね……。

 シンジ君、レイのIDを届けに行ってくれない?って頼んだ時、
 何の躊躇いもなく、カードを私の手から受け取ってくれた」
「……? それが、何故?」

私ってかなり根に持つところがあると思うのよ。
この前のJa騒動の時も。 あの時田って人に色々言われた後、あの人達に貰ったパンフレット、早速ライターで燃やしたし。

そんな私だから、あの時もシンジ君はおそるおそる、っていうか
私の基準では酷く怯えたりしながら、渋々受け取っていくだろうって思ってた。
でも、シンジ君はそんなそぶり無かったの。
想いが生まれる切っ掛けは、そんなものの、積み重ね。


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「へっ?」
「いやだから、俺はその可能性、正直、あの頃のアスカより、くっつく可能性は有りだと思ってたよ。
 もっとも、リッちゃんまで、あのグループに入ってしまうとはなぁ」
「……何時、気付いたのよっ?!」
「溶岩の中でアスカが戦った使徒のこと、覚えてるよな。
 あの後、葛城達が泊まったあの旅館であったんだ、切っ掛け。
 俺は直接行かなかったけど、リッちゃんとシンジ君が、その……なんだ。
 かなり良い雰囲気になった所をウチの部下達の何人かが見てるんだよ」


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半分ほど開け放れたふすま。
窓のすぐ下に移動された小さいテーブルと、その周囲に扇状に散乱した書類。

赤みが薄れ、「朝」に移りつつある夜明けの光にさらされているのは。

少しだけ、くまを作った技術主任と、彼女の肩を丁寧に揉む『三人目』。

 

『本当に、すみません……リツコさん。 僕達だけで宴会やっちゃって。
 一人で、徹夜で、騒がしい僕らの部屋の隣の部屋で、お仕事頑張ってるの、知らなくて……』
『……どうして?』
『はい?』
『私、初めて会った時からシンジ君のこと、一寸だけ、嫌な目で見てた。
 私、シンジ君のお母さん、ユイさんと一寸仲が悪かった時があって。
 その気持ちのまま、何も知らないあなたに当たってた。
 初めて会った時でさえ、シンジ君をEvaの部品としてしか見ないことで。
 君を、嫌いになろうと思ってた』
『……そうだったんですか』

「冷たくない、でもさわやかな何かを感じる」流し目を向ける技術主任。


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「で、その後は?」
「特に何もなかった。 だってもしキスなんぞしてたら間違いなく付き合ってたし、リッちゃんの立場上付き合うつもりが無くても、そうしなければならないかも知れなかった訳……知ってるだろ?」

『強制恋愛薬』計画。
年頃の子供なら誰でも憧れ始める『恋愛』を糧に、シンちゃん達の精神にアクセスして暗示をかける。
『恋愛』をしてる職員を守るために戦う、という思考に調整してしまう。

最悪の場合、『恋人』の命と引き替えに、と言う自殺的作戦すら選択させられるほどに、疑えない位に。
計画の中核をなす薬がショタコンとかロリータとかの、皆に危険と言われかねない肉体関係の成立を前提にしているのも……子供達には、効く筈。

アスカなんか、もし加持相手となったら「OKの三連呼!」なんて言いかねない。
そうさせる薬自体がまだ未完成だからこそ助かった、計画だった。


「……って。 最後に『お互いに頑張りましょ』って、シンジ君とリッちゃんの握手が感動的だったそうだ」
「……どっちとも、運が良かったわ」
「確かに……言わんとしてる事は判る。 この前の『扉の向こう』といい、Nervには裏がありすぎるしな。
 まぁ結果として、シンジ君とアスカ達の関係は薬抜きで計画の効果を成立させてるし、俺ではアスカを幸せに出来ないと判ってるのさ。 何より」
「?」
「親代わりの俺が、誰が相手であれ『薬で出来た関係』なんて許す事は出来ないんだ」


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「話は変わって……」

小皿に盛られたクラゲの梅和えをつつきながら、ミサトは呟く。

「アンタ、何時シンジ君に仕込んだ訳? エッチのテクニック」


  「シンジ君の「ブレイク」に俺は関わってないぞ? 少なくとも俺はテクニックなんて持ってるとは考えてないし。
 第一、彼はこの所家事全般で忙しそうだったじゃないか」
「う……でもさ、シンちゃんがどうやって」

そう言いつつ、葛城は指を折り始め……考えたく無くなったのか、慌てて手を振る事でごまかした。
『関係を持ってる子』だけで埋まってしまった事に、改めて葛城の頬がひくひくと引きつっている。

「全員が男の趣味も感じる所も同じって……知識はアンタかあの二人以外手に入れようがない筈なのよ?」
「単刀直入に言うぞ。 お前が」
「冗談でも言わないで……」
「だが、これは『人が変わる』と言うレベルでは説明できないぞ」

いぶかしむ葛城に、封筒を手渡す。
その写真に写ってるのを知ったときには、もう、遅かった。
望んだ結果の筈だし、本人の意志だった事なのに、何故か、どうしても納得がいかない何かが写っている。


葛城は不信感丸出しで封筒の中を取りだし、覗いて、真っ青になり、真っ赤になり、目をこすり……。


「……何時かだけは言っておく。 シンジ君とマユミちゃんが退院した日の午後九時四十五分頃。
 偶然部下共に俺が差し入れに行ったとき、実際に肉眼で見て絶句したよ。
 二人とも、シンジ君と『いた』のは実質数時間の筈。 シンジ君の天賦の才能なのか?!って」

写真には、開かれた扉越しに微笑みあうアスカと洞木さんが写っている。
二人とも、何一つ身にまとっていない。 片方の服は、足下に纏まっている。

これから起きる事に、うっとりとした裸の女が二人。
俺ですらその気になってしまいそうな、『本物』だけが持つ淫靡さがにじみ出ている写真。

「あたしが知ってる限り、二人とも潔癖な思考をするはずなのに……ここまでさせる位に凄いの……」
「……興味持つなよ、シンジ君のテクニックに」

ごくりと鳴る喉が、『それだけは不可能だ』と言っているみたいだった。

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