BEAUTIFUL PARTY

第3話



著者.ナーグル














(耳障り、雑音、不快なもの。アスカの怒鳴り声、誰かの泣き声)

 いつもよくする連想ゲーム。だけど、今回は上手く連想できなかった。アスカの怒鳴り声は耳障りだけど、嫌いじゃないから。
 こんなことなら、オーク語(正しくはゴブリン達が使うグリーンスキン語)なんて理解できなければ良かった。
 人形のように無表情なまま、レイはそんなことを考えた。汚らしい共通語交じりのオーク達の会話は、彼女の凍てついたはずの心に不愉快な感情をかき立てる。アスカやマナとの忙しない会話とも違う。あれは騒々しくて煩わしいが、不愉快ではない。オークの声は何もかもが不愉快だ。世の中に、こんな穢れた会話が出来る生き物がいるとは思ってもいなかった。

(……おかしいわ。こんなこと考えるなんて)

 乱雑に刈られたシャギーが乱れて額や頬に張り付いている。いつの間にか、レイはじっとりと生温い汗を全身に浮かべていた。背中がチクチクと熱いのは、大量の汗で蒸れているからだ。
(焦っている…の? 私、おかしいの)

 レイは初めて感じる感情の変化に戸惑いを覚えていた。白磁のように白い顔にはおよそ感情らしい感情を浮かべたことのない、かつてのアスカ曰く鉄面皮の人形女と呼ばれたレイの顔には、苦痛を堪えるときにも似た表情が浮かんでいく。全身の産毛は勿論、金属的な銀髪も逆立つ。
 じわじわと心をよぎる不安は、恐らくオークオーラの影響だろう。彼女は的確に判断した。吟遊詩人である彼女は、そういった様々な雑学知識(ロア)を持っている。

(人間限定で、精神に影響を与える。心を、傷つけられる)

 元々はとある錬金術師に愛玩用ホムンクルスとして作られた彼女だが、そんな自分にも効果があるのだろうかと、そんなことを考えた。もっとも現に不安を感じて脅えているのだから、オークオーラの効果があるのは間違いない。人の親の温もりを知らない作られた存在であるレイは、感情というものがなかった。ガラスの子宮で作られたとき、いらない物として削除されたから。事実、初めてマミーを目の前にしたときも、マユミとマナが恐慌状態に陥って硬直する一方で、レイの心は微かにも揺らがなかった。神の加護を受けたアスカと共に動けない仲間をかばい、戦い、勝利をつかんだ。

 それなのに今は恐怖という初めての感情を体験している。
 逃げ出したい、頭を抱えてうずくまりたい。無性に目頭が熱くなって涙が出そうで、怖くて怖くて仕方がない。オークの臭いも音も存在そのものも嫌で嫌で、このまま小さく融けて消えてしまいたい。その一方で、メチャクチャにされたいという背反した感情がトゲとなって心に刺さる。

(これから、どんな目に遭わされるの?)

 オーラの影響で動悸を激しくしながらも、奇妙に冷めた目をしてレイは考える。実際の所、レイは脅えている自分の感情に興味深いなにかを感じていた。どこまでも猫のように好奇心が強い。

(これが、怖い…ってことなの。あまり、良い気持ち、しないわ)

 当たり前だ、と自分で自分につっこむ。ヒカリとマユミの啼き声から察するに、これから女として生まれたことを後悔するような目に遭わせられるのだ。そんな運命はごめんだ。だけれども。

(無理ね。逃げられない)

 そう、逃れようにも臍の辺りから腹部を柱に捕らわれ、左腕が床にめり込んだ状態ではどうにもならない。胸が邪魔でよく見えないが、こんもりと盛り上がった形良い胸越しに、がっちりと拘束する柱をレイは睨んだ。昔、心ない人間に言われたように、自分が眼力をもった怪物『赤目』ならこんな柱を砕くことが出来たのに。物思いを中断すると、レイは物憂げに、アスカの顔を…もとい、アスカがいるであろう空間を見つめた。マユミの魔法の力で今アスカは誰の目にも見えない状態だ。極東に住むというオーガ族の一種、『オニ』がするようなエーテル化をしたわけではない。ただ、見えなくなっているだけ。
 彼女なら、どうするだろう?
 必死に足掻くのだろうか。無駄な足掻きにしか思えなくても。結果殺されるとしても。彼女ならそうするだろうと思える。矢尽き、刀折れても敵に向かって腕を伸ばし続けるだろう。
 あるいは無抵抗を貫くのだろうか。可能性が低いが、助けが来る可能性がないわけではない。無駄な体力の浪費を避け、その時まで無抵抗を貫くのか…。

(せめて、あなただけでも助かるなら、希望はあるわ)

 自分はもう間に合わないけれど。
 目の端にオークの汚らしい姿をとらえ、歎息しながらレイは目を閉じた。











(抜けられ、ないか…。関節外したからって、どうかなるものじゃない)

 唯一自由になる瞳と指をぶらぶらさせ、マナはやるせない顔をした。明るい茶の髪は湿ったように力ない。普段浮かべてる快活な笑顔と朗らかな雰囲気は形をひそめている。柔和な垂れ目に、普段は浮かべない剣呑で冷めた感情を浮かべている。かつて所属していた盗賊ギルドで、ただ一度だけ浮かべたことのある、鋼鉄の眼差しがそこにはあった。

(死のうかな)

 物騒なことを考えてもみる。舌を噛むことなら出来る。もっとも、すぐにその考えを打ち消した。こんな所であっさり死ぬくらいなら、あの日、ギルドマスターの心臓に刃を突き立てた日に、そうせず死ぬか彼の愛人になることを選んでいたはずだ。

(なんで私あんな奴のことを……嫌なことばかりの昔を思い出すのかな)

 憎んでも憎み足らない、最悪…と思いこもうとしている男。
 生活に困窮していたマナの両親に近寄り、マナを使用人見習いの名目で奉公させるよう仕向けた。別れの日に母は泣いていたけど、当時は嘘泣きだ、とひねくれたことを考えていた。でも、たぶんその通りだ。両親はうすうす男の正体に気づいていたと思うから。ただの一度も便りが来ていないことがそれを証明している。いや、来てたけどギルドマスターが握りつぶしていたのかな、と考えたこともある。だけど、それだとあんまり悲しすぎるから、それはないことにした。自分は両親に捨てられたのだ。
 そもそも両親は自分のことを愛してなかった、とマナは考えている。記憶の中の両親はいつもマナのことや、つまらない些細なことで喧嘩していた。マナが生まれたから、お互い本当にやりたかったことを諦めなきゃいけなかったって、いつも愚痴を言っていた。あんな大人には絶対にならない。たとえ、薄汚い人殺しになったとしても。

 マナを引き取った男の正体は労働者の斡旋人ではなく、人殺しから盗みまでなんでもする盗賊ギルドの人間だった。

 毒の調合、錠前など細工操作、格闘技、暗器の使い方、暗号や言語の解読法、踊りや歌唱・演技の仕方、礼儀作法などありとあらゆる事を仕込まれた。
 それだけでなく、マナは両親に似ずに綺麗だったから、一見好々爺のギルドマスターから性的調教も受けていた。ギルドマスターは『見目麗しい少年少女はそういった任務に就く必要がある。これはマナのために行っているのだよ、おまえには素質があるんだ。暗殺者としてのな』いつも事の前にそう嘯いていた。
 彼の調教方針が処女娼婦にするためだからなのか、趣味なのか。敢えて処女のまま、後ろの穴を徹底的に犯され仕込まれた。口や手の技、器具や動物を使うなどあらゆる方法を…。
 嫌で嫌で仕方なかった。だけど日を追ううちに体は責めに順応していき、いつしか愛撫に反応するようになり、三月もする頃には喘ぎ啼き、自分の変化を心と体で受け入れていた。

 それでも、両親と一緒にあばら屋で暮らすよりマシだと思っていたから。
 ギルドマスターがマナにご執心だったのは傍目から見ても間違いなかったから、いっそ彼の愛人になって一生安楽に暮らすのも良いか、なんてことを考えたりもしていた。

 ギルドマスターが、彼女の弟分だったケイタを意味のない任務に就かせ、死なせる日が来るまでは。
 マナに告白した同い年の少年、ムサシを盗賊同士での恋愛厳禁という掟により、彼女自身の手で殺させなければ。別にムサシとケイタには友達以上の感情は抱いていなかったし、汚れきった(とマナは思っていた)自分に告白されても、困るだけと考えていたのだけれど。
 自分がマナに心臓を刺された事にも気づかないままムサシは死んだ。彼を殺し、帰還した彼女をギルドマスターが不用心に私室に迎え入れたとき、自ら決めたルールも守れない彼にどうしようもない怒りを覚えた。あげく忍び装束を着替えてもいない彼女を、ニタニタと狒々笑いを浮かべてベッドに引き込もうとしたとき、それまで感じたことのない不快な感情を抱いた。
 殺しの任務を任され、それを達成した以上マナは一人前だ。
 たとえそれがあからさまな誤魔化しだったとしても、閨の訓練をする必要はなくなっているはずなのに。
 自分自身すら律することの出来ない人間が、マナ達を導く存在であって良いはずがない。

 こんな奴の為に、ムサシもケイタも死んで良い人間じゃなかった。

 自分はまだ人間だから。人間でいたいから。





(なに思い出してるんだろう、私)

 することがないと余計なことを考えてしまう。昔の人が何か言ってたと思う。確か『小人閑居して不善を為す』だったかな? この場合は違ったかもしれない。あとでマユミに聞いておかなくちゃ。聞けたらだけれど。ああ、私本当にどうかしてる、とマナは思う。
 マナの手足は完全に壁の中に埋没し、1ミリだって動かせない。息をする為に胸を動かすことさえもできない。こんな状況では、折角覚えた縄抜けや関節外しなどの技も使いようがなかった。壁の外に出ているのは頭半分と、手の平から先だけだ。手を握りしめることも出来ず、動かせるのは口と指だけである。辛く厳しい訓練で習い覚えた盗賊の業など、一切使えそうにない。つまり、どうやっても逃げられない。それだけが事実としてマナに突きつけられた。となると、彼女に出来ること、成さねばならないことはなんだろう?
 深く長い呼吸をしながら、マナは冷静に考え込んだ。考えようとした。

 なにもない。うん、ない。
 人間一人にできることなんてたかが知れてる。
 精々、皆の負担を軽くするために積極的に喘いで人目を集めてやろう。

「あーもう、どうして私ってこうなのかな。大事なのに、真面目に考えていられない。なんなんだろう、私って」

 薄笑いを浮かべながら近寄ってくるオークを一瞥し、つまらなそうに、人ごとのようにマナは歎息した。











 オークが3人? 3匹?、レイを見下ろして弱々しい黄昏の光を遮っている。眩しくなくなるのは有り難いが、オークに見下ろされるのは蚊柱にまとわりつかれてるようで良い気持ちがしない。
 オークの1匹がベルトに刺していたナイフを引き抜いた。木の葉状に湾曲したナイフを突きつけ、ギトギトした脂で汚れた刃をレイに見せつけると、嬲るように刃先で胸の膨らみをなぞった。痺れた足の裏を撫でられるようなもどかしい感触がするが、革のベスト越しのため、痛みを感じることはない。とにかく刃が擦れる感触に身震いする。

『ヒヒヒ、グーデンヤシュ(人間雌)、わきわきしてやるオーク』

(なにを…)

 戸惑っていると、ナイフがベストの隙間から潜り込んだ。プチブチと音を立てて締め紐が切断され、素肌が露わにされていく。衣服ごしに金属が触れる感触で反射的に身をすくめ、レイは息を吸い込んだ。獲物のビクつきに笑い声を出すと、狩猟者達は一息にレザーのベストを左右に押し開く。メンバーの中でも大きめなレイの双乳が、オークの眼前にこぼれでる。

「――――――っ」

 好色な歓声に迎えられ、白い風船のような乳房がオーク達の穢れた視線に晒される。豚そっくりの小さな眼球が血走り、赤く染まる。きつい締め付けから解放された風船のように豊かな乳房は、ふわふわぷるぷるとプリンのように勢いよく震えた。観られることに慣れているはずのレイは羞恥…というより屈辱を覚えた。猫目はますますつり上がり、猛った猫さながらに目つきが凶悪になっていく。
 オーク達はレイの敵意を意に介することなく視姦を続ける。病的なまでに白い素肌は血管が透けてうっすらと青みが見られ、大きく張りの良い乳房の先端では、そこだけ濃い桃色をした乳首が際だっている。あまりに白くて目にまぶしいレイの裸体に、オーク達は歓喜に涎をほとばしらせる。

『白いオーク! ラシャ(雪)オーク!』
『しゃ、しゃぶったら溶けないかオーク!?』
『震えてるオーク。さ、触って、いや、さすって暖めてやるオーク』

 目を血走らせたオークがふるふると小刻みに震える乳房を、ぎゅっと手の平全体で包み込むようにつかんだ。華奢な体に不釣り合いなほどに大きく育っているが、しっとりと濡れたような肌はどこまでも白い。薄桃色をしたオークのざらりとした皮の感触にレイは息を詰めた。息苦しさと疼痛が全身を支配し、頭がぼんやりとして指先まで震えて力が抜けていく。
 もはやレイはレイではなくなっていた。レイは既に呪歌でデーモンはおろか、ワイトやゴーレムすらも恍惚とさせる歌い手ではなかった。無抵抗な生け贄。比べるのもおこがましい、下種なオークの蹂躙を甘んじて受け入れる、不釣り合いなギフト。オークの陵辱演奏にあわせて性辱の喘ぎを奏でる楽器でしかない。

(わ、たし…どうし、て。力が…出ない。でも)

 文字通りの処女地を脂ぎった指先が無遠慮になで回し、指先で乳房全体のバランスからしたら小さめな乳輪と乳首をつまんだ。瞬間、ヒクリとレイの小鼻が動き、赤い瞳が見開かれた。オークはレイの反応にいちいち反応しながら、そこだけ弾力と手触りの違う部分を執拗に絞り上げる。痛々しいほどに赤くなった乳首をつままれる度にビクン、ヒクッとレイの体が震えた。

「ん………………………っ、う、ん。い…………う、ふぅ…………………はっ…く、ふっ」

 規則的だった呼吸が乱れる。
 ぬめるぬるりとしたナメクジのような嫌悪が全身を包む。吐き気と過呼吸に顔をゆがめ、レイは乳房を愛撫するオークをにらみつける。きつい目つきは射抜くような敵意を秘め、伝説のバジリスクの邪眼さながら。一方でいつしか肌は薄桃色に色づき、滲んだ汗でぬれている。体臭すらも操れるようレイは食事に気を遣っている。肉は元々食べられないが良い香りのする木の実を好んで食しているレイは、汗までも芳しい。花の香りに混ざって発情した女の香りが一段と濃くなる。

『へへへ、もっと睨めオーク。猫の目、大好きオーク。とろとろのやわやわにするのは、もっともっと大好きオーク』
「……………ふ、ぅ。あ………うぅ」

 オークの口調からこれから起こることを悟ったのだろう。レイはオークから、いやアスカから見えないように顔を背ける。ぺろりとレイの頬をなめると、オークはレイの処女のような乳首をつまみ、ギザギザの噛み痕のある爪で、食い込むほど強くつねった。

「うぅっ! くぅ…っ」

 鋭い痛みにレイは小さく呻き、逃れるように身をよじる。銀髪がまた乱れ、体がぶるぶると震えた。

「ん、はぁ…んっ」

 乱暴な愛撫にも関わらず、苦痛に強い体は瞬時に反応し、レイは我知らず、熱っぽい吐息を漏らした。自由な右腕と両足がじたばたと被虐の快楽でもがく。

『感じてるオーク。いい、いいオーク。我慢できなくなるオーク』
「うあ……ぅぅっ!」

 オークの本能に刻まれたどんなジゴロも敵わない災厄の指さばきで、わしづかみにされた乳房がもにゅもにゅと勢いよく揉みしだかれる。お椀型をしてたっぷりとした質感の乳房はパン生地のように形を変えていく。揉まれ、つままれてこねくり回される度に、ぞわりぞわりと奥底から疼きが沸き上がる。レイは赤く染めた顔をゆがめ、食いしばった歯の隙間から甘い呻きを漏らした。

「ん、く、ふっ、んんっ………。うぅ…………やめ、うぁ、うっ」
『やめるわけないオーク。んん…ちゅぶ』
「ひぅ…………………っ。ん、んんぅ……………う…………………ふぅぅ……ふ……はぁ…………うぅ」

 下から絞り上げるように揉み、固くなった両方の乳首をこすりあわせる。ブルン、ブルンと弾力のある乳首同士の感触がオークの指先に伝わってくる。痛々しいほどに凝り屹立する、プティングのように柔らかで甘い乳首を、両方一緒にオークは口に含んだ。耳まで裂けた口をにんまりとゆがめ、ちゅうちゅう、ぶちゅちゅ、と下品な音で乳首に吸い付き、黄ばんだ歯先で甘がみする。

「ん、はぁぁ…………はぁ…………ん」

(いや、なの。ん、こんな…)

 嫌悪と苦痛しか感じないはずなのに、砂糖菓子が溶けていくようにレイの全身に不健康に甘い快楽が広がっていく。嫌なはずなのに気持ちが良くて仕方がない。吐き気同然の焦燥に胸を締め付けられ、葛藤するレイは天井を見上げながら大きく肩で息をしている。抵抗することも忘れ、無意識のうちに貪るようにオークの行為を受け入れていく。

(どうして、ああ、そんな…。こんな、の、嫌、なのに)

 ちゅぶ、ちゅぶ、ぐちゅ、ぢゅっ、ずちゅちゅ。

 ことさらに嫌らしい音を響く。オークには砥石のようにざらついた歯があるはずなのに、器用に歯茎の部分で乳首を甘噛されると、その度にレイは押さえようのない電流が流れるのを感じた。

「くっ………………はぁ………………はぁ…………あ、あんっ。…………あ…………はぁ…………ああぁ。や、ん…………んっ……………んっ…………はぁぁ、はぁ……はぁ……あっ」

 赤子のように吸い付く淫靡で下劣な水音に、ヒカリは勿論、マユミ以上に控えめなレイの喘ぎが重なる。
 四方からサラウンドで聞こえる喘ぎ声にアスカはまるで自分が犯されているような錯覚を覚えていた。処女のアスカには今の状況だけでも軽く達するのに充分なほどの淫気が室中に満ちている。不浄な大気に酔ったアスカは心中で言葉を限りにオークを罵りながら、瞬きする一瞬も惜しんで喧嘩仲間で親友の痴態を魅入っている。脱出の手段を考えることも忘れて…。

(畜生、オークの奴ら。レイを、ヒカリを、マユミを、みんなを…。こんなの、酷すぎるわ。どうして、こんな)

 次は、どんな酷いことをするの…?
 前身イボだらけのオークと顔中に膿んだニキビのあるオークがレイに近寄るのを、当人は決して認めないだろうが…濁った期待を込めてアスカは見つめた。











『触れよオーク!』

 吐き気を催す笑いを浮かべてオークの一人はレイの右側に座り込んだ。慌ただしくベルトを外し、グロテスクに屹立したペニスを露出させる。二本の肉の触手が双樹のように絡み合った異形のペニスだ。二重螺旋のドリルペニス。あれで犯されたら、どんなことになるのだろう。人間とは大違いの、初めて見るオークの性器にレイは息をのんだ。ペニスをむりやり握りしめさせられる指先が熱い。単に特異な形をしているだけではない。手の平全体に感じる凹凸から、悪魔の作為で女の弱いところを隈無く責め立てることがわかる。

「ああ…」

 これで犯される…。小さく囁くようなため息を漏らし、レイは自分の体が自分でどうにもならなくなっていくのを感じた。鳩尾を殴られてるような焦燥感と吐き気を催す嫌悪を感じているが、一方で奇妙な興奮と期待に心臓が高鳴る。どうにかしなければと思うのだけれど、ふわふわと波間に浮かんでいるようなもどかしさと無力感ばかりが緩慢に満ちる。抵抗の意志が断ち切られていく。

「いや、んっ……………んんっ。はっ…………………あ………はぁ…………」

 リズミカルに左右の乳首をしゃぶられ、いつしかレイは全身を馳駆する官能に没頭し始めていた。甘噛されるたびにズクンズクンと疼き、脳内が痺れる。スンスンと子犬のように鼻を鳴らし、唇からは「はぁはぁ」と荒い息を漏らす。荒い呼吸に大きく胸を上下させ、空気を求めて喘いでいる。口の端からとろりとした唾液がこぼれ落ち、泣いているように潤んだ瞳と上気した頬が男心を惑わせる。
 オークの粘膜にふれている手先が痺れていく。毒が染みこむように手から熱が潜り込んでくる。言われるがまま、優しく握りしめたペニスを上下に擦っていく。

(どうしてこんなこと、こんなことを…。でも、私、手が、変、なったみたい…)

『うう…ダシュ(すげぇ)、おまえ、デッシュ(上手)』

 オークは気持ちよさそうに目を細め、自ら腰をひくつかせてレイの手淫に没頭した。たちまちじゅくじゅくした先走りが尿道口から滴り、「ぐじゅぷ、ぐじゅぷ」と飛沫をまき散らしてレイの手をぐっしょりと濡らしていく。蛙の卵のような手触りに一瞬正気付いて顔をしかめたレイだったが、意志に反して体の反乱は止まらない。先走りを潤滑剤にして、オーク相手の禁断の背徳手淫はますます勢いを増す。

『おぅ、おぅ、おぅ!』
「くっ…わたし、嫌、なのに。くっ…ふぅ、うぅ」

 レイの指先が望まない奉仕を強いられる。異様な隆起に盛り上がった竿部分は尿道口から染み出るように溢れる先走りでぬめり光っている。嫌悪しつつも手淫を止められないレイの顔に、不吉な影が被さる。紅玉のような瞳をそちらに向けると、3人目のオークが下帯を外してしゃがみこんでいた。まだ若いそのオークはにやつきながら隆々と天をつく黒ずんだペニスをつかんでいる。よじれたペニスに大砲の筒先のような危うさをレイは感じる。

(3人も…無理、だわ。それに、この、オーク、まさか…それは、ダメ。そんなこと、できない。したことないもの)

 ニキビ面、というより化膿した腫瘍面のオークがこれまた腫瘍だらけのペニスを押しつけてくる。疫病蒸気のような蒸れた臭いがレイの鼻孔を刺激した。吐き気を催す悪臭に胃が痙攣するが、締め付けられた胃袋は吐き出すことを許さない。

「い、いや…」

 レイの最悪な予想どおり、ペニスの先端が顔に押しつけられる。何年も洗ったことのない様な不潔なペニスにこびりついた恥垢と有機物が腐敗する独特の臭気、そして喉の奥からせり上がる苦みにレイは顔を背けてあらがった。さすがのレイでも、こんなものを口に出来るはずがなかった。病気になってしまうし、なによりアスカが見ている前でそんな無様な姿をさらしたくない。
 しかし、オークがそんなレイの抵抗を許すはずもなかった。

『グーデンヤシュ(人間雌)、グッシュ(口)、開けろ』
「ぐっ…ううぅ、く」

 こんなものをくわえるくらいなら、犬の糞でも口にした方がまだマシだ―――。首を振り、必死に抗うレイ。だが垢染みた手で顎を捕まれ、柔らかな唇を無理矢理こじ開けられる。

「ふぁぁ、あが、あ…」

 かすれる息を漏らすレイの口中に、醜くよじれたペニスが押し込まれる。

「や、うぐ、ぐぅぅぅ……っ」

 舌を擦る頬をなめる喉の奥をつく一撃に、レイは踏みつぶされた蛙のような呻きを漏らした。全細胞が嫌悪し、拒絶する。胃の内容物を逆流させる嘔吐に身をよじらせてレイはうめいた。

(吐かないと、一刻も早く、出さないと…!)

「う゛〜〜〜〜っ、う゛う゛う゛〜〜〜〜〜っ、おぐっ、ぐぶううぅっぅ」

 だが吐くことは出来ない。蓋をしたままの淫悪ペニスは無理矢理に恥垢の苦みと小水の塩味を味あわせ、黒竜のブレスよりも危険な悪臭がレイを窒息させているというのに。猥褻な体臭と共にオークオーラがレイを浸食していく。文字通りの体内被曝。白目を剥いてレイが痙攣している間にも、汚濁がレイを幻惑していく。

「んっ…んんっ。……………………ふっ、うっふぅ、ふぅ、んん(ああ…なに、か、おかしく)」

 レイが何もかも吐き出そうとした寸前、とろん、とマタタビをかいだ猫のようにレイの目が惚けていく。
 苦くて気持ち悪いはずの恥垢の苦みが奇妙に後を引く。意識は吐き出そうと考えているのに、体は意志に反して積極的に口腔奉仕をしている。

「ちゅっ、ちゅ、ちゅっ。ん、ちゅ……ふあっ」

(嘘、美味しい…やめられない。こんな、ありえない。ダメなのに)

 既に抵抗することを忘れたレイは、今度は必死になって醜悪ペニスへ舌奉仕を行っている。控えめに舌先だけで恥垢をこそぐように腫瘍やカリ首のを舐めていたのもつかの間、ごくりと喉を鳴らして大量の涎を飲み込むと、吸い込むようにして口全体でオークのペニスに奉仕し続ける。誰かに習った訳でもなく、その動きは拙く未熟なものだったが、それでも本能的にオークの、雄の感じる部分はわかるのか徐々に動きがスムーズになっていく。

「んんっ、しづ、らい。あう、ちゅ、んんっ。うごか、ないで」
『おぅ、おぅ、ヤシュめ、ヤシュめ…! どうだ、どうだオーク!? うまいか、俺のウペ(チンポ)うまいかオーク!?』
「おいしい…ああ。おい、しいの。だから、だから、んっ…んっんっ、私を、見て。んっ、んっ」

 唇でしごくようにして何度も頭を前後させてレイはオークのペニスに雌奴隷奉仕する。アスカが見ていることや、致命的な状況も快楽でふやけきったレイは忘れてしまったのか、涙まで流して、一瞬たりとも逃すまいと執拗にレイはペニスを求めた。吸えば吸う度に鈴口からはとろとろと先走りが溢れ、それを味蕾に感じるたびにレイの体は喜悦に満たされる。勿論、その間もレイの右手は二人目のオークへの手淫を続け、一人目のオークはレイの胸の間に舌ペニスを挟み込み、パイズリをするようにレイの柔肌を堪能している。

「ふぁぁぁぁあああっ。きもち、いい、の。ああ、こんなのダメ、なの」

 びゅるっ、びゅくっ、びゅっぴゅぴゅっ

 感極まったレイが大きく首を仰け反らせて小刻みに体を震わせると同時に、三体のオークは同時にレイの胸と顔と手の平に黄色がかったゼリー状の白濁毒を射精した。大量の、人間の男の軽く十倍は量がある大量射精はべっとりと、ありえないくらいの汚液がレイの上半身を汚し尽くした。

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、んんっ………あ、はぁ…………」

 悪臭漂う直中で、しばらく体を張りつめさせて震えていたレイだったが、やおらぐったりと脱力し、口にこぼれ落ちる精液をうっとりとした表情で舐め取った。いや、舐めると言うよりも口を開けるだけで流れ込んでくる精液を嚥下し続けていると言うべきか。

「あん、んちゅ、ちゅぱっ、ずちゅ…ふぅぅ、う、ふぅ」

 解放された右手をおずおずと口元に寄せると手の平に溜まった精液も舐め取っていく。綺麗に舐め取ると、今度は胸元に溜まった精液をすくい取り、それもゆっくりと舐める。さらにそれでも足りないと言わんばかりに胸の谷間でだらしなく弛緩しているペニスを握り、ゆっくりとしごいていく。

『おっ、おっ、こいつどうしたオーク?』
『せっきょくてきオーク』
『くそ、ヤシュカン(雌穴)、埋まってなければ…!』

 オークの目が瞬時に血走り、一瞬だけおとずれた冷静な思考は消し飛んだ。積極的なレイの行動に一斉に色めき立ち、争うようにレイの美肢体にむしゃぶりついた。場所を変えてレイにペニスをこすりつけ、しゃぶらせ、右手で愛撫させる。酸素を必要とする激しい運動にレイは苦しげに呻くが、それでもレイは全身奉仕をやめようとしない。そのうち、三体以外のオークもレイの周囲に群がり、健康的な太ももに口づけしたり、足指で無理矢理自分のペニスをしごかせたりし始める。

「ふぅ、ふっ、う、うん、ちゅ、あう、うん」

 レイの悲鳴とも嬌声ともつかないくぐもった呻きが絶望と共に充ち満ちていく。






(くっ、なんてことをこいつら…)

 眼前で繰り広げられる阿鼻叫喚の地獄絵図。見たくないと思っても、拒絶することは許されない。レイの痴態…というよりも狂態と、一人安全な立場にいることに自己嫌悪を覚える。いっそ叫んで暴れて、共に同じ苦しみにさらされた方が良い。そう思うアスカだったが、じっと彼女を見つめる、意志の光を失いつつある赤い瞳に押しとどめられる。薄く脂のような靄がかかっている瞳の奥には、オーラに影響されながらもなお消えずに残るか細い灯火が瞬いていた。



 あなたの命は私が守るわ―――。



(私の為に…。私が、見つからないように…)

 一人でも多くのオークの注意を集めれば、それだけアスカが見つかる可能性が減る。だからわざと大げさなまでに呻き、オークに自分から奉仕しているのだ。おぞましい精液を自分から飲み、媚び、恐怖を押し殺して…。アスカは目の前で起こっていることがとうてい信じられなかった。あのレイが、仲間ではあっても友情を感じたことのないレイが我が身を犠牲にして自分を救おうとしている。それはアスカの気高すぎるプライドを傷つけるだけでなく、憎悪を火と燃やす薪となった。

(レイ、レイ…。なんでよ、なんであんたがそんなことするのよ!? 私は、私も、見つかっても良いわよ! だから、お願いだから、私の為にそんなことしないでよぉ。
 オーク、オークども! こいつら、こいつらが! 私の友達に…! 許さない、絶対に許さない。殺してやる、殺してやるっ)

 アスカの憎悪を感じ取ったのだろうか。ちらりと、一瞬アスカを振り返ったレイは数回瞬いた。「ダメよアスカ、押さえて」そう伝えようとウィンクをしたつもりだったのかもしれない。

(アスカ、私は、大丈夫だから)

 勿論酷い目に合わせられる。でも、下半身はマユミやヒカリと違って柱の中に捕らわれている。だから、彼女たちには悪いけれど。最悪、自分は人間として死ねるから。だから、大丈夫。
 素っ気ないレイの声が聞こえたような気がした。アスカはうなだれ、溢れそうな声を必死に飲み込んだ。

(レ、イ…。わたし、あんたのこと、大嫌いよ。大嫌いだから、だから、また、絶対に、あんたと喧嘩する。喧嘩するから、だから、絶対に、死んだら、死ぬこと選んだら、ダメよ)



 もうレイは返事をしてくれない。
 尽きることのないオークの性欲がレイを蹂躙していく。

『ヤーム、ヤーム(そのまま、そのまま)』
「あう…………………………はっ…………………あう、あ、ぅぅ。ん、んんっ…………また」

 もう見てられない。アスカは固く目を閉じた。目を閉じると音が殊更大きく聞こえてくる。アスカは目を開けることが出来ない。更に数体のオークがレイの周囲に集まり、また別のオークがうろうろしているのが見えてしまうから。これから何体のオークに、レイは、あの柔らかな肌を、大きく豊かな胸を、たおやかな指先を、繊細な唇を犯されてしまうのだろう…。

 やがて、うろうろしていたオークの一団が『オオーッ』とどよめくような歓声を上げるのが聞こえた。











「く、来るなぁ! 来ないでよぉ! 来るなって言ってるじゃないの!」

 新たな生け贄、マナの悲鳴が室内に木霊した。
 近寄ってくるオーク達を唯一自由になる舌で罵倒するしかないマナ。彼女の可愛らしい抵抗を突き破り、4匹のオークが近づいてくる。

『へっへっへ。ここにもかかってるぜオーク』
『これで全部かオーク? この部屋、もう全部見たオーク』
『うん。いち、にい、さん、たくさん。数、あってるオーク』

 こんな時にも関わらず、オークの頭の悪さ加減にマナは呆れてしまう。以前、マユミがオークの愚かさと危険性を些か偏執的に語ったことがあったが、あの時の話は決して大げさな誇張ではなかったらしい。

『ん、このグーデンヤシュ(人間雌)、ほとんどはまってるオーク』

 表側で露出しているのは量の手首から先と顔のみ。それもかなり高い位置だ。人間よりも大柄な生き物であるオークだが、それでもマナの口に股間が届くはずもない。逆立ちしたって、肩車(するような協調性はないが)をしたってダメだ。となるとこれを使うしかない。耳まで裂けた口を開けると、弛緩した人間の男性器に酷似した舌がだらりとこぼれ出た。

「う、そっ。なに、あれ? 聞いてない、よ、あれ」

 猫に似た目を見開いて、マナは初めて見るオークの舌に言葉を失った。彼女の見ている前で、オークが自分の舌をしごくと徐々に固くなり、肉の槍となって禍々しさを増していく。男性器を見たことがないわけではないが、それにしたってこれは酷い。酷すぎる。盗賊ギルドの処刑方法に、手足を縛られた上で人食い芋虫の変種『屍体漁り』の住む沼に放り込む、という物があるが、マナはその時の犠牲者のすがるような目を思い出していた。

(お父さん…お母さん…)

 これはきっと罰なんだ。ずっと気にかけていた、いつか両親を助けなかった報いを受けることになる、そう思っていた。
 アスカたちと知り合い、一緒に旅するようになってから、忘れていた悪夢。

『グッシュ(口)、だけかオーク』
『いや、ヌングカン(尻穴)はいけそうオーク』

 背後に回っていたオークが喜々とした声で答えた。マナのヒップは半分ほどだが石の外に出ている。オークが鎧をつけていない柔らかな臀部を撫でるとマナは小さく悲鳴を上げた。

「ひっ……!」

 無遠慮に撫で回し、ナイフで布地を切り裂かれてヒップを剥き出しにされていくのを感じる。
 あらわになった白い尻たぶを開き、乙女の最も密やかな箇所を不潔な指先がつつき、無理矢理に潜り込む。オークの予想外なほどに柔らかくほぐれている菊穴に人差し指を一関節分潜り込ませると、「ヒィー」と隙間風のような悲鳴を漏らしてマナは全身を戦慄かせる。

「やぁ、やめ、て」

 オークは人の嫌がることをするのが大好きだ。頭でわかっていても、懇願せずにはいられない。

『もっといじってやるオーク』
「ぐひっ! うっ、あああ、おおああぁ」

 ニヤニヤ笑いながら指を尺取り虫のように踊らせる。指先が調教された腸の柔肉越しに膣を刺激し、健康な括約筋の弾力を確かめていく。

(くっ、やばっ。だめ、反応、してる。我慢、しなきゃ。でも、ああぁ)

 アナルセックスの経験のあるマナは、こんな屈辱的な行為にもたちまちじゅわりと秘所が濡れ始める。乱暴な行為、苦痛でさえもマゾ娼婦として調教された体は反応してしまう。

「うあん、あん、ああん、うん、うっ、んんっ、んっ、んっ、んっ、んっ、あうぅぅ…!」

 たっぷりマナの喘ぎと肉襞の感触を楽しむとオークは指を引き抜き、しゃぶりまわしてマナの腸液と汚物を味わう。ヒクヒクとうごめく肛門のすぼまりに目を細め、唾液まみれになった口元をゆがませた。まったくかわいい物だ。口ではどんなに拒絶しても、人間の女である以上、オークには決して勝てはしないのだ。今、そのことを思い知らせてやる。オークは固く誓った。彼の特に仲の良かった仲間を殺したのは、奇妙な形状のナイフを投げつけていた栗色の髪をした、この人間だったのだから。

(おまえの分まで楽しんでやるオーク)

 しゃがみ込んでマナの肛門に鼻先をつける。やや勃起した舌がビチャリ、ネチャリと粘ついた水音を立てでたっぷりと粘液をすり込んでいく。

「ひぅん! ひぃ、いいぃ、うううぅぅ〜〜〜〜〜〜っ! やだ、やめてよぉ! お、おしりは、ダメなの! あ、ああっ、や、だぁ」

 まるで廃油のように粘り、ぬるぬるとした唾液?とソーセージに似た弾力の舌が敏感な箇所を執拗になめ回し、時に直腸に潜り込もうとする。もし壁に捕らえられていなかったら、マナはどれほどに乱れたことだろう。唯一自由になる首を激しく振り立て、強く、強く、拳を握りしめる。それが彼女に出来る精一杯。

「だめ、あ、あぅぅぅ…! ひっ、嘘、わたし。ああああ、やだ、きゃ、あ、うああああぁぁぁ」

 長く尾を引く悲痛な泣き声を上げたあと、唐突にマナの頭ががっくりと垂れた。「はっ、はっ、はっ」とバテた犬のように荒く早く短い息を吐き、壁の中で締め付けられた胸の痛みに喘ぐ。

「う、嘘だ、ぁぁ」

 おしりを舐められただけで、軽くとはいえ達してしまった。
 その事実と自分の体に裏切られたような感覚に、マナは悔し涙を流して呻いた。最後の希望であるアスカの為に囮になる、処女膜があるからって今更処女面できるつもりはなかったけれど、それでもやっぱり、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

「うっ、うっ、うっ、ううっ。だからって、やっぱり、こんなの、嫌だよぉ。やだ、いやだ…くうぅぅ」

『すぐ泣く。これだからグーデンヤシュ(人間の雌)は困るオーク』

 心底呆れたと首をすくめると、正面にいたオークが髪の毛をつかんで無理矢理マナの顔を上げさせる。その乱暴な行為は彼女にギルドマスターの折檻を思い出させる。

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

 彼女が悪い事なんて何もないのに、涙で汚れた顔をくしゃくしゃにしてマナは謝る。頤をつかみ、顔を固定するとオークはマナの目をのぞき込んだ。白目のない、小さな瞳が意地悪く光っていた。

『グッシュ(口)は任せろオーク』

 答えるように尻穴を舌で愛撫していたオークは立ち上がり、ベルトを外して一寸の間も惜しむようにズボンを脱ぎ捨てて下半身を露出させる。マナに見せつけられないのが残念な一品だ。太さはさほどでもないが、二重螺旋のねじれ具合は芸術的(オーク基準)で、なによりその長さは1フィート(30CM)近い。

『こっちの方、も、準備、いいオーク』

 逃げ場のない尻を左右からしっかり捕まえると、おもむろにオークは冬至祭のキャンディ・ケインのようなペニスを菊穴に押し当てる。先細りながらも凶悪なカリをもつ亀頭からは先走りの汁が溢れ、事前にたっぷりとなすりつけられた唾液と混じり合って潤滑剤の役割は充分に果たしていた。もはや障害は何も、ない。

「くぅ、うっ、ううぅぅぅ…や、だ、あぁぁ」

 肛門を犯される恐怖に悲鳴を上げる口に、オークがむしゃぶりついてくる。肺の中に広がるオークの口臭と共に、異様な質感と熱を持ったオークの舌ペニスがマナの口を犯していく。

「ふぐ、うぐっ、うっ!? ひううううぅぅぅっっっ!!!」

 吐き出そうとえづいた瞬間、ずるりと音を立ててペニスがマナのアナルを蹂躙した。口と直腸の両方から同時に襲い来る官能に、マナは目を白く裏返して喘いだ。ゴツゴツしたペニスの凹凸が肉を巻き込んで快楽地獄にたたき込む。マナの苦しみなど意に介さず、オークは容赦なく根本までマナの胎内に凶器をたたき込んだ。壁の中で、千切れそうなほどに全身の筋肉を緊張させるマナ。その悲鳴はもはや断末魔だ。

「ぎうううぅ――――――――――――っ!!」

(痛い、苦しい、息が、出来、な、い―――)

 喉と大腸の最奥に突き込んだまま、そのまま二体のオークは動かない。小刻みに痙攣するマナが落ち着くのを待つように、身動きせずに彼女を楽しんでいる。マナが立ち直るのにあわせて、感触が変化するのを味わっている。焦ることはない、ゆっくり楽しめばいいのだ。

「うぐ、うっく、う、う、うううっ、ふぐぅぅぅ…。ううぅ、あうぅぅ、おうぅぅ、ふぅぅ」

 最初の衝撃と圧迫感に苦しんでいたマナのえづきが、徐々に収まってくる。溢れる涙としゃくり上げるのは止まらないが、出産中の妊婦のような呼吸は、徐々に、深くて長い深呼吸のように落ち着いた物になった。血走り見開かれていた目がゆっくりと閉ざされ、「くぅ…」と子犬のようにマナは吐息を漏らした。
 まさにそれは合図だった。頃合い良し、そう見てとった二体のオークは行動を開始したのだ。
 肉食獣が肉を食いちぎるように、マナの口が貪られる。

『ふご、ふぎぃーっ! じゅぶ、ぐちゅ、じゅぶ、じゅ、じゅぶ、じゅるるるっ』
「んっ、んっ、んっ、んっ、うんっ、っ、うっ、んっ、んっ、んっ、うんっ、んんっ」

 口元を流れ、首筋を伝ってぼたぼたぼたぼたと大量の涎がこぼれて床に落ちる。端から見ればキスをしているような体勢で口を犯しているオークは、マナの両手に指を沿わせ、力比べをするように…というより、恋人同士がするような優しさで握りしめる。反射的にマナは握りかえした。力の入らない指は、なすがままに絡め取られていく。たとえオークの指であっても、このまますがる物がなければ、深く暗い闇に落ちていきそうだから。

「あふ、ん、ちゅぶ、んんっ、んっ、んっ」

『どうしたオーク? ずいぶん、良い声で、啼いてるじゃないかオーク!?』

 ズチュ、ズチュ、ズチュ

 淫靡な音を響かせて長くゆったりとした動きでアナルを犯しながら、マナの体の反応をオークは揶揄した。充分にこなれているマナの腸壁は乱暴なレイプであっても、問題なく受け入れてしまう。望むと望まずに関わらず侵入者を最大限にもてなそうと絶妙の力加減と柔らかさでペニスを締め付けてしまう。

『うう、こいつはとんだ淫乱ヤシュ(メス)だぜオーク!』
「ふぐぅぅ〜〜、うっ、うううぅっ、うんん、あぶっ、ぐぅぅ」

 涎を垂らしながらオークは呻いた。格別にきつい締め付けは直腸部分だけだが、膣とは感触のまるで異なる腸の襞が吸い込むようにペニスに絡みついてくるのだ。そして肉の壁ごしに感じる膣の強くしなやかな感触に得も言われぬ快感を覚える。淫唇を割り、実際に膣内を犯したときの感触を脳裏に思い浮かべようとして、それが到底不可能なことを悟ってまたオークは呻いた。吹き出物だらけの尻にえくぼをつくるほどに緊張させると、30センチのストローク幅で腰をグラインドさせる。

「あぐぅ、うん、ううっ、うっ、うっ、あう、おううううぅぅぅっっっ!!」
『ぶひぃ…! もう、もう我慢、できんオーク!』

 アナルを犯していたオークが悲鳴のような声を上げて根本まで深くペニスを差し込む。

『うむぅ…! じゅぶ、俺、ずちゅちゅ、もオーク!』

 口を犯していたオークの舌が限界まで太く膨れあがり、水風船のようにぶるぶると震えた。

「んんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!」

 どぶり

 マナの腸内に異物感が限界まで膨れあがり、生ぬるい油のような物が大量に満ちていくのを感じる。調教で受けた肛門拡張ともまるで異なる、腹がふくれていくような異様な圧力。
 同時に口の中にも唾液では決してあり得ない、苦くて粘つく白濁した精液があふれかえった。なんという大量な精液か。あとからあとから溢れる同輩は先達を追いつめていく。逃げ場を求めて精液はマナの胎内の奥へ奥へと流れ落ちていく。

(う、そぉぉ。なんて、大量の、こんな。それに、口、まで。なんで、なんで、こいつ、舌にも)

 いやだ、と思っても逃れられない。
 息をする為、苦しみから逃れる為、体は意志に反して動いてしまう。ゆっくり、ゆっくりと喉が動き、ゴクリ…と音を立ててマナは口内の精液を嚥下した。また一滴の涙が流れ落ちる。

(う、うえぇぇ。苦い、不味い、よ。こんなの、飲んじゃう、なんて、イヤだぁ)

 しばし余韻を楽しんでいたオークはゆっくりとペニスを引き抜いた。名残惜しむようにマナの肛門が抜け出る竿を締め付ける。そのため、精液と腸液まみれのはずのペニスは意外なほどに綺麗だった。

『くくく、本当に良い具合だったオーク』

 あとでしゃぶらせてやろうと邪なことを考えながら、ペシペシと尻を叩いてマナを賞賛するオーク。その刺激が引き金となったのだろうか。ビクビクと痙攣していたマナの肛門が耐えきれずに弛んだ。屈辱と羞恥にマナの顔が青黒く染まり、もの凄い音を立てて精液が噴きだしたのはその一瞬の後のことだった。

「あぁっ!?」

 ブビ、ブビッ、ブボボボッ!

「あぐ、げぇ、げ、うげえぇぇ。いやぁ、いやぁ、げぇぇ、ぐっ、とまらない、うう、止まらない、よぉ」

 上と下両方から精液を吐き出しながら、マナは死にたいと思うほどの嫌悪に苛まされ、再び幼児のように泣きじゃくった。

「あう、うっ、うっ、いやぁ、いやっ、もう、いやぁぁぁ…」

 泣けば、目を閉じればこの悪夢はどこかに行く。そう信じる5歳の子供のように、マナは泣きじゃくった。ギルドで訓練を受けていたときから、ずっとそうしていたように。
 そう、目を閉じる一瞬前、涙で濡れた目の端に別のオークの足が見えたけれど、これも、消えて無くなる。
 ほんの数秒の儚い現実逃避かもしれないけれど。きっと、誰かが来てくれる。助けてくれる。危ないところでオークを倒し、そしていつの間にか純白のドレスをまとった自分を助け、結婚してくれと頼むのだ。そう、だって彼は某国の王子様だから…。きっと、きっと誰かが。

『こんどは俺の番オーク!』

「誰か…」







初出2008/09/02 改訂2008/10/14

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