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「君、そこで何をしている?」

 突然背後からかけられた言葉に、君は全身をビクリと竦ませた。
 恐る恐る振り返ると、紺色の制服を着た若い男…マンションの警備員が怪訝な面もちで君を見ていた。

「ここは住人とその関係者以外は立入禁止だよ」

 そう言いつつ、じりじりと警備員は君の方に近づいてくる。
 口調こそまだ丁寧だが、あからさまに君に対して警戒しているのが見て取れた。経験不足が服を着ているようなものだな、と思いつつも警備員の腰で鈍く光る警棒に君は目を奪われていた。

(やばいぞ…)

 明らかに若い警備員は道具を使いたがっている。血気盛んな年頃なのだろうか、暴力を行使しても問題のない相手を捜し求めていたという感じだ。

「最近、この辺に変質者が出没するってはなしだが…」

 なかなか鋭い。
 が、今の君にとってはありがたくない言葉だ。

「い、いや俺は…」

 言い訳しつつ、君は全てが終わったことを悟っていた。
 それでなくとも変質者(君のことだ)出没でナーバスになっている所で、あまりにも不用意なことをした結果がこれだ。
 例えこの場を逃れたとしても、監視カメラに君の姿はしっかりと映っている。

 我が身が可愛ければ、二度と近づくべきではないだろう。
 それはつまり、マユミをモノにすることを諦めると言うことになる。

(…まったく俺はなんてバカなことをしてしまったんだ?)



 不用意な君が逝くべき場所は一つだ




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