046
君に群がり寄る大量の蚊達。 だが君は慌てず騒がず、虫除けスプレーをとりだした。 「シュッと一吹き」 君の体に微かに刺激臭のする煙が吹き付けられ、たちまちのうちにあれほど君を悩ましていた蚊は一斉にいなくなった。これで安心して覗きが続けられる。 (良い写真が撮れると良いな) 「ふん、まああまり期待していなかったが」 1時間近く監視を続けたが、君はマユミの姿を捕らえることが出来なかった。 考えても見れば、彼女が今現在マンションの中にいるかどうかもわかっていなかったのだ。なにかあって外出しているのかも知れないし、人付き合いが苦手だった彼女のこと、必要がなければ本に悪いからと、部屋のカーテンを開け放すこともしないかも知れない。 (せめて部屋番号がわかっていれば) それ以外に見つけた他の住人達の暗部はそれなりに面白い物だったが、下手に藪をつついて蛇を出したくないと君は考えた。 いずれにしろ、これ以上長居をする必要はないだろう。 しかし、せめて彼女が何階に住んでいるかだけでもわかれば良かった…。どこかで選択を誤ったのかも知れない。 しかし、君は一つだけ面白い物を見ていた。 こそこそしながら、マンションと塀の間にある狭い通路(065)を抜けていく若い男の姿だ。最初は訳が分からなかったが、十数分後に合点がいった。その男はとある部屋に住む中年の女性の若いツバメ、早い話が間男なのだ。 引き締まった体を持つその男は、化粧の濃い派手な女を後からつきまくっていた。 早く俺も…。 君はマユミの体を思う様嬲るところを想像し、ほくそ笑みながらその場を立ち去った。 途中、パトロール中の警官とすれ違ったが危ないところだった。もしかしたら、覗きの最中で見つかったかも知れない。 君は広場に向かった。 |