どうやら俺は記憶喪失になったらしい。
俺は今、自分の名前すら思い出すことが出来ない。 病院のベッドに寝かされているのだが、その俺を心配そうな顔で数人が見下ろしている。だが、その顔のどれもが俺にとっては見知らぬものでしかなかった。 「オヤジ……本当に記憶ないのかよ? 冗談じゃないだろうな??」 自分を取り囲んでいるうちの一人が、心配そうに表情を曇らせながら言った。 声には不安が滲み出ている。まるで、迷子の子供のようだ。 「残念ながら本当だ」 相手のことをまったく覚えていないことに罪悪感を抱きつつ、嘘をついても仕方がないので、正直に事実を告げた。 「俺のことも、当然、分からないんだよな……」 「うむ。大変申し訳ない。さきほど鏡で確認させてもらった自分の容貌と似通っていることから、自分と血縁者ではないかという推測は立てられる。また、『オヤジ』と呼ばれたことも考慮すると、自分の子供ではないかと察することが出来るのだが」 「記憶喪失になったっつーのに、その異常とも言えるほどの冷静な思考力は確かにオヤジのものなんだが……」 俺とよく似た容貌の少年・・・・・・ではなく少女は・・・・・・眉間に皺を寄せ悩み始めた。 どうすれば記憶が戻るのかを考えているのだろう。 「ほっときゃそのうち、記憶戻るんじゃねぇの? 脳の障害かと心配したが、言動におかしな点は見られないし、24時間以内には記憶が回復する一過性全健忘だと俺は思うぜ」 「ほっときゃ直るって! 匡、お前、自分の父親のことが心配じゃないのか?」 「記憶がなくても人は生きていけるだろ?」 自分の父親ということは、もう彼もどうやら俺の子供らしい。自分が記憶を失ったことで悲しんだり怒ったりと喜怒哀楽が激しい娘に対し、ずいぶんとクールな息子だ。 父親が記憶喪失でも、たいして動揺していないようである。 視線をめぐらせると20代後半かと思われる、端正な顔立ちの青年が立っていた。彼が自分の息子だというには無理があるので、おそらく俺の友人なのだろう。 青年には、隠しきれない気品が漂っている。金持ちの御曹司か・・・・・・いや、それにしては彼がまとう空気は鋭い。おそらく彼は生まれたときから人の上に立ち、そしてその責任を負えるだけの度量を持っている男なのだろう。若いながらも彼は、王者の風格を漂わせている。 「記憶が失っていることには驚いたが、目が覚めてよかった。誠司、君は三日前に車に轢かれて、それ以来意識を失っていたのだよ」 「……そうか」 車に轢かれてと言われたが、そのわりに外傷はほとんどない。おそらく轢かれたというより、車がかすった程度だったのだろう。上半身を起こすが、その動作にも問題はなかった。足も無事のようだし手にも損傷はない。頭には包帯が巻かれて少々痛んだが、耐えられないというほどでもなかった。 体を起こすと自分の足元にすがりつき、声を殺して泣き続ける少年の姿が目に入った。 少年はゆっくりと顔を上げ、濡れた瞳で俺の顔を見上げてきた。 目が合った瞬間、俺の体に電流のようなものがビリリと走った。 「ご、ごめん、なさい……。せ、誠司さん、俺を庇って……。き、き、記憶まで、お、俺のせいで……」 ……美しい。 少年の謝罪の言葉は耳に入らず、ただ馬鹿みたいにその美貌に見ほれていた。 泣き濡れた綺麗な瞳。果物の果実よりも甘く魅惑的な唇。滑らかな頬を滑る宝石のような涙。ほっそりとした白い首筋は、芳醇(ほうじゅん)な色香を放っている。 ……一体、なんだ? この生き物は。まるで美の女神の申子(もうしご)のようだ……。 俺は少年から一秒も目を離すことが出来なかった。 「おーい、オヤジ?」 「あ。なんかダメダメっぽい。二人の世界に突入しちゃってるぜ」 「三日ぶりの恋人との対面を邪魔しては悪いしな。私はそろそろ退散させていただくよ。誠司が意識を取り戻してほっとしたし」 「俺も退散するよ……。この調子じゃ、オヤジ大丈夫って気もしてきたしな。奨さん、お見舞い、ありがとな。親父に代わって礼を言うよ」 「これ以上ここにいたら、見たくねぇもんまで見ちゃいそうだしな。俺も帰るぜ」 三人が慌てて出て行く気配がしたが、それを見送ることもせず、ただ少年の美しい顔を眺めていた。 ドアの開閉する音がして、気がつけば病室には少年と自分だけが残されていた。 「誠司さん……」 少年の可憐な唇から、愛しそうに……おそらくは、自分の名前が漏れる。 耐えられなかった。 情欲の炎に突き動かされるまま、俺は少年を自分の体の下に組み敷いていた。 「あ、あ、あの、誠司、さん?」 少年は驚いた顔で自分を見上げてきた。泣き顔もたまらなく愛らしかったが、驚いた顔もカワイイ。 俺は当たり前のように少年の唇を奪った。逃げられないように少年の後頭部にしっかりと手を回し、深い口付けを施す。少年の唇の隙間に舌を差し入れ、思うままに蹂躙する。 少年の唇は甘かった。俺は夢中になってそれを味わった。 「あっ、いやっ……」 従順に口付けを受け入れていた少年が、下肢に手を伸ばした瞬間、俺の腕の中で抗った。拒まれて俺は哀しい気持ちになった。 ……どうして俺を受け入れない? こんなにも愛しているのに……。 記憶はなくてもはっきりと分かっていた。 気が狂いそうなほど、この少年を求めていると。 俺はこの少年を愛していると。 「なぜ嫌がる? 俺のことが嫌いなのか?」 「え? き、嫌いって……。好きに決まっているけど、でもここ病院だし、鍵かけてないし、誠司さんは怪我人だし、それに記憶だってないんじゃぁ……」 少年は手足をばたつかせて逃げようとしたが、俺はそれを許さなかった。 「俺たちが愛し合うことに、記憶など必要ない。愛しているんだ」 「誠司さん……」 俺の言葉に少年は抵抗を止めた。 「愛してる、愛してる。今すぐここで、俺にお前を与えてくれ……」 「誠司さんっ!」 耳元で愛していると囁くたび、少年の体から強張りが解けていく。それどころは少年は自分で自分のシャツのボタンを外し、その美しい素肌を俺の前に晒した。 「ふふ。仕方がない人……」 少年は淫蕩な笑みを浮かべ、俺にしなやかな腕を絡めてきた。 この瞬間、俺は少年の奴隷になった。少年の願いなら、俺はどんなことをしてでも叶えてしまうだろう。 俺を縛る鎖の名前は『愛』だ。 少年に許され、俺は少年の胸の突起を口で吸った。 「あんっ……」 少年は俺に上半身を愛撫されている間に、器用に自分のズボンと下着も脱ぎ捨ててしまった。そして剥き出しになった下半身を、俺の体に押し付けてくる。 少年はくすくすと笑って俺の寝巻きのボタンを外し、俺の胸に指を這わせた。 「……誠司さんの、匂い……」 うっとりとした表情で、少年は俺の肌に鼻を擦りつけてきた。そして俺のズボンの中に手を侵入させ、俺の昂ぶりに直接触れてきた。 少年の白魚のような指が俺のグロテスクな性器に絡みつく。俺のモノはとめどなく先端から透明な液を零し、少年の手を汚した。 「もっと気持ちよくしてあげる」 清らかな顔をした淫らな少年は、また笑った。そして毛布の中に潜り込み、俺の下半身にしがみ付いた。 「うっ……」 信じられない光景だった。 なんと少年はその可憐な唇に、男の性器を咥えていたのだ。 少年の顔を引き離すために伸ばされた手は、逆に自分の腰に押し付けるように少年の頭を押さえていた。少年の愛らしい唇が、醜い男性器をおいしそうにしゃぶっている。恐ろしく醜悪で淫猥な図だ。 少年の口淫は巧みだった。俺はあっという間に追い上げられ、少年の口の中に大量の液を注ぎこんだ。少年はそれを飲まず、口の中から吐き出し、自分の後ろへと塗りたくった。わざと俺に見せ付けるように股を開き、アヌスに指を激しく出入りさせる。恍惚とした少年の顔を、俺は息を呑んで見守った。 「ああんっ……。誠司さん……」 少年の口から俺を呼ぶ甘い声が漏れる。 俺は少年の体を抱き寄せ、自分の精液で濡れた少年の唇に唇を重ねた。そして少年の両足を肩に担ぎ上げ、後ろの蕾に熱い昂ぶりを押し当てた。少年の口中で果てたばかりであったが、少年の媚態に俺のオスはすでに硬さを取り戻していた。 少年は挿入が楽に出来るように、自分の蕾を自分の指で押し広げた。慎ましやかな蕾がわずかに綻び、緋色の内部がわずかに見えた。少年の内部は男を待ちわびるようにいやらしく蠢いていた。 「はやくぅ……。入れて……」 少年の催促の言葉に答えて、俺は少年に分身を挿入させた。少年の後ろはあまりにも小さく、本当に入るのか心配したが杞憂だった。少年の肉の輪は俺の大きさに合わせて徐々に広がっていく。 「イイ……動いてぇ……」 少年は俺の腰に細い足を巻きつけ、結合部を擦り付けるように腰を動かした。 俺は誘われるままに腰を激しく打ち付け始める。動くたびに結合部から濡れた音と、肉と肉がぶつかり合う音が部屋中に響いた。荒い呼吸音がそれに加わり、卑猥なハーモニーを奏でている。 少年は体をくねらせ頭を振って、強い快感を訴えた。俺が乱暴に動けば動くほど、少年の体は深い快楽に染まっていくようだった。 「ああんっ……イイ……!」 少年の内部は離したくないというように、ねっとりと俺に絡み付いてくる。少年の体は俺に例えようがないほどの悦楽を与えた。どうすれば男が悦ぶのか少年はよく分かっていた。少年は明らかに、男に抱かれることに慣れていた。 ここまで少年の体を仕込んだ過去の男たちに俺は嫉妬した。 灼熱の想いをぶつけるように、俺はよりいっそう激しく動いた。俺は少年の中で立て続けに三回イった。少年もその間に何度も快感の証を零し、少年の下半身は愛液で濡れそぼっていた。 「ダメぇ。……もう、死んじゃう……」 四度目を挑もうとしたとき、少年が音を上げた。それでも欲望を止められず、動き続けたら泣かせてしまった。 「いやぁっ……。これ以上はヤなのぉ……」 少年の泣き顔は色っぽく、なおさら煽られたが嫌われるのも怖いと思い、しびしぶ少年の中から引き抜いた。仕方がないから少年の泣き顔を眺めながら、右手で擦って少年の白い腹にぶちまけた。 「体力なくてゴメンね。その代わり……」 少年はけだるい仕草で身を起こした。そして俺を仰向けに寝かせ、体を反転させて俺の体を跨いだ。ちょうど目の前で、少年の形よい尻を見ることが出来るような体勢だ。絶景である。 少年は俺のモノに舌をそっと這わせた。少年はひちゃひちゃと音を立てて舌を動かし、俺のモノを愛撫した。少年の舌先で刺激され、天を仰いだ剛直を少年は咥え込んだ。 「んっ……んんっ……」 今度は少年は、俺の出したモノを飲み干した。最後まで搾り取っても満足せず、少年は俺の性器をしゃぶり続けた。 少年の顔が見えないことを寂しく思い、その寂しさを埋めるように、俺は少年のアヌスに舌を這わせた。強すぎる刺激は厭(いと)われるかと考え、俺は舌で穴の周りだけを舐めるのにとどめた。 今は閉じられた少年の蕾から、ぽたりぽたりと俺が放ったモノが垂れている。少年の内部で自分の精子が泳いでいる場面を想像する。少年の中は、ずいぶんと住み心地がいいに違いない。 漏れていくのがもったいなくて、俺は指で栓をした。 指を入れただけで動かさずにいたら、少年は焦れたように自分から腰を動かした。 「ちょっと休んだから、もうへーき。もう一回したいな……」 少年は年相応の照れた笑みを浮べた。 もちろん俺は、少年の望みどおり、少年の内部に自身の昂ぶりを埋めた。向かい合って座るような格好で、俺たちは繋がった。 俺が下から突き上げると、少年は俺の動きに合わせて腰を揺らめかせた。 ベッドは壊れそうなほど大きく揺れ、ぎしぎしと軋んでいた。 「はあっ……! イイ……っ! スゴイ……!」 少年の感じている顔に満足しながら俺はイった。それと同時に少年も先から少量の液を吐いた。 俺たちはその体勢のまま、しっかりと抱き合ってキスを交わした。 「……もう一度いいか?」 キスの合間に囁くと、少年は驚いた顔をした。 「え!? ま、まだするの?」 「すまない。どうやら俺の体は、いくらでもお前が欲しいらしい……」 「ううううう……。いや、でも、マジで壊れそうなんですけどぉ……。素股じゃダメ?」 「分かった」 少年があまりにも疲れていたようだったので、仕方なく承知した。四つん這いになってもらい、背後から少年に覆いかぶさった。 両足をきつく閉じさせ、太ももの隙間に欲望を押し込んだ。少年の内股の柔らかい肌の感触を愉しんで二度イった。その後、耐え切れずに少年のアヌスに挿入してしまった。怒られるかと心配したが、少年が促すように腰を振ってくれたので、俺は安心して動くことが出来た。 「ひぃんっ……はんっ……んっ……」 少年はきゅっと後ろを締め付けながら、腰をゆらゆらと動かした。背後から手を伸ばして乳首からわき腹の辺りを撫でると、少年は切なげに身を振るわせた。 「……綺麗だ……」 俺はうっとりと囁き、少年の耳の後ろにキスを落とした。 いまや少年の体は俺の精液にまみれている。所有権を主張できたようで、俺は気分がよかった。 ……誰にも、渡さない……。 少年に対する独占欲が、心の奥から湧き上がってくる。 「あっ……す、好き……。誠司さん、好きぃ……」 「くっ……!」 少年の最奥に熱い情熱を注ぎ込みながら、俺は少年の名を思い出していた。 「優也……!」 少年……いや、俺の恋人である優也は、幸福そうに微笑み、体を捻って俺の唇に唇を重ねたのだった。 「……という夢を見た」 「……………」 「どうした、優也?」 いい夢を見たと言った誠司に、どんな夢だったか聞きたいと好奇心いっぱいに尋ねた優也は、後悔という二文字を顔に貼り付けていた。 「いろいろツッコミどころのある話だけど……。どこからツッコンだらいいか分からないっつーか。なんかあり得そうな話なだけに怖いっつーか……」 優也は深々とため息をついた。 「でも、なるべく記憶は失くさないでね。誠司さんに忘れられたら、俺、寂しいから」 恋人の言葉に誠司は真面目な顔で頷いたのだった。 完 |