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君は後ろも見ずに駆けだした。 今のままでは、暴力に飢えた浮浪者達相手に勝ち目はない。君は屈辱に涙を流しながら、逃げ出した。 勝ち目のない戦いは避ける…。 それは大変賢明な判断であったが、君には少々運が味方していなかったようだ。 君の体に勢いがついたその時、君は革靴のつま先にぶつかる衝撃に息を呑んだ。鋭い痛みがつま先から脳天まで貫き、同時に世界が回転する。青空が下になり、薄汚れた地面が空になる。 (な、なんだ!?) 混乱した君が全てを理解する前に、君は方にぶつかる固い衝撃に文字通り目から火花を散らせて悶絶した。堅かった物が潰れ、ぐちゅりと柔らかくなる独特の感覚に吐き気さえ感じる。 そして、声を上げることもできないほどの激痛が走った。 「う、ぐぉおっ」 君には自分のあげた悲鳴が自分のものであるかそうでないのか、それさえも気にする余裕はなかった。ただ、砕けた肩から広がる言語を絶する苦痛に身をよじり、黄色く濁った胃液混じりの涎を垂らした。 「へっ、馬鹿な奴だ」 「兄貴の言うとおりだぜ。だが、これで許してもらえると思うなよ」 追いついてきた浮浪者達の言葉が、どこか遠くのことのように聞こえる。 「…怪我してるみたいだな。でもまあ、あっちの方は使えるだろ」 「ひ、久しぶりの、お…男」 もし君が苦痛に身悶えてなければ、男達が話している物騒な言葉の意味を悟り、全身を総毛立たせていたことだろう。だが、今の君は指一本動かすこともできない。 つまり、完全に終わりだ。 運良く目撃者がいて、このことを警察に伝えたとしても、助けが来るのは全てが終わった後だろう。 まったく最低の終わり方だ。 よりにもよっって、ゲイの浮浪者にカマを掘られるのだから。 それもこれも、よからぬ事を考えた報いと言うべきか。 君は薄暗い物陰に引きずられていった |