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 こんな所で捕まってたまるか!

 君は踵を返すと、とにかくその場を離れることにした。その動作は傍目から見ても怪しいことこの上なく、疑念を確信に変える充分な理由となった。警官は露骨に罵りながらこっちに向かってくる。

(ちっ、過剰反応すぎるぜ)


 鍛えてある分、足は向こうの方が速そうだが、こちらは連日の調査である程度身を隠せる場所などを熟知している。警官も知らない道無き道を駆け抜け、なんとしても逃げ切ってやる。
 しかし、運命の女神は君のことを見限ったらしい。あるいは、あまりにフォローできない行動をする君に呆れ返ったのか。恐らく後者だ、夕餉の豆スープを賭けて。
 警官に注意を向けていた君は、そろそろと背後から近づいてきた1人の青年の姿に気付かない。じつは君が木の周囲をうろうろしていたときから、正義の目を付けていた人物、怪しい男がいると監視を続けていたコンビニエンスストアの店員だ。

「大人しくしろ、この変質者め!」

 相手の腰に肩から当たる、本格的なタックル。彼は経験者だ。
 激しい衝撃を殺すことも出来ず、もんどりうって君はその場に倒れ込んだ。店員はそのまま君の上に馬乗りになると、服の襟を締め上げて君に屠殺される豚のようなキイキイ声をあげさせる。
 一方、君の手から投げ出されたカバンが路上を転がり、やって来た警察官がゆっくりと拾い上げる。その目は現行犯の強姦魔を見るように厳しい。まだ未遂にもなっていないと言うのに。

「なにをしていたのかね。君は」
「あ、お、お、俺は」

 苦しい息の下、君は必死に言葉を錬って良いわけを考えた。だが、警察官は返答を待っていなかった。君が何かを言う前にカバンを開け、そして何ごとか少し考え、それから顔を真っ赤にして君のことを睨み付けた。

「なんだこれは!」
「そ、それは会社の売り物で」
「なんだとー!? 貴様のように怪しい奴は俺が警官になってから初めてだ!」
「違うのじゃよー! これは何かの陰謀なのじゃよー!」

 警官は君を引き起こすと、後ろ手にねじりあげた。骨が軋み、筋が引きつる苦痛に、君は本当に動物のような悲鳴をあげる。騒ぎでマンションの住人達が君たちの方を見ている。マユミの顔はないようだが、いずれにしても君の顔はマンションの住人達に覚えられた。

「いてててて、勘弁して下さいよ」
「詳しい話はそこの交番で聞かせてもらうぞ!」







 結局の所、挙動不審だったがまだ何もしていなかったため君はほどなく解放される。
 だが、しっかりと警察に目を付けられてしまった。バイブやカメラ、媚薬など、大人の玩具をこれでもかと所持していたのだから当然と言えば当然だ。さらに会社の方もこれで手痛い打撃を受け、結果として君は職を失うという余計な痛手をこうむることになる。
 もはやマンションに近づくことはおろか、この街に居続けることも難しい。
 父親の住む…実家のある田舎に帰るのもそう遠くない。
 君の復讐劇は敢えなく閉幕となった。それも考えられる限り最も無様な幕切れで。そして君の人生は常に薄闇に包まれた至極詰まらない物となるだろう。その一方で、憎いシンジ達は幸せに生涯を送るのだ。

 君は失敗した。



 無様ね






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