Beautiful Party 外伝2
著者.ナーグル
失敗した…。 この私としたことが。 リツコは理知の泉たる脳髄から溢れるほどの罵詈雑言を思いつき、それを心の中で何度も繰り返した。腹立たしさに臓腑まで震えるようだ。絡みつく不埒なものを握りつぶそうと手に力を込めるが、非力な錬金術師の腕力では『血啜り』の弾力ある触腕をわずかにへこませるのが精一杯だ。ミサトの馬鹿力をこんなときだけ羨ましいと思う。彼女ならグチャリと潰して自由になる。しかし、だからといって彼女と交代したいとは思わない。 「あう、ふぅぅ」 息を荒げながら先日のミサトの醜態を思い返す。どっちがマシかと、一概には言えないが、どっちも嫌だという点で意見の相違はない。 ほんの30時間ほど前に、ミサトは簡単なはずの仕事で遭難し、あげくミノタウロスに犯されるという失態を晒してしまった。ジメジメとした蒸し暑い地下迷宮。咽せるほど濃厚なカビの臭い。霧のように性臭がただようダンジョンの一室で、赤黒いミノタウロスのペニスが挿入され、望まぬ快楽に身悶えるミサトの姿が脳裏に浮かぶ。快楽と仲間に見られた屈辱で千々に乱れ、よがり狂う親友の姿。 あんな目に遭うのはまっぴらごめんだ。 だが、それなら今の自分はどうだというのか。 事の起こりはこうだ。 錬金術師であるリツコは様々な研究をする傍ら、冒険に出て様々な希少な薬品や薬草を集め、また販売目的薬剤師よろしく魔法薬を作ることで日々の糧を得ている。どちらかといえば、冒険よりこっちの方が今のリツコの本職だ。そうなると日々籠もって研究三昧となるのだが、研究にはとかく金がかかるのだ。 鉛を金に変えることに成功した錬金術師にあるまじき俗っぷりだと思うが、霞を食べて生きているのではない。そもそも金を10グラムつくるのに触媒として銀と水銀を20キロも必要なのだから、錬金術に成功したからと言って様々な活動資金の問題が解決するわけではない。 そんなわけで、朝早くに目を覚ましたリツコは、ミサトのお見舞いに病院に行く前に魔法薬の仕込みをしようと薬草を煎じ、鉱石を砕き、虫を刻んで鍋に入れて置いた。 (たぶん、あのミミズが原因ね) いつも材料を仕入れるのに使っているプラヴィーミ伯爵通り ――― 通称、吸血鬼通り ――― の魔法材料を売る店が閉まっていたため、気が進まなかったが黒蟹横町で初めて見る商人からミミズを買った。きわめて軽率な行動だった。思うに、あの頭巾は日よけではなく、髪の間でのたくる混沌の変異を隠す物だったのではないか。 血啜りの口部に生えた触手はミミズと見分けが全くつかない。ちゃんと確認するべきだったのだが、それよりも庭付きの家に住んで居るんだから、材料ミミズを養殖する畑くらい作っておくべきだったのかもしれない。加持が一緒だったら止めてくれたかもしれないが、ともあれ己の愚かさを身をもって味わっている。 ずちゅり…。 ゆっくりゆっくり、ほんの少し血啜りが姿勢を動かし、リツコの全身に張り付く触手が僅かに素肌を這いずる。 「くっ…………」 流れの速い川に全身浸かったときの感触に少し似ている。だがそれよりも濃厚で粘ついた感触が全身を同時に嬲る。 屈辱に頬を赤く染めて、リツコはまたほんの僅かに吐息を漏らした。 見舞いついでにミサトを慰めていさめたわけだが、その時、サディスティックな快感を覚えていた。あの時の暗い勝ち誇った感情は、今はすっかり態を潜めていた。だってもっと今の自分は惨めなんだから。 ブラッドイーター…血啜りはスライムの一種だが不定形ではなく、巨大なナメクジ、あるいはウミウシに似た姿をしている。大きな物で体高は2メートル超える。無数の触手をのたうたせて這い進み、ネズミや精々が猫などの小動物を丸飲みにしている。基本は不用意に湿地に近づいた小動物を獲物にしているが、まれに人間の子供やハーフレイスを捕らえ、巨体を生かしてのしかかり窒息死させる。そしてほどよく腐ったところで体中の開口部という開口部にヒドラのように無数にある口を持った触手を差し込み、血肉を啜り取るのだ。 寒天状の体は弾力に富み打撃攻撃には強い耐性を持つが、斬撃や刺突攻撃、火炎などの魔法には全く耐性がない。酸を吐くわけでもなければ、動きも遅く、群れを作るわけでもないため、駆け出しの冒険者にとっても驚異とは言い難い。ただ体が欠片にされても、十分な水と栄養がありさえすればあっという間に再生してしまう生命力と、とある悪趣味な性質ゆえにスライム以上に人に恐れ、嫌われている。 リツコが病院に行っている間に、鍋の中の細胞は再生を始め、周囲の有機物を食らい、さらに研究室に貯蔵された魔法薬やその素材を手当たり次第に食いあさっていた。その額と集めるのにかかった時間を考えると頭が痛くなる。 とまれ、見舞いを終え、帰宅した後水風呂に浸かって汗を流した3〜4時間ほどの間に血啜りは並の成体以上の大きさを取り戻していたのだ。 そうとも知らず、自宅だからと水着の上に白衣だけという無防備すぎる姿で地下室に下りていったリツコは血啜りの奇襲を受け、武器となる薬品もアゾット剣も手の届かないところに置いてあったために、捕らわれてしまったというわけだ。 (もう何時間こうして、ううん、私は解放、助かるの…?) はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…うっすらと寒い筈の地下室だというのに、リツコは熱い吐息を溢し続けている。暑い、いや熱い。いったいどれくらいこうしているだろう。記憶も既に定かではない。 室内にあった木製のテーブル、書物、さらにリツコの着ていた白衣などは分解され、糞と体液で練り固められた蟻塚のようなものの中に血啜りは腰を据え、触手を絡め束ねてその中にリツコを捕らえている。両手は腰の後ろに回されて拘束され、両足は万歳するように大きく足首を掲げ、広げられている。 そうして血啜りが何をしているかと言えば、そのままほとんど身動き一つせずにリツコの全身から滲む汗を舐め取っているのだ。血啜りと言う名前だが、実のところこの怪物が最も好むのは死体の血肉ではなく、生きた生物の分布液なのだ。だから、血啜りは捕らえた生き物をすぐに殺したりはせず、可能な限り長く生かし続け、滲む体液や涙、涎などを啜る。さらには触手を肛門に突き入れ、大便を消化し、腸液を吸い取っていく。そのおぞましい感触、 「ああぁ…」 あまり性欲が強い方ではないリツコだが、この感触には声を漏らしてしまうのを止められない。 「ううぅぅ。くっ、ふぅ…………はぁ…はぁ」 言葉の通じない下等生物に哀願したって聞いてくれるわけがない。だからリツコは泣き叫んで体力を無駄に消費するなど無駄なことはしない。ただ、緩慢な刺激から反射的に逃れようとしてわずかばかりに身じろぎするくらいだ。だが、全身を触手で絡め取られていてはどうしようもない。 巨乳というほどではないが形の良い胸を半透明な触手に包み込まれ、ゆっくり柔らかく揉まれている。 (そんなことしても母乳なんて出ないわよ…) 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、あっ………うぅぅ、ふぅ、うっ」 そしてほっそりと長い足。モデルのように引き締まった太股全体を蟻が這い回っているような感触。 ミサトやマユミ、ヒカリの人の目を集める部位が胸とするなら、リツコは足がそうだろう。 自慢の太股だとリツコは思っている。かつては胴長短足の代表のように言われた東洋系人種の血を多く引くリツコだが、そのスタイルはアスカ顔負けにすらりとしている。背はミサトとそう変わらないが、腰の位置が違う。これなら、モデルとしても活躍できたかもしれない。自分以上に研究肌で運動らしい運動をろくにしたことのない母、ナオコと全く似ていない足。その足が、無遠慮に、無慈悲に嬲られている。 「ふぅ、ふぅ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はっ、はっはっ…は、あぁ」 逃れることのできないリツコの秘所を押し割り、潜り込んだ生殖器の圧力と密着してくる粘液の感触にどうしようもなくただただ、啜り泣く。為す術もなく、透明な体組織越しに自分を犯そうとしてくる生殖器を見守るしかなかった。 「ひっ……い、や」 初めて泣き声が漏れる。 大きさも形状もトウモロコシにそっくりな生殖器がこすりつけられ、ゆっくりと淫唇を押し開き、こじ開け、ねじ込まれていく。その動きは非常にゆっくりしている。1分に1ミリ進んでいるのかいないのか。恐怖と緊張で乾いたままの膣壁にひっかかり、ひきつって痛んだのも最初だけ。すぐに分布される粘液が潤滑剤となって、じりじりと、だがスムーズに挿入されていく。 「あぁ、う、ふぅ…くっ、ひっ」 なんど瞬きをしただろう。なんど荒い息を吐いただろう。 リツコが小さく短い悲鳴をあげたとき、2時間近くの時間をかけて、子宮口に先端が到達するまで挿入されていた。脂汗を流し、それを舐め取られながらリツコは屈辱の涙を流していた。その涙すらも血啜りを喜ばせるだけ。 「ふぅっ、うっ、くふ、ふっ、ふっ、はぁ…はぁ、あ、はぁ…」 ふと、リツコは自分がこの世にただ一人きりで居るような気がしていた。もうどうにでもなれ、そんななげやりな気持ちすらもわく。 最奥まで挿入された生殖器本体を包む皮膜は、ゆっくりゆっくりと、日焼けした皮膚が剥がれるようにめくれていく。トウモロコシの粒そっくりな、ゴツゴツした卵が直に膣に吸い付いてくる。 「あふっ、うっ」 天井を仰ぎ、ブルブルと瘧のように全身を震わせている。たとえ数年ぶりに挿入をされたとしても、感じたり、絶頂を迎えたりはしないと思っていた。 オークのような媚薬体液を流すでもなく、挿入したまま1分に1ミリも動かないような血啜りの行動では感じることはない。そう、数時間前までは思っていた。 「あうぅぅ…」 疲れた目をして薄暗い地下室を見渡す。とても硬く樹液をたっぷり含んだ永久樹の松明が置かれた室内は、薄暗い明かりが常に灯っている。わずかに鼻を刺す刺激的な臭い…。半年間交換せずにすむほど長持ちする明かりは便利だが、時間の経過がわからない欠点がある。 (どれくらい、どれくらい経ってるの?) 喉は渇き、唇にはヒビが入っている。水が欲しくて仕方がない。ほんの数十センチ離れたところにある蒸留水の入れられた水桶が欲しくて欲しくて堪らない。 半日以上過ぎているのかもしれない。ほとんど身動きしないと言っても、半日以上挿入されたまま、微妙な圧力と異なった体温を感じ続けるのは、緩慢な拷問を受け続けるのに等しい。 「あ…………はぁ、はぁ……………あぁ、はっ、はぁ…」 苦しい、辛い…。でも、耐えないと。 普段なら『夕食おごれー』とか言ってミサトが訪ねてくるので、最悪でも半日も耐えれば助かったはずだ。だが、今のミサトはミノタウロスに犯されたことで入院している。だからミサトが訪ねてきて、リツコの窮地を救うことは考えられない。 「ひぅぅ、うっ、うぅ」 予想される最短の救出までの時間は、後輩のマヤが訪ねてくる1週間後。 血啜りはリツコから奪うだけではなく時折、体液 ――― 排泄物 ――― を溢す。血啜りの口と排泄口は同じなので、それは自然、彼女の顔に浴びせられることになる。ショートボブに刈られた金髪、意志の強さを思わせる黒く太い眉、内心の内気さの象徴である泣き黒子、全てが汚される。 そして腐りかけた杉の木に似た臭いのする液体を、リツコは屈辱と共に飲み込む。 かろうじてそれで命を拾える。マヤが来るまで生きていられるだろう。 絶頂を迎えない限りは。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」 大人の乳房に絡みつき、数年間日焼け一つしたことのない不健康に白い肌に粘膜が吸い付く。そして挿入されたままの生殖器がほんの僅かに震えた。 「あっ、ううぅぅ」 ぞくり、と腰の後ろの背骨と腰椎の結合部分あたりが痺れた。挿入されたままでほとんど動かないでは、絶頂を迎えたりはしないと思っていた。だが、その認識は甘かったようだ。ドミノ崩しの連鎖は、最初は弱くても繋がり続けることで大きなことも成せるのだ。いまリツコはそのことを思い出していた。 「ふっ、ふぅ、うっ、ううぅ」 奥歯を食いしばり、川底の泥から浮き上がる泡のようなもどかしい感覚を堪えないといけない。終わることのない緩慢な感触が続くことに、意志より先に体の方が耐えきれなくなろうとしている。何時間も、何十時間もぬるま湯に浸かっていることを拒絶しようとしている。 「うっ、う、あう、くっ」 (生殺し…よ) 動いて、かき回して、いっそ壊れるくらいに無茶苦茶に犯して。 赤い疼きに我を無くした吸血鬼のような気分。補給した以上に汗が滲む。熱くて、辛い。 遠からず、絶頂を迎えてしまう。夢精がそうであるように、強い刺激がなくとも人は達することはあるのだ。 リツコが達して、愛液と共に卵子を放出したときその時、血啜りは一斉に卵を放出するだろう。ナメクジと同様に雌雄同体である彼らは、互いに性を交換しあう。通常ならお互いが精液を受け取るだけだが、血啜りでないリツコが精液を相手に渡すことはない。その為、血啜りは交尾相手が卵に何らかの問題を抱えていると判断し、自分の卵を相手に ――― リツコの子宮内に ――― 自家受精させた卵を送り込むのだ。そしてリツコの胎内に植え付けられた卵は半時ほどで孵化し、さらに小1時間で幼生は一斉に活動を開始する。 そして幼生達は成体と違い、生きた細胞、血肉が大好物なのだ。そうなれば内側から削られ、食われ、リツコは間違いなく死ぬ。 イったら逝ってしまう。 (逝って、いえ、イきたい。なにもかも忘れて、ケダモノ、みたいに…) 肩で息をしつつ、無駄な行動・無駄な足掻きとわかってはいても、それでもリツコは諦めることができない。 生きたい、イきたい。 時計がないので今どれくらい時間が経ったのかわからないけれど、でも、恐らくマヤが来るまで後100時間以上…。 「あ、あふぅぅ…」 無理だ…。体力自慢のミサトならともかく。 諦めと終わりへの恐怖でじわりと絞り出すように全身の汗腺が開き、快楽という汗が滴る。諦めが黒い澱みとなってリツコの全身を犯していく。自分で自分の声にゾクゾクと感じてしまう。 「あああ、あっ、ああぁ。あっ、あっ、ああっ」 恐怖? あるいはそれ以外の感情でリツコは目を閉じる。暗闇はほんの僅かに彼女の心を慰めた。彼女の人生は常に闇がつきまとっていたのだから。闇に生まれ、闇に帰る。 ビクン、ビクン、と大きく全身が震える。10本指の手のように見えるゼリー状の触腕が乳房を包み込み、やや積極的に揉みしだく。皮膜下の乳首がピン、と立っている。緊張した乳房に血管が青く浮き上がり、下腹が波打ち、内側から色々な物がこみ上げてくる。 「あぅ、あああぁ、ふぁぁ、あっ、あああっ」 唯一自由になる首を後方に仰け反らせる。汗と汚物を吸った髪の毛から滴が飛ぶ。絶頂の予感で緊張した首筋にうっすらと汗が滲み、ヌルリと血啜りのミミズ状の口吻がそれを舐め取った。 「んっ、ふあああ、あっ、ああぁ。だ、だめ、そんな、無理。ああ、いっちゃ、でも、もう」 死の恐怖、それもゆっくりと内側から貪られる恐怖。 でも、もう、耐えられない。 「ああ、あっ、ああああぁぁっ! い、っちゃ、イっちゃう! ああ、なんて、こと、なの。わたしが、ああ、ミサト、マヤ…りょう、じ、くん!」 目を見開いた。涙がにじんでいる。自分はこんなに弱かったのか。口ではなんと言えても、がさつなミサトに苦言を呈していても、所詮はこの程度だったのか。母親を、ナオコを超えてその呪縛から逃れるなんて、結局、夢で―――。 「いっ、ひぃっ!?」 コツン、と生殖器の先端が強く子宮口を叩いた。 唐突に電流が脊髄を流れ、脳髄を焼く。子宮が震えた。 「んっ、ふあぁぁあああああああぁぁぁ―――っ!!」 ハスキーボイスの悲鳴がリツコの喉から迸り、きゅうっ…と膣全体が収縮した。強い性フェロモンと卵子の気配を感じ取った血啜りの卵が一斉に子宮に向かって解き放たれていく。 太股が強ばり、こむら返りを起こして足全体がブルブルと震えた。 「ああああっ、あああああっ、ああああああああ―――っっ!!」 死を呼ぶ卵を拒絶するどころか、子宮に導くように膣全体が波打っている。異獣の生殖器を締め上げ、吸い付き、歓喜に戦慄いている。 「あっ、あっ、あ、はぁ…」 ガラス玉の目。涙が伝う顔からは正気が失われていた。ガクリと首が傾き、絶頂の余韻の中で体がゆっくりと弛緩していく。 あと2時間の命。超えられなかった親へのコンプレックス。友人とその恋人への複雑な感情。いまリツコとリツコを構成している全てが意味を失ったのだ。 「ふふっ、ふっ、うふふ。あははは…」 薄暗い地下室の中で、リツコは笑い声を上げていた。いつまでも、いつまでも、終わりがくるその時まで…。 と、思っていたらこの10分後、唐突に『リツコー、お腹空いたー、晩ご飯おごってー』と昨日のことが嘘のような様子で訪ねてきたミサトによって救出され、卵が孵化する前に処置されて一命をとりとめるのだが、ほぼ30時間近く緩慢な交尾を強いられて疲労していたリツコが完全に回復したのは、かなり後のことだったと言うことである。 初出2010/08/19
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