はぁはぁと荒いけど、必死に押し殺した声を出している。 誰の声? 荒い獣のような息づかい、じっとりと肌を焼く体温、気だるい澱んだ空気がまとわりつく。 これは誰? 誰なの? わかっている、これは自分。誰でもない自分自身。 綾波レイという一人の―――ニンゲン。 血を流し、老い、朽ち折れる人の女。 いずれ歯が抜け、骨が細り、手足が萎える。不完全で死ぬべき定めの女。 でも私はそれがとても誇らしい。とても嬉しい。 碇君と、私の愛しいつがいと、ニンゲンの男と愛し合えるから。 自分が自分じゃないみたい。 指先まで痺れて力が入らず、為すがままに弄ばれて堕ちていく。そう、今の私の状況を一言で言うなら、堕ちていくとしか言いようがない。そう、思う。 ―――堕ちる。 でもそれは私が自分で望んだこと。 人を愛おしいと思う、愛おしいという感情を知ったときからこうなるのは必然だった、そう思う。山のように、海のように間違えようのない確かなことだから。 「ん、んんんっ」 くぐもった呻き声。必死に破裂しそうな肺の奥に押し込む。そうしないと声が漏れるから。 胸が苦しい。肌が紅潮していき、鼻でする息には熱ささえ感じる。 碇君…。 「綾波、声を、出しちゃ、ダメだ」 途切れ途切れに言いながら、きつく腰を掴んでくる。 わかっている。私は、私のすること、存在、全ては碇君の望むままだから。 でも、それでも。 今目の前で起こっていることを、そのまま見過ごして。 それで本当に良いの? ─ 図書室にて 後編 ─ あるいは可哀想な処女と卑屈な暴漢、どうしようもない2人の天使
書いたの.ナーグル
「いや、やっ、はなしっ、てぇ!」 『あばば、あばれるなぁあぁぁあああああああっ!』 虫を踏みつぶした音みたいに呂律の回らない声、対照的に悲鳴でも凛と響く山岸さんの声。一瞬、耳がツーンと高鳴った。 今まで一度として聞いたことのない、肺を絞った様に大きな声。不思議と高ぶる。 受付カウンターから、顔を真っ青にして私たちが隠れているところに逃げたけれど、結局、手にロープとガムテープを持った相田くんに、いえ、もう私にだって分かる。彼は名前で呼んでやるような価値のある人間じゃない。 セカンドチルドレンが呼んでるとおり、変態盗撮眼鏡で十分。でも、長くなるから便宜上、碇君がそう呼ぶように相田って呼ぶ。 「はぁ、はぁ、はぁっ。お願い、放して、その手を、放してぇ!」 直前まで、どんなやりとりがあったかは想像するしかない。 ただ、相田がその品性下劣な要求を山岸さんの意志を無視して押しつけようとしたに違いない。 山岸さんは抵抗虚しく床に押し倒され、両手首をロープで縛り上げられている。 手慣れた動きで両手を封じ、重い木の机の脚に縛り付けていく。 2人までの距離はほんの5メートル。彼女の涙で濡れた瞳や、ピンク色の爪まではっきり見て取れる距離。手を伸ばせば届きそうで、それがなお歯がゆかった。助けようと思えば助けられる、けど、助けると言うことは今の自分たちをさらけ出すことになるから。そうしたら、今の自分と碇君の関係は洗いざらいばれる。それは、よくわからないけど、山岸さんには殺されるよりも辛いことだと思うから。 でも、このまま見ていて良いの? 碇君は何も言ってくれない…。 ただ、先程、私を犯していたときよりもきつく私の腰を掴み、引きつったように荒い息をゆっくりゆっくりと吐き出していた。 「や、やだっ、や、はぅむむむむむむーっ!?」 『う、五月蠅い! ちょっと静かにしろよ!』 山岸さんの口にガムテープを貼り付け、その声を封じようとしている。なぜか私の体が震える。まるで、自分がそうされてるみたいに。 無力に、呻き声を上げる彼女は、展翅台に縛り付けられる蝶そのものに見えた。 「ふっ!? ふっ、ううううう――――っ!」 手を封じられた彼女には相田が何をしても抵抗することも出来ない。強引に足の間に体を割り込ませていく相田の動き、太股に感じる相田の体温が気持ち悪いのか、その顔は引きつり、見開かれた瞳からは涙がこぼれ落ちていく。 『ひひひひ、ああ、柔らかい、暖かい…』 「うううううう――――っ!!」 強引に剥き出しにされた薄い胸に、相田が音を立てて吸い付く。見ていられないわ。 私やセカンドチルドレンに比べて薄い、わずかに膨らみが分かる程度の胸。こんな時でなければ、言葉に出来ない勝利の感情が胸にわき起こったかも知れない。だって、碇君は大きな胸が好きだから。 でも、小さくても桜の花びらみたいにピンク色の乳首や、薄く泡だった肌は染み一つなくて、とても可愛らしいことは分かる。 そういえば、最近山岸さんは背が伸びている。初めて会ったときは碇君や相田よりも背が低い、150センチそこそこしかなかったけど、今は157、8はある。それに比例するように胸も大きくなってる気がする。初めて見たときは、とっても薄かったと思うから。 「う、うううう――――っ! うあぅっ、ううううぅぅ」 相田が山岸さんの乳首をくわえ込んだ瞬間、ドキリと胸が高鳴る。 自分の胸までも同時に愛撫されてるみたいで。 こんなおぞましい、可哀想な光景、見たくないのに。でも、目を離すことが出来ない。どうして? 相田の口がもごもごと蠢いている。使徒か何かを見ているみたいで気持ちが悪い。 滴る唾液は劣化したLCL、体中を汚されていく。 山岸さんの背中が、ゆっくり、ゆっくり、折り曲げるように反り返っていく。 まさか、感じて…? 「あふぅん!」 その時、意図しない声が溢れて体がねじれる。 それがズクンズクンと疼くように鳴動する。先程とは比べものにならない圧迫感が私を引き裂く。一休みして回復したはずの体から、栓を抜いたように力が抜けていく…。 たまらない、堪えられない。 なぜ、どうして? 一体、何が起こっているの? 「う、うううぅぅ」 首筋を動かすだけでも一苦労。うなじに張り付いた髪の毛が擦れる感触が、それだけで私の意識を持っていきそうで。 振り返った私の目に、碇君が瞬きもせずに山岸さんを凝視している姿が飛び込んでくる。血走った目、ハァハァと押し殺した低い息、火傷しそうに熱い肌の感触。 いや…。 碇君なのに、それは不思議とあの人のことを思い出させる。 結局何もされなかったけど、定期検査の度に私を、欲望を隠そうとして隠しきれない目で見ていたあの人を。その微かな劣情を稚拙な眼鏡のレンズで隠していたあの人。 怖い…。なんだかお髭が似合いそう。 いつもの碇君に戻って…。 「………………………う、ううっ」 優しい碇君じゃないから、逃げようとしたけど、でも、吸い付いたみたいに碇君は離れてくれない。精一杯、霧島さんがするみたいに懇願調の目をしてみたけど、ダメ、戻ってくれない。 そもそも私を見ていない。 「う、ううっ…………うっ、うう、おあうっ、ううう〜〜〜〜っ」 『おああ、良いよな? 良いよな? 濡れてるし、濡れてるから!』 「はうぅぅぅぅうううっ!!」 呻き声が、心なしか艶めかしく聞こえる。女の私でも、聞いていたら背筋がゾクゾクしてくるような声。 声と共に徐々に全身を紅潮させていく山岸さん。まさか、感じて…。 涙を一杯に流して、もじもじと唯一自由になる足を捩ってるけど、でも、相田はやめようとしないで、彼女を泣かせている。 なぜ、碇君は…こんなに、興奮して、いるの? 「は、ううぅん」 ああ、ダメ…。 碇君がほんの少し体を動かしただけで、いつもより一回りも二回りも大きさを増したペニスが、私の中を…。これ、凄すぎるわ。き、きついの。気持ちいい、苦しい、たまらないの。 碇君は別人のように荒々しく、ううん、私のことを忘れたみたいに股間を硬くしている。碇君のペニスは射精した直後とは思えないくらいに、堅く、熱く、そして大きくなって私を内側から、ああ、言葉に、ならない…。 碇君、碇君、碇君、碇君、いかり、くっ……! 噛みしめたハンカチから、とろりとした唾液がこぼれる。口元を伝い、首筋を通って汗と混じり合い私の体を溶かしていく。それと共に、私の体が溶けていく。 溶ける、塩、溶ける、塩、溶ける、私、私、溶ける、碇君、私、溶けて、ひぅ、ああ、溶け、ひぐっ、ダメ、動かなくても、存在、圧迫、痛み、息が、目が、光が、光、洞木さん、違う、もう、意識が、溶ける、堕ちる、ああ、ダメダメダメぇ、声が、声が…。 「あ、綾波、綾波、山岸さんが、ああ、あんな」 「ふぅ、ううん、うっ、うっ、ううっ」 き、気が狂いそうなほど、ゆっくり、碇君が、碇君のペニスが、私を貫いて、前後に出入りして、いくっ…。 こそがれて、乱される! 痒みが自分ではどうにもならない痒みが、体の表面じゃなく、私の中が。掻きむしりたい。でも、このもどかしさは、碇君に、碇君に乱暴に動いて貰わないと、解決できない。 碇君は、ああ、凄い、足が、ブルブルって、震えてる。なぜ? こんな静かに、ゆっくり、きつい、締め付けてる。感じる、感じちゃう。 ゴツゴツとグロテスクなほどに形を変えたペニスが、私を、犯す、犯している。女、哀れなもの、強きもの。私は、女。 そして、碇君は、男。ああ、見たくない、そんな碇君、見たくない。 「ふぐ、ぐっ、ふーっ、ふーっ、ふっ、ふぅぅ」 息が苦しい。大きく口を開けて、胸一杯に空気を吸いたい。 でも、ダメ。碇君が、ハンカチを噛んでなさいって、言ったから。 だから、苦しくても、こんな風に、音を立てないように、鼻で、息を…ああ、なのに、それなのに、碇君、容赦がない。 細胞一つ一つ、神経一本一本が活性化しそうなくらい、ゆっくりと、碇君のペニスが私の中を、お腹の中をかき乱していく。 「ふっ、ふぅっ、うっ」 首に力が入らない。ガクリとうなだれると、ぽたぽたと汗がこぼれて床一面に水玉模様を作っていく。服は、まるで水につけたみたいに、ずぶぬれ。これ、染みに、なるかも知れない。大丈夫、なのかしら? でも、碇君は、構わず、私を、後ろから、犬みたいな格好をさせて。 「う、んんんっ、んふっ、ふぅーっ、んふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅぅっ」 息が溢れる。堪えられない。 ハンカチがなかったら、きっと、きっと…! 「うふぅ、うふぅ、ふぅぅ、んんんんんんっ! んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、ううんっ!」 私の息、聞こえるかも知れない、でも、碇君、やめて、くれない…! どうして私を苦しめるの? 碇君も、所詮、他の男と、一緒なの? 酷いの。 「あ、ぐっ、ふぐぅぅ」 涙がこぼれる。悲しいから。涙が通った後がヒンヤリする。 こんなの、碇君じゃ、ない。 いつもと、全然違う。たくましくて、激しくて、熱くて、だから、やめて欲しくない。 「ふぅ、ふぅぅぅ――――っ」 体が反り返っていく。そして、密着した私の中に、より深く、きつく、碇君が、碇君のペニスが入って、来る…。 「綾波…熱い、いつもと、全然、違う……」 耳元で、息も絶え絶えに碇君が囁いた。途端に、ジュンとしみ出すように私の中が熱くなる。不思議、碇君のこと、嫌いになりそうだったのに、今は、かえって彼のことが愛おしいから。 でも、どういうことなの? 違うって。 私が? 碇君じゃなくて? 「ふ、うふぅ?」 怖い、怖いけれど私は見る。 重たく揺れる、胸の谷間の隙間から、碇君と私が繋がる部分をじっと見つめる。なに、これ? 言葉が続かない。意識した瞬間、焼け付くような快感が私の全身を貫いていく。 「うふうぅ、うふぅ、うふぅぅぅぅ」 息が、乱れて、体が痙攣する。 碇君が支えてなかったら、きっと、私、立ってられなくて、音を立てて、床に倒れる。 凶悪な、使徒の一部みたいにグロテスクなほど大きくなった碇君のペニスが、同じくらいに大きく赤く晴れ上がった私の大淫唇を割り開いて、中に、私の膣内に埋没して――――っ!! なに、なに、なに!? これは、なに!? 「ふ、ふぁぁぁ、かっ、い、碇、くぅん!」 気がついたら、ハンカチは床に塗れた音を立てて落ちていた。ようやく解放された私の口から、とろとろと蜂蜜をこぼしたみたいに涎が後から続いていく。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、うっ、はぁ、はぁ、はぁ」 荒い息が止められない。 一度声を出したからか、それとも、食いしばる拠り所がなくなかったから。 ポンプで水を送るみたいに、私の中から、中から、快楽と、痺れと、熱い滴が、溢れて…。 「う、ううううっ、碇君、もう、もう、ダメ…声が、ダメ、こらえられ、ひぃうっ」 私の足は根本から爪先まで、油で濡らしたみたいにぬらぬらぬめぬめと光っていた。ああ、そうなんだ、と私は悟る。これが、いやらしいって光景なんだと。私は、とても、いやらしいの。淫らで、状況も忘れて、よがり狂うの。 「ああ、っあ、くぁっ、や、ああああっ、碇、くぅん、碇君、碇君、いかっ、り」 ビクン、ヒクッ、自分の物じゃないみたいに体が勝手に。ちゅぷちゅぷ、じゅくじゅくって音が淫らに聞こえるの。碇君が、体をほんのちょっと揺すっただけで、爪先まで痺れていくわ。 こんな、こんな、嘘みたい。碇君も私も、変、変になってる。 それもこれも、全部、目の前で、レイプされる山岸さんを、見てる、から? ああ、そう、山岸さん。このままだと、声が、声が、ひぅっ。 「はぁぁ、ああ、碇君。聞こえ、ちゃう」 「そうだね、でも、ううっ、大丈夫、さ」 ?? どういう、こと? 熱にぼやけた目を精一杯見開き、ほんの隙間から覗いてみる。 「あ!? や、山岸、さん」 蠢く肉のかたまり。 抵抗虚しく捕らわれた悲劇の少女。 獣欲に呑まれた悪魔。 ふと、そんなことを思った。 細い足は意に反して相手の腰に絡み、うっすらと肋の浮いた横腹を、無骨な男の腕が気味悪いほど優しく撫でさする。そして控えめな膨らみは大量の涎と汗で一面ドロドロに濡れ光って、いくつも赤い唇の痕を残して震えている。 「ふぅぅ、うっ、うふぅぅ」 涙は相変わらず溢れ続けてるけど、でも、とろんとぼやけた目をして山岸さんが呻いている。口を塞がれてるから、かなり苦しそうだけれど、でも、でも、あれは明らかに、快楽にとろけた、惚けた目をして…。 どうしてなの? でも、そう。あれなら確かに私たちの声なんて聞いてる余裕はなさそう。 『ひひひ、なあ、おい! いったよな、山岸さん、今いったよな!? 胸を、胸を俺にペロペロされただけで!』 「あうううっ」 『誤魔化しても無駄さ。あはぁはぁはぁ、うう、暑い暑いぜ。耳鳴りがさっきから』 「ふぅぅ、うううっ!?」 『それじゃあ、そろそろ、山岸さん、俺と一つになろうぜ』 相田が山岸さんの足を抱え込む。 ぎょっと目を見開く山岸さん。眼鏡をかけた彼女の目は、少し小さく見えるって聞くけど、それがあんなに大きく見えるって事は、どれくらい大きく彼女は目を見開いたのかしら? 「うううう――――っ!! うっ、ううう――――っ!!」 暴れる。暴れてる。でも、足しか自由にならず、そして足の間に相田が入り込んでる以上、彼女がどんなに足掻いても…。 そう、助けるのなら、助けるのなら、もう、今が最後のチャンス…。 碇君!? 「や、山岸…さん。なんで、どうして、僕は、助けに…。それどころか、こんなに興奮して。 さ、最低だ、俺って」 目をぎらぎらと血走らせて、碇君は山岸さんを見ている。でも、助けようとは、しない…。山岸さんより、私のことを、大事に思ってくれているから? ううん、碇君は、最低なんかじゃない。 最低なのは相田だから。 碇君に責任転嫁して、碇君と同じ心の重荷を背負うことを、どこかで喜んでる、私、だから…。 「山岸さん、山岸さん、お願いだから逃げて逃げて……っ!」 私も祈った。それは、本当の気持ち。 でも、私たちは、最後の最後まで、彼女を…。 「ひぅ、うううぅぅぅぅぅぅ――――――――っ!!」 助けなかった。 『ひぃ、ひぃぃぃっ、やま、ぎっ、ひぃぃぃぃぃ、すいこまれるっ、うおあ、あああっ』 下半身を剥き出しにした相田が、悲鳴を上げながらゆっくりと前後に腰を動かしている。 なんてグロテスク。 血走った目、血管が浮いて老人みたいに見える彼の裸体。でも、不思議と、目が離せない。 「あうううう、うううっ、ふぅぅぅ〜〜〜〜〜っ」 『ひぃぃ、ひぃぃ、やまぎしさん、やまぎしさぁあああっっ』 耳障りな声。闇からとどろく悲鳴。 彼は明らかに逃れようとしている、でも、逃れられない。 はぁう、あっ、私、と…同じ。 苦痛じみた、発狂しそうな快楽に、捕らわれて……いいっ。 「碇君、きつい、の。お願い、ほんの少し、少しだけ、休ませ、て」 ひぅ、ううっ、でも私と決定的に違うのは、あううっ。 尻がきゅと引き締まり、ビクン、ビクンと相田の体が痙攣してる。同時に山岸さんの体に力が入り、嫌々と首を振って激しく暴れ出してる。紅潮した彼女の肌、私とは違う匂い。 『おあああ、いく、いく、いくいくいくいくいぐぅぅぅっ! は、お、ろ、でるぅ!』 「うううぅぅぅぅっ!!」 痣が残るくらいに体を動かしていた山岸さんの動きが、唐突に止まった。そして相田のよじれた体がビクン、ビクンと震えている。 『ふ、ふぅぅぅ。た、たっぷり、出た…。ははは、やった、やったぜ』 「う、うううう、ううううぅぅ〜〜〜」 啜り泣く山岸さんを見下ろしながら、相田は肉みたいに醜く顔を歪ませていた。 そのまま、山岸さんを放ったまま身支度を勝手に調えていく。 『へ、へへへ。良かったよ山岸さん』 「う、ううううっ。ひ、酷いわ…」 ロープをほどき、ガムテープを剥がしてやりながら、心外そうに相田は肩をすくめた。なぜかしら、無性に殺意が湧くわ。彼は、相田はこれっぽっちも悪いことをしたと、考えていない。 信じられない。相田を見てると心が痛い。心が形を持つ物なら、今にも砕けそうなくらいに感情が弾ける。 初めての感情。 これが、殺意…。 身勝手で、一方的。 セカンドの言ってる意味がようやく分かった。 で、でも、ああ、碇君。こんな時にも、腰を、動かし続けて、あうう、考えが、まとまらないから、ちょ、ちょっとだけで、ひぃん、あっ、あん、あっ。 『じゃあな、分かってると思うけど誰にも言うなよ。俺は勿論身の破滅だけど、シンジがしっちまうことになるぜ。いやだろ、そんなこと』 「ううう、い、いやぁ。シンジ君に、シンジ君に知られるのは、こんな事があったなんて、シンジ君に…」 『わかってるみたいだな。じゃあ、今後ともよろしく頼むぜ』 「え…」 『当たり前じゃないか。これで終わりなわけないって』 「ま、まだ私を、私をいじめるんですか…」 なんて汚らわしい顔なの。 あはぁぁぁ、碇君、碇君。 私の怒りは長く続かない。碇君がゆっくりと腰を動かしつつ、私の胸を後ろから両方同時に揉みしだいてくる。ぞわぞわと全身を波のような刺激が浸食していく…。 『じゃあ俺帰るから。後始末よろしく』 「……………………はい」 そして相田は本当に帰ってしまい、後に残された山岸さんは、しばらくぼんやりと座ったままだったけど、やがてのろのろと身支度を調え、凌辱の痕を素直に片づけると、ぶつぶつと何事か呟きながら、彼女もまた、図書室から出て行った。 その間、私たちは一言も声を出すことが出来なかった。 ただ、血が出るくらいに唇を噛みしめて、お互いがもたらし合う快楽で声が出るのを必死に堪えていたから。 「洗わないと、洗わないと…早く、帰って、洗わないと……」 彼女が部屋を出ると同時に、室内が闇に包まれる。 「あ…」 いつの間にか、太陽は影の国に行ってしまったみたい。 僅かに窓からはいる外の光で、ほんのりと私たちの体の輪郭が浮かび上がっている。 「あ、綾波…」 苦渋に満ちているけど、でも暖かい碇君の声が耳をくすぐる。 「碇、くぅん」 私の心も傷つき、血が滴っている。でも、私は、最低だから。だから、山岸さんを思うよりも、焼け付くような肉の温もりに浸して欲しかった。 「う、ううあああああああっ」 後ろから貫かれたまま、私の体が持ち上げられる。 ずしりと自分の体重を結合部と両膝裏に感じ、堪えきれない呻き声が溢れる。もう、こんなの、耐えられない。 「綾波、外、見える」 「え、ああっ」 気がつくと、私は胸をガラス窓に押しつけるようにして碇君に貫かれていた。ズンズンと音を立てて碇君が、ああ、私をえぐっていく。 「ふぅぅうう、ああああ、なにを、あああっ、碇君、ああ、胸、冷たい…」 闇の中、私の頬が赤く染まっていくのが分かる。 見えるはずがない、それは分かっているけど、でも、万一窓の外の誰かに見られたら。遠くの街灯の明かりが、白い骸骨みたいに私の肌を白く染め上げていた。呼気で、窓が白く、染まって…。 「は、ああ、んんっ! あ、やぁ! きもち、ああ、ひぃ、いっ」 乱暴に突き上げられ、胸がひしゃげ、硬くなった乳首が乳房の中に埋没して――――ひぃぃっ! ああ、そして、ガラスが軋む音が私の心を凍らせる。ガラスが割れたら…それを思うと、心が惨めに萎縮、してっ。 これが、恐怖…? 「あ、はぁ、ああっ!」 体の中心に、大きな、大きな固まりがたまっていく。形を持って肥大していく。 碇君が私を私を犯すたびに、その度に、別人みたいに猛々しく。 「あはぁぁ、あふ、ううううっ、う、ああっ!?」 ふくらはぎが、また、痙攣する。 意識が、飛ぶ…。 あ…。 そのとき、なぜか私は、闇の中、よろよろとよろめくように校門に向かう小さな影を見つけた。見つけて、しまった。 や、山岸さん!? 見られる!? 私を、碇君を!? 待って、やめて、碇君、本当に今はやめて! 急いで隠れないと! 山岸さんは、校門を出る寸前、こっちを、私たちの方を見た。 遠くて暗くて、分かるはずないのに、でも、私は、ううっ、声が、あああ、ああっ、山岸さんは、確かに、目を見開いて、そして、そして……。 「ううう、綾波、いく、いく、僕、もう、もう!」 「あ、ああ、あんああっ! い、碇君、碇君、碇君!」 瞳を潤ませて私は、甘く喘ぐ。碇君に体重を預けたまま、必死になって腰を揺すって貪欲に快楽を求めている。 「綾波、凄いよ…。僕、もう、いきそうだよ」 「待って、待って、もっと、もっとなの、もうちょっとだから!」 「あ、綾波ぃ!」 「ひ、ひ、ひぃぃん! あふぅぅぅうぅ、い、碇君、碇君、碇君! 私、私、もう、もうダメぇぇ〜〜〜〜〜!!!」 引きつった山岸さんの顔を網膜のとどめたまま、私の頭が後ろに仰け反る。体内を白く染め上げる碇君の迸りに、伸ばされた爪先まで私の体がブルブル、ブルブルブルブルと痙攣する。濡れた髪の毛が碇君の胸に擦りつけられて、かさかさって音を立てて。カーテンを握りしめる私の手が、きつく、きつく。 溶ける、溶けていく。本当に私の心も体も全部。 「は、はぁぁぁぁ……い、碇、くぅん」 熱い迸りが体内に吹き出す。ゴポリと濁った音を立てて、泡混じりの愛液と精液の混合液が噴き出してくる。どこか生ぬるいその熱を感じながら、碇君は崩れ落ちた私の髪の毛をそっと優しく撫でさすってくれた。 極彩色の快楽に身を委ねる幸福感。大好きな碇君に抱きしめられるこの幸せ。そう、私、今幸せなのね。 優しく抱きしめる碇君に身を預けながら、ふと、外に目を向ける。 もう、誰の姿もなかった。 「い、碇君…」 「綾波」 鳥がついばむようなキスをしつつ、私たちは幸せな気持ちにはなれないでいた。 甘美な疼きに包まれながらも、私たちの心は晴れない…。 罪悪感と、そして、私は、最後に見た、山岸さんの顔を、見たから。 私は…明日、彼女の顔をまともに見る勇気は、ない。 終 初出2004/10/24
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