肉体決済 〜レイが全てを売り渡した放課後〜
15.彼女の朝、彼らの日常綾波レイは趣味を持たない。
家族というものも持たない。
家に帰ろうとも待つ者はなく、相も変わらず住所を置いている朽ちかけのマンションはレイ一人だけの空間だ。朽ちかけだけに隣人すらいない。一棟まるまるどころか隣の棟も、そのまた隣の棟も、入居者はゼロ。
見ようによっては、何をしようと苦情を申し立てる誰かはいない好条件下か。
だが、碇シンジのようにチェロを弾くといった手すさびの術が彼女にあるわけでもなし、レイは自分の家でをただひっそりと過ごす。
部屋に置いてある家具は、冷蔵庫にベッド、その脇の椅子。下着などを入れたチェストと、ゴミ箱同然のまま放っておいてあるダンボールが何箱か。
一人暮らしの無聊を慰めるテレビもラジオもそこには存在しない。
同じ年頃の少年少女を真似てテレビ番組に夢中になったり、ゲームに興じたり、携帯で友人と長話をしたり。そんなこともないのだから、まず夜更かしはしない。
それを乱すかつてあった例外は、ネルフからの呼び出しだった。
本来はそのネルフこそがレイの暮らしの中心であったのに、今はその分がすっぽり二十四時間から抜け落ちてしまっている。
つまり、すかすかだ。
自然、一時間一時間がただただ空疎で、就寝は早い。目覚めも早い。
朝目覚めれば朝食代わりに飲み慣れた錠剤を水と含んで喉に流し、シャワーを浴びて服を着る。それで済ませるべき全てが片付いてしまう。
あとは学校に出掛け、また帰ってきて夜の分の錠剤を飲み、寝る。
家族で暮らす中、担う家事に割く時間。自分のために使う時間。どちらもレイの生活とは無縁だった。
そんなことではいずれ心も乾いていくだけだろう。健康も損ねてしまうに決まっている。
けれどもネルフは綾波レイの管理をすっかりおざなりにしてしまっていたし、義務が無くともお節介を焼いてしまう可能性を持っていたシンジは第3新東京市の外に去ってしまった。
E計画の名の下にネルフ本部に拘束されることも無くなってしまった以上、いよいよレイの生活は平坦な繰り返しへとなり果てていた。
一日でほぼ唯一の外出、学校に通うことにしても、マルドゥック機関に見出された14歳の少女という身元をそれらしく演じるため、それだけの為でしか無かったものが、今も惰性として続いているにすぎない。
レイはその必要性を何ら感じてはいない。
ただ、通えと下された指示に逆らうことも、また考えはしなかっただけのことである。
―― しかし、その無意味な通学生活の中からやがて、レイの平坦な生活サイクルを著しくかき乱す不快な要素が出現したのだった。
◆ ◆ ◆
浮遊感に似た不明瞭さに包まれていた意識が、不意に重力を覚える。
顎を埋めていた枕の柔らかさが、すなわち下方向であり、背にかるく掛かったシーツの重みはつまり上方向だ。
レイは薄く瞼を開く。
「……う、っっ……」
体が重い。
染みついた疲れは一晩の内に消え去ってはおらず、依然、彼女の体を絡め取っている。
身を起こそうと決意するに要す気怠さは、血圧の低さから来るより他に、むしろ覚醒につれて昨日を思い出し今日を意識したレイの心の内から起因していた。
眠りという、優しい曖昧さ。その中にあった五感が明瞭さを取り戻すという事は、何も考えず、しなくて良い一時からの復帰だ。
ベッドの縁から足を下ろし、立ち上がる前に、レイは今朝は何時だったろうかと考えた。
今は何時だろう。今朝は、何時まで眠っていられたのだろうか。
なるべく遅かったなら良いのにと思いつつ、ベッドを後にする。
無造作にシャツと下着を脱ぎ捨てて、代わりに掴み上げたものはシャワーを浴びるためのバスタオル。そして椅子の上に投げ出していた黒いゴム栓に似た樹脂製品―― アナルプラグ。相田ケンスケに一日中付けておけと指示された、レイの肛門を性交可能に拡張する責め具だった。
「…………」
見やるだけで、気は滅入る。
さりとて、もう一日が始まってしまったのだから、レイはそれを手に取らねばならなかった。
学校に行けば相田ケンスケが待ち構えている。準備をしなければならないのだ。
一日中との指示。それを彼女は自宅にいるあいだ無視してはいたが、壱中に行けばそうはいかない。いつ何時、相田ケンスケにチェックされてしまうか。登校途中の路上からまず危なかった。
あの用意周到な少年は、レイの生活習慣をおおよそ把握してしまっている。
たとえばほんの少し前まで、レイの朝のお決まりコースといえば、始業までの時間の調整にどこかで本を読むことだった。
かつての保護者から与えられていた医学書はとっくに読み切ってしまっていたものの、その頃の名残のような癖。
別段それでなにか心楽しくなるわけでもないが、他に時間の潰し方を知らないのだ。だから、以前から使っていた通学路上にあるベンチで同じようにテキストを広げたり、丁度良い書物を持ち合わせていなくてもぼんやりと過ごしていたり。
そうして、相田ケンスケに恥知らずな申し出をし、レイが自分の乳房、ヒップを売り払ってから何日かした頃。
気鬱に囚われ、どこかそれ以上学校に向かって進めがたくなった足を習慣のままベンチで休めて―― 遅刻を考えるべき頃合になるまでぐずぐずとしていた時、彼は現れたのだった。
『やあ』と朗らかに、彼はありふれた朝の挨拶をしてきた。
『この時間になっても教室にいないとか、最近だと珍しいよな。前みたいに午後から登校とか無くなってたし。……昨日もだったらしいじゃん? 心配して俺、見に来ちゃったよ』
レイはその言葉に、この少年が今日昨日と朝から何か卑猥な命令を自分にするつもりでいたことを知った。ここ数日と同様にだ。
やはりという思いだった。
実のところ、そうやって登校直後から物陰に連れ込まれてスカートの後ろをめくってみせたり、ブラウスの胸を開けて乳房を揉まれるに任せたりするのが嫌で、レイはこんなところで座り込んでいたのだった。
だが、始業時間前の遭遇を避けたつもりの彼女をしっかり補足していたらしいケンスケは、そのまま隣に勢いよく腰を下ろしたかと思うと、ベンチとの隙間にねじ込んだ手でレイの尻を撫ぜ回してきたのだった。
『……っ』
厚かましいが、拒絶する資格を喪ったと考えているレイには身を強ばらせるしか出来ない。
堂々としているだけにかえって、二人の前を急ぎ足で行く他の生徒達にその悪戯行為を気付かれずに済んだように思う。
そして最前とはまるで違う押し殺した声に、レイは囁かれたのだ。
『プラグ、どうしたんだよ』と。
ぐいぐい尻の谷間に押し込んでくる指先で、アヌスの窄まりのあたりをまさぐられながら。
『そんなこったろうと思ったんだよな』
ケンスケは言った。
『綾波みたいに真面目そうな顔してても、どいつもこいつも女の子ってのはちょっと嫌なことがあるとすぐ嘘吐いて済ませようとするんだもんなぁ』
さあっと血が引いた。
続けてケンスケが、一つペナルティだと口にしたからだった。
『毎朝、浣腸してお尻の穴の中綺麗にしとけって言ってあるけど、そっちは? 一人でちゃんと出来てんの?』
ネルフでの実験生活で慣れている。だからちゃんとしていると答えはしたが、ケンスケは納得して矛を収めたりはしなかった。
『あてにして良いのかねぇ。俺が放課後に呼んだ時はちゃんとプラグも付けてみせてたからさ、別に疑ったりしてなかったけど……』
『……ぅ、っっ……』
そらっとぼけた表情で、顔だけはすぐ前の歩道橋から次々に降りてくる壱中生徒達に向けつつ。手は一応はレイの背中側から隠しながらも、公然と痴漢行為を続ける。校門も近い通学路上で、だ。
そんな彼の隣で、レイの硬く引き結んだ唇がただただ、漏れ出そうとする呻きに震えていた。
さすがにこの時間になってくると、妙な余裕を見せて学校に急がずにいる同じ制服の男女二人組には奇異の目が集まる。
そこにきてケンスケに遠慮する気配は皆無。制服のお尻の下にすっかり潜り込んでしまっている手が中指の先を立てて、ずっと彼女の双臀の中心を刺激し続けていた。
これでおかしな仕草を見せればたちまち事は露見し、学校中に噂が広まってしまうだろう。
しかし直接的にはなんてことのない感触も、いずれの肛姦を予告している相手では話が異なる。
じりじり、じりじり……と。スカート生地と下着を重ねた下から小さな円弧を描く動きを入り口へ連ねられると、怖気からレイはきゅっと肛門に力を込めてしまう。
そうすると暫くは責めが止む。
やがて普段あまり意識しない筋肉を連続して緊張させていられる限界が訪れて、息継ぎのようにひくりと花蕾を緩ませてしまった―― 隙を見計らって、また鋭く指先を突き立ててくるのだ。
つぷり。連日のケンスケの責め、加えて監視の行き届かない自宅の他では始終挿入させられっ放しのアナルプラグのおかげで、“咥え”慣れてしまった美少女の秘肛が、たやすく少年の指先を第一関節近くまで。
『くぅ、っ……ッ―― 』
平静を装い続けようとするレイであっても、この時ばかりは掠れた悲鳴がこぼれ出す。
びくんと背筋を打ち揺すってしまうのを抑えるのは不可能である。
言い表しようの無いおぞましさだった。
が、おぞましさに震えていれば良いだけならまだマシな内。相田ケンスケが好むのは、女子の悲鳴は悲鳴でも苦痛や嫌悪に導かれるものではない。
いい加減、レイはそれを悟っていた。
ところが、ペナルティを口にしておきながらケンスケがレイを開放したのは、普段の彼のねちっこさにしては意外なほど短いいたぶりだけでの後。
ホームルームには間に合うまいが、急いで行けば一時限目までには教室に滑り込める。それだけの時間でレイの尻の下から手を引き抜くと、彼はさっさと立ち去っていった。
学校とは、別の方向に。
戸惑いながらもレイはその後大人しく授業を受け、そのまま放課後を迎えた。
あの、人体に数十倍する巨大生物群との闘争最前線でさえ怯えることの無かったファーストチルドレン、レイであるのに。その彼女にとり、今や紛れなき恐怖の対象となりおおせた―― ひとりの少年の不在で、こんなにもお安く安堵を得てしまえる己をどう振り返るべきか、考えることもなく。
そして放課後。
家路を行くレイの足取りを朝と同様正確に押さえていたのか、ケンスケは行く手を塞ぐように再び姿を現した。
レイは一時の猶予にすぎなかったそれを安堵した分の馬鹿を、まさしく思い知らされたのだった。
―― 二度と「ペナルティ」を受けたくない。
以来、レイの行動を縛る第一原理はこれである。脳裏に始終つきまとって、解放してくれるということが無い。
故にの、物憂げな朝なのだった。
寝乱れた髪に手櫛もあてないラフな立ち姿。ふぅ……と、らしくもなく感情のこもった溜息などついてしまう。
寝間着代わりのシャツも脱ぎ捨てて、カーテンの隙間からの朝日に素肌を晒す。それだけで、愁眉に曇りきった横顔さえ、幻想の世界から抜き出てきたかの如きこの銀髪紅眼の美少女がしてみせるなら、実に様になっていたのだが。
レイの手には、一枚の絵たりうるを盛大に台無しにする異物感を放つ、アナルプラグが握られていた。
色は黒。バスタブのゴム栓に似た艶と、質感だ。
全体的なシルエットは蝋燭の火の形。先端は細く尖りつつも、腸粘膜を傷付けない丸みを帯びている。
アナルプレイを視野に入れた調教を受ける女性のための、まさにの一品。
こう細くなった先端なら、レイのようにほぐされきっていないアヌスにも簡単に挿入可能だろう。
そして1ミリ潜り込むごとに経を広げていく太さでもって、美少女のバージン・アヌスに、いずれ咥えさせられる男のサイズというものを覚え込ませるのだ。
「…………」
もの言いたげに手の上に注ぐ視線を、軽く首を振って引き離す。
後は諦めを握りしめて、年季の入った公団住宅らしい旧式然としたシャワールームに入っていく。
お湯を使う水音が暫し続いた後で、か細く漏れた苦悶の呻き。まだ中学校に通う身ながら一人暮らしをしている女の子が、同級生の少年から渡された肛門拡張グッズを自分に使っている声を耳にする者は誰もいない。
これが今の、綾波レイの朝。相田ケンスケの見えざる二重三重の戒めによって、鬱屈と抑え付けられた一日の始まりだった。
◆ ◆ ◆
断続的なバイブレーションが太股のあたりで騒ぎ立てて、ずり落ちていたズボンを更に足元にずり落とさせようとする。
「おっと」
マナーモードでケンスケを呼び立てる携帯を、彼はあたふたと取り出して液晶を確かめた。
「別口さんだよ。悪いね、ちょっとタイム」
通話ボタンを押す前に、話の邪魔になりそうなこれまた別口のスイッチ類をOFFに。途端、くぐもった女の声がじたばたと抗議を申し立てた。
視界の端に、汗にまみれた健康的な肌の色がもがく。
「ふごっ、おっ、ふむぅぅぅ……っ!」
「電話に入るって。静かにしといてくれよ」
だらしなくふんぞり返っていた椅子から足を伸ばして、軽く蹴り上げる。
と、声が『―― ぐぃひぃいいッ』と。
シューズの踵が、彼女の大股開きになった股間に打ち込まれた「杭」越しにくれた衝撃は、そこまでのつもりではなかったのに真芯を上手く捉えてしまったらしい。彼女にとってはタイミングを外されたところでの思わぬ深い一撃となったわけだ。
格好の、とどめ。
快感の火花が飛び散ったような目を白黒とさせて、嬉しそうに。
床の上の背を思い切り仰け反らせ、球状の口枷―― ボールギャグに圧し潰された不格好なイキ声を上げる霧島マナの全身拘束姿に、ああ勿体無いと渋面を作りつつ、
「……準備OK? で、どこだって?」
ケンスケは、今日呼び付けられる場所を尋ねるため、放課後すぐにトイレへこもって用意を済ませていたレイの掛けてきた電話に、口元を寄せていた。
「そうだねぇ。連日で部室に来て貰うのも、誰か見かけてたやつがいたら不自然だし……。それじゃ今日はどっか別の適当なとこ使わせて貰う?」
それから二言、三言。
短めに指示を与えると携帯をぱちんと閉じて、改めてケンスケは向き直った。
ボールギャグを噛んだ口と、バイブレーターを押し込まれた性器の周辺を共に涎でべたべたにして横たわる、同級生の女の子。
彼の「顧客」の一人であり、歪んだ欲望が実現させた性奴隷として最も上手く調教が進んでいる、碇シンジの元ガールフレンドだ。
彼女自身がケンスケから買い取った革手錠で腰のベルトに手首を繋ぎ。彼女自身が購入した黒レザーのコルセットで、大振りでなくとも形の良い乳房の直ぐ下までを締めて。それでサイズ以上に強調されたバストの先に、自分で持参して使ってくれるようケンスケにせがんだ洗濯バサミをぶら下げ、
「……ふ、ふぃひ……。ひ、ひふっ……」
余韻の息を、はふ、はふっと満足げに漏らす。
体育の授業時間にはブルマーからまぶしく覗いて校庭を躍動している太股は膝できっちり折り畳まれて、いわば裏返しになった蛙。足首にも巻かれた革のバンドが、同じ側の手首とを短い鎖で繋ぐ。
伸び盛りの中学生女子の裸体にあちこちで黒い革の拘束グッズが巻き付いている分、下腹部と、そこに連なる太股の白さは浮かび上がるかのようだ。
へその下で、彼女の栗毛の恥毛がべったりと涎じみた愛液に濡れていた。
内側のピンクを覗かせて花弁の狭間に太いバイブを噛みしめている秘唇の様子は、淫乱の一言が相応しい。
「で、ご感想はどうよ?」
「んむぁ……ぁ、ああん……ん……」
ボールギャグを外してやるついでで、汚れた口元をケンスケはハンカチで拭ってやった。
マナがむずがるように顎を左右に向けて、その親切を受け入れる。
女の子にしてあげるにはやや乱暴な手付きになっていたのは、本日お買い上げの新品バイブレーターの使い心地に酔いしれるスポーティ美少女をオカズに、こちらも気持ち良く一発抜こうとしていたのを邪魔された分の、不機嫌。
「すっかりゆるゆる気味になっちゃったドスケベさんのマンコでも満足の太さだろ? ごつごつの真珠コブだろ? でもって―― 」
もう片手で、大きく喘ぐ胸に合わせて動いているマナの腹部を、ついっと下まで撫でていく。
「……んァ、あン」
濡れそぼった秘叢を掻き分ければ、包皮からすっかり顔を覗かせてしまった彼女の秘核。そして、その感度最大になったクリトリスを覆う形でバイブから伸びた「枝」が、ゴムの繊細なトゲを何本も生やして、今なお剥き出しの彼女をくすぐり続ける。
これでモーターにスイッチを入れれば、それこそ悶絶モノのクリトリス愛撫をバイブ本体の膣内蠕動とシンクロして施してくれるのだ。
欲深い官能へと目覚めた少女の急所にどれほどそれが効くものか。先程のマナはといえば、ケンスケがにやにやと見守る先でバイブにひたすらかき混ぜられて、泡まで立つ程、串刺しにされた淫唇を随喜にどろどろとさせていたのだった。
「へへっ、聞くまでもなかったよな」
最後にもう一度、バイブの底をぐいと手のひらで押し込む。
嘘のように深く、刀身は少女の胎内に沈み込んで―― 。そしてごぷりと押し出された淫らな名残の汁が、糸を引いて床へと垂れた。
「ひもち、いいぃ……よほぉ……」
さも幸せそうな、蕩けきった声が全てだった。
「じゃ、コイツもまたお買い上げってことで」
ケンスケは部長用デスクの上に置いていた真新しいパッケージを取り上げ、伸びたままのマナに放り投げた。
彼女が今まさにご機嫌の使い心地で酔いしれたばかりのバイブが収まっていた、外箱だった。
「支払いの方、分かってるよね?」
「……うん。いつもの、ほうほう……れぇ……」
返事をしはするも、見るからに夢見心地の抜けきっていない顔。殆ど反射的に頷いているだけに見える。
であっても、後になって支払いの段で怖じ気づいたりはしまい。
陰湿な取りたて屋でもある彼の言葉を、こんな朦朧とした有様になっていてもちゃんと耳に残してはいるのだ。霧島マナという、戦自のエリート少年兵上がりの少女は。
そしてたとえ、この後でケンスケに対する支払いとして躯を貪られてしまう―― よりも尚、女の子として受け入れがたい筈の、他の客との取り引き材料にされてしまうのにしても、じたばたとしない位に腹が据わってしまっている。
ケンスケは肩を竦めた。
「しかしまぁ」
これを俺が言うのも、勝手なもんだよなぁと思いつつ。
「霧島もとんだ好き者だってのは分かったけどさ。変わってるよな」
とろんとした鳶色の目が、訝しげなという程の知性さえ浮かべずに床からケンスケを見上げた。
「マンコ乾かせとくのも勿体無いってくらい、咥えまくってたいならさ。なにもそんな玩具とか、取っ替えひっ変えに買ってかなくっても。霧島にはほら、身近に俺っていう本物がいるわけだろ?」
くいくいと、親指で自分のもっこりと膨らんだ股間を指し示す。
そう、霧島マナの身に付けている様々なプレイ用コスチュームは勿論、今日たった今ケンスケに使われた枝付きバイブレーターも。ケンスケが施したセックス調教で味を占めすぎたのか、この頃では立派なニンフォマニアにさえなり果てた感のあるマナの注文なのだった。
三日と開けずに、とはいかないものの。最近の彼女は週に結構な頻度でケンスケの部室を訪れては、彼の見せる怪しげなウェブ通販カタログの中から様々なアダルトグッズを選んで購入代行を頼んでいく。
そう変わり果てる契機を作ったのが間違い無くケンスケである以上、いまだ中学生の女の子がそんなものをという点には目を瞑るにしても。我ながらの「支払い」の悪どさを思えば、せめて欲しければ自分で買えば良いだろうにとも考えてしまうのだ。
話を聞かせれば誰だって、そんな風に疑問が湧くだろう。
しかし彼女には理由があった。
戦略自衛隊の、今やはじめから無かったことにされた計画に組み込まれていたという、過去だ。
『ここでこうやって暮らしていられるのだって、奇蹟みたいなもんなんだから』
彼女は以前、そう言っていた。
現在も名前だけは「霧島マナ」。かつて転校生を装って潜入してきたスパイの頃と変わらない。しかし、その他の項目は真面目に取り合うだけ馬鹿らしいという、第3新東京市民として取り繕われた偽造情報だらけ。そんな、正式品のIDカード。
これがどんな性質の物であるのか。
ケンスケが想像してみても実に危うげな、何かあって他人から探られればまさに痛い腹そのものであろうとは察しが付く。
だからだと、マナは彼に代行を頼む理由を口にしていた。
『この街って、凄いよね。次の遷都計画は無しになっちゃったって言うけど。でもでもっ、まだ普通、こんなエッチな―― お、おとなのオモチャなんて、余所じゃどこにも無いよ。そんな馬鹿な贅沢、考える人いても作ってくれる工場とか無いもん』
まだしも、女の子が自分の秘所に突っ込むための模造ペニスなんてものを欲しがる破廉恥さを、口どもるほどには羞じらってみせる態度があった頃の話だ。
けれども。
「……どう? 俺も自慢出来るほどのブツってわけじゃないからさ。霧島がお困りならあくまで親切でってことで、金取ったりはしないよ?」
セフレになってやっても良いぜという、事の次第を最初から振り返ってみれば何を今更のセリフ。
今までも何度かケンスケは持ちかけていたのだが、これがマナは頷かない。
今日もそうだった。
「……いい。いいよ、べつに」
床に寝転がっていても、その若さが、重力とはまるで無縁のような張りを与えている乳房だ。ツンと上向いた頂点では、乳首はまだぷっくりと膨れあがったまま。
この瞬間はアクメを遂げたばかりの虚脱にひたっているわけだが、放っておけばケンスケの目の前でも回復次第、そこを指で摘んでコリコリいじりだして、またオナニーを再開させかねない淫蕩さが、今のマナにはある。
だのに、いつでも好きなだけ咥え込んでいて良いよという本物には、このオナニー狂いの同級生はうんと言わないのだ。
「分っかんないなー。俺がそんなに嫌なわけ? あれだけさぁ、支払いの時は夢中でケツ振ってきて、洞木とか山岸とか、一年の子が引くぐらいで。おまけに、なーんか俺が他のコとばっかりマンコしてやってると、それってジェラシー? って感じの文句まで言ってきて、おねだりするくせに」
自分はひとり先に身繕いを済ませておいて、それで『さっさと片付けて服着とかないと、部室閉めるぜ?』と床に向かってスカートやブラウスを放りながら言う。
アプローチに脈が無かったと見るや、こんなものだ。相田ケンスケの、女の子への態度なんてものは。
「そんじゃさ、誰か適当なスケベ野郎を俺が紹介してあげよっか? 俺のは嫌でも、本物チンコ自体は大好物、ってわけだよね」
マナの返事に、日頃見せるセックス好きっぷりを込みで考えると、と。
こっちの場合は代金を取るけど。そう付け足すあたりも、気分の良くなる答えを今日も寄越さなかったマナへの皮肉である。
「…………」
「ま、その気がないなら良いけど」
ちぇっと、ケンスケは舌打ちをした。
この後にまた綾波レイとの密会が待っているからと、その気になっていた分の自分の処理もせずズボンを履き直して。さて、このもっこり膨らんだ格好でどう廊下に出ようかと面倒くさく考えていたのに。
マナの生意気でしかない態度は、そこに重ねて興醒めさせてくれるには充分だった。
ここまで堕としてやった、俺が調教してやったんだと有頂天になりそうなところを抑えて、努めて冷静に判断しても―― 彼の肉奴隷達の中でも最高の仕上がりに違いない霧島マナだ。
なのに、まだ屈服の度合いが足りてないようなことを口にする。
ケンスケの調教が不十分みたいなことを口にするのだ。
この期に及んで。
「でもさぁ、支払いの時は別だぜ?」
「……分かってる」
暗室の中に据えた棚ぎっしりのモニターを全部切っていって、帰る前に校内中の監視盗撮システムを落としておく。
マナはまだのたくさと着替えているところ。急かしておいたから、黒革のコルセットだのの目立たないところはそのまま、上からブラウスとベストスカートを着込んでいる。
ケンスケははっきり聞こえるような声を出して、言った。どうせこの部室は校舎の端っこだ。
「俺も好きなだけ突っ込むし、今度からは―― そう、先週のあれだけで終わりじゃなくて、俺が売るって決めた時は素直にそのマンコ持ってきて、客に使わせてやるって話なんだぜ?」
『良いの? 分かってるの?』と、脅し気味に確認する。
「例えばレズの客なんてとんでもないのが来たら、それでも霧島、そいつの股だって舐めてやるんだぜ?」
「…………。わたしのお口でも、おしりでも……好きにすれば良いわよ。もう、売っちゃったんだから。相田君の物なんでしょ」
暗幕越しに、マナのさっきよりは随分と頭をはっきりさせたらしい返事が返ってきた。
それでも、なのだろう。
(理由が無い限りは他の男とはセックスしないって、それで一線引いてシンジに義理立てしてるってつもりなのかねぇ。要するに、言い訳さえありゃってことだろうに)
ケンスケが初めてマナを抱いた時も、既に彼女は処女ではなかった。
一時期は碇シンジとの駆け落ちが噂されたぐらい、ガールフレンドとしての地位を確立しようとしていた女の子だ。或いは、既にシンジと関係していたのかもしれない。
それで、元は本職の戦自少年兵。
どんな貞操観念をしているのか、箱入り娘の最上級みたいな綾波レイともまた違った意味で普通では無さそうだが。
しかし、あの惣流アスカが未だに警戒を解こうとしていないのだ。
マナがどれだけ―― アスカ自身にも劣らないくらい変態な本性を発露させて、ケンスケの股ぐらに跪いた雌犬奴隷ぶりを発揮しているか、恋とか好きとかとても言い出せないようなビッチ娘に成り下がったのか、知っているくせにである。
(あいつが霧島のことをライバルだって見ている内は、俺のやり方がまだまだヌルいってことか)
ケンスケは胸の内に独りごちた。
暗室から出てみれば、マナはもう部室の外へ移動していた。
一応は、服の上から見た限り異常の見付からない格好になって。けれど、ベストの上から揉んでやればブラジャーを付けていないのが分かるし、腹のあたりはコルセットで硬い。そして通学鞄の他にぶら下げたスポーツバッグの中はアダルトグッズで一杯。
そんなマナだが何を考えているのか、一足先に部室を出ても行儀よく、ケンスケが鍵を掛けるのを待っているわけだ。
悪名高い自分と二人一緒に歩いて行れば変な目で見られるのは避けられない。それでも、今日はもう予定がないから一人で帰って良いぞと言われない限りはと。そんな指示待ちの姿勢、染みついているくらいなのに。
「ま、良いさ」
「……え、なに?」
別にマナに言ったわけではない。
ケンスケはただ、焦ることではないのだと再確認したつもりなのだった。
(どうせ逃げられねーよ。霧島も、惣流も。それに綾波も、もうね。)
そして、碇シンジは第2新東京市だ。
(邪魔なんか出来ないし。まだこいつの屈服度ってやつのレベルが99だっていうなら、1だけ上げて100にしてやれば良いってことじゃん)
ゲーム好きらしい考え方で気分を切り替える。さて次は綾波にと、また性懲りもなく股間をじわじわ硬くしていきながら。ケンスケはもう隣の少女から意識を移していた。
廊下から外を見れば、暑い中で今日も部活に励もうとしている生徒たちの姿がある。
テニスコートで準備を進めている体育服の女の子たち。グラウンドで地面に足をすらりとのばし、ストレッチを始める陸上部の女の子たち。
ケンスケが目を向けるのはいつも、女子たちにだ。
一定以上の容姿をもった娘がいると視線を留め、先に備えて心のメモ帳に書き付けるか、あるいは手を付けた後だったなら淫らな記憶を思い返してニヤニヤとする。
そんなだから、たとえ噂を聞いていない相手にでも自然と疎まれ嫌がられることになっている彼なのだった。
けれどももう、ケンスケはそんなこと、気になどしてはいないのである。
Original text:引き気味
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)